第223話 いつ終わる?
俺が錬成陣で魔石の属性変化をやってしまったのが運尽き。サラがそれに興味を持ってしまい、それからという物、俺から魔石を色々と出させて属性変化を練習し始めた。
ホーンラビットぐらいの魔石なら変化はそう難しくないのだが、オーククラスに成るとやはり魔力量も多いので属性変化をさせるのはそれなりの集中力と魔力量が必要らしく、上手く行かない。
サラがそれに夢中になっているので、俺は魔法を使って魚(魔魚)を捕獲してレベルや食用かなどの調査をせっせとしている。
「サラ、そろそろ休憩しないと魔力が持ちませんよ。それに予定は3日もあるんですから、そこまで根を詰めなくても……」
「そうですね。でもユウマさんが研究に没頭する気持ちが良く分かりましたよ。やれる事が増える、知識が増えるこんな楽しい事はないですね」
確かにサラは俺と出会ってから、出来る事が増えたし、物凄い量の知識を吸収している。元々が瀕死の状態で生きることを諦めていた人だからこそ、他の人より貪欲なのかもしれない。
「一度島に戻って休憩しましょう」
「海岸の砂も調べてみたいので丁度いいですね」
まだ、調べるつもりかよ……。 それじゃ休憩にならないだろう?
島の海岸に戻って休憩と昼食を済ませたら、飛行船が無いのでテントを設置しようと思ったが、サラの研究魂に火が付いているので、研究がやり易いように、土魔法でトーフハウスを作ることにした。
ついでに実験も出来るから一石二鳥だ。トーフハウスには魔石の入った砂が使われているから、この壁に硬化の魔法を付与したらどうなるか確認出来る。
「成る程、元が砂だから普通の土で作るよりは強度がないが、そこに硬化の付与をすると、まるでコンクリート並みだな」
これは応用が利くな。元々強度のあるレンガに混ぜれば付与で強度が上げられるし、モルタルもどきにも使える。
「あ! これって、魔石の合成と同じことか!」
「ユウマさん、何か分かりましたの?」
俺はサラに魔石の合成と同じ効果があることを説明した。例えば耐火煉瓦に魔石を合成するのはひとつずつなんて大変だし面倒だけど、耐火煉瓦を作る時か普通のレンガを作る時にこの砂を混ぜて作れば、形さえ出来れば付与でどうにでもなるという事。
普通のレンガを付与で耐火煉瓦のように使うことが出来るか、耐火煉瓦の耐火温度を上げることが出来るかも知れない。
多分魔法でも俺なら耐火温度を極限まで上昇させる付与も出来るだろうが、それでは普通の人が使えない。付与の習熟度があって魔力量が多ければ出来るようになるだろうが、それにはレベル上げが必要になる。
だが、この砂を混ぜる方法ならそこまでの技量は必要ないと思う。付与術としての魔法と属性魔法としての魔法も考えられる。
付与術が使えれば土属性の魔法を使えなくても付与で硬化させられる。そして土属性を持っている人は土魔法として硬化させられるし、恐らくその時の消費魔力量が減る。
「ん~~~ ユウマさんの今の説明を聞いていて何か……、ここまで出てきてるんですが…………、あ! それって土属性持ちの人が付与術を覚えたら、魔石に関係なく鉱物や土で出来ている物なら硬化したり、色々と出来るという事では無いですか?」
「ん~~、サラの言いたいことは分かるんだけど、それって少しおかしいような? サラの考え方とは違って、土属性の人は鉱物を硬化出来ると考えた方がシンプルなんだよな。ただサラの言う事も間違ってはいないと思う。土属性の人は普通に硬化や鋭利には出来ても、付与術を使わないと腐食防止などは出来ないと思う」
二人で、ん~~、の応酬。研究って一人でするよりこうやって複数でやると考えが深まるな。
俺とサラがこんな状態の時、森の調査をしていたフランクにも変化が起きていた。
「ん~~~、何でだろう?」
「どうしたんです? フランクさん」
「いや、この島の植物や魔物を鑑定していたら、なんだか以前より内容が詳しくなったように感じるんだ。ユウマに鑑定のスキルにはまだ伸びしろがあると聞かされたから、そう思えてるだけなのかもしれないけど……」
「フランクさん、それなら私を鑑定してみてください。人物鑑定すればまた違った事が分かるかもしれませんよ」
「そうだな、一度やってみるよ。ミランダ鑑定させてもらうよ」
フランクがミランダを鑑定したが、一言も発しないし、ただ目を細めている。
「フランクさん! どうなんです?」
「あ~ ごめん。それがいつもの称号までは良く見えるんだけど、その下に何かあるようなんだけど、良く見えないんだ」
「それって、ユウマさんが言っていた数値の事じゃないですか?」
エマが俺の教えた能力値について思い出して、フランクにそう告げた。
「それか! 確かにユウマがそんな事言っていたな」
フランクのこの変化は恐らく、この島に来て原種や新種の情報が一気に入った事とユウマから鑑定のスキルについて学んだことが影響しているんだろう。だがそれでも習熟度がまだ足りていないから、薄っすらとしか見えないという現象に成っている。
「フランクさん、それもやっぱり習熟度の問題じゃないでしょうか? ユウマさんの話にもありましたよね、習熟度が上がれば出来る事が増えるって」
「多分そうですよ。フランクさんは錬金術のスキルも発現していますが、魔力量も私より多いのに錬金術で作れるものは私より少ないです。こう言ったらなんですが、経験値が違うからだと思うんです」
ミランダからの鋭い突っ込みにひるみながらもフランクは。
「そうだな。経験値は全く少ないな」
「別に攻めている訳じゃないんですよ。経験値という考えからいうとフランクさんが鑑定をあまり使っていないのではと思ったからです」
ミランダにそう言われて、フランクは最近の自分を思い返してみると、殆ど鑑定を使っていないことに気づいた。若い時は珍しい物、新しい物に執着するぐらい貪欲に知識を吸収していたから、鑑定のスキルが発現し、その後も鑑定で分かることが楽しくて使い倒していたのに、ある時を境に使う頻度が減って行った。
そう鑑定スキルがグランに追いついたから……。長年かけて見えるものが多くなったグランの成長が止まった事により、それが限界なんだと無意識に自分にブレーキをかけ、鑑定をする興味が無くなったのだ。
ただ、最近はミランダの化粧品の開発やエマのアクセサリーの開発に鑑定スキルで協力していた。そこにユウマの話や島の物が刺激に成って鑑定スキルが成長し始めてるのかもしれない?
「ミランダ、エマ、ありがとう! 君たちの言う通りだと思う。経験値、それが足りない。そうと分かれば使いまくってスキルを成長させるぞ!」
フランクがやる気になったのは良いのだが、そこからの調査が一向に進まない。見えるもの全てとは言わないが、それに近い程鑑定しまくるから速度が遅い。見かねたミランダが、自分とエマが見たことないと思う植物以外の鑑定を止めさせて、漸く速度が少し上がった。
それでもこの島は異常だから、ミランダ達が見たことない植物が多く生息してるので、ポーション作りや化粧品作りに興味がある錬金術師の二人も鑑定して貰いたいから、そこまで早くはならなかった。
それプラス、南国特有の果物も生息してるから、その都度採取と味見までするのだから……。
一方残る一組のロイス達はというと……。
「もう島が見えなくなって大分たちますが、何も発見できませんね」
「そうですね。今までは進路を島から真西にとっていましたから、太陽が沈んだら方角を南東に進んでみましょう。そして夜が明けたら今度は方角を北東に変えて日没まで進んで、日没後に西に進路変更という計画で行きましょう」
「ロイスさん分かっていると思いますが、最後の進路変更は西というより、ユウマさんと決めた星の形が目標ですからね」
コンパスはあってもまだ羅針盤はないので、出発前夜、ロイスとローズにコンパスで島から真西に見える星座を覚えさせた。
この世界に星座など存在しないが、偶々西の方向に一等星があったのでそれを中心にこの世界にある物で似たものを連想させ仮の星座を作った。
夜のうちにその方向さえ確認出来れば後はコンパスを頼りに進むだけ。そうすれば多少のずれはあっても島には帰ってこれる。
いずれは天体観測もして、将来的に天測航行が出来るように六分儀も作らないとな。
世界地図と正確な時計が出来ればコンパスだけでもなんとかなるだろうが、地図が無いのだから、天測航行が今の所一番安全。
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