第225話 奇跡?

「サラ、少し落ち着こうか。簡単に付与というけど、どんな魔法を付与するか決めてからやらないと、もったいないよ。まして本当に付与出来るかも分かっていないんだから」


 真珠に属性があるとは言ったけど、魔石ではないんだから魔石と同じことが出来るとは限らない。


「大丈夫ですよ。ユウマさんがお昼寝してる間に貝は沢山獲ってありますから」


「はぁ! ちょっと待って、一人でどうやって? ボートは出していないよ」


「それはですね。岸から身体強化でかごを投げて紐で回収を繰り返したんです。身体強化すれば意外に遠くまで飛ばせましたし、この島は貝が豊富なんでしょうね。それで十分取れましたよ」


 何という身体強化の使い方。欲望のなせる業なのか? どう考えても貴族令嬢のやる事じゃない。


 まさか投げる時に「おりゃー」なんて言っていないよな……。それはそれでギャップ萌え?


「沢山あるという事は分かりましたが、真珠を獲った貝はどうしています?」


「貝ですか、それなら真珠の取り出し方が分かりましたので、取った後は海に返しましたよ」


 な! なんと前世でも養殖の時に核を入れる時は貝を少し開けて入れるから死にませんが、真珠を取る時は完全に開くから貝は死ぬのに、どうやって生かしたまま真珠を取ったんだろう?


 その後、サラからやり方を詳しく聞いたら俺は驚愕した。なんと!それは手術と同じでした。貝を少し開いて、魔力感知で真珠の位置を特定して、そこに少し切れ目を入れて真珠を回収、最後に初級ポーションで切れ目を修復するという方法だった。


 真珠に属性があるから魔力感知を使う事もそうだが、ポーションまで使って修復するという応用力。サラも凄く成長してるんだな。


 正直この時俺は思ったよ。俺なら多分普通に前世と同じ方法しかやっていないと……。


「サラ、これはじっくり研究する必要のあるものですから、焦ってはいけません。ですから今回は一つだけ付与出来るかの実験をして、この島では研究は終わりにしましょう。他の皆さんももうすぐ帰ってきますから」


「そうですね。先ずは真珠について研究するのが先ですね」


 先ずはそこなんだよ。属性があるのは分かっているが、真珠が魔石と同じことが出来るのか? 逆に真珠じゃないと出来ないことがあるかもしれないから、それを調べないといけない。


「そう言えばサラ、この真珠以外に貝には魔石は無かったのですか?」


「ん~~、多分なかったと思います。魔力感知に一番反応したのが真珠でしたし、それ以外にはちょと反応はありましたけど、何か所もありましたから魔石ではないと思います」


 成る程魔力の溜まっている場所が何か所もあれば魔石ではないだろう。人の体でもそういう個所は確かにあるからな。


「そうすると、この貝もスライムと同様に魔石のない魔物という事に成りますね」


「あ! そうですね。スライムの核も魔力はあるけど魔石では無いですから、それだとこの真珠も付与は出来ないんでしょうか?」


 そう思えるよな。でもこの真珠は核と違って属性がある。そこに何かあると思うんだけど、何かが分からない以上兎に角付与を試すのが第一歩だな。


 どんな魔法を付与するのが良いだろうか? 真珠と言えばアクセサリー、人が身に付けるもの。身に付けるで一番に考えられる魔法は防御魔法だから結界? 毒耐性、物理耐性、魔法耐性……、属性……。


「取り敢えず、毒無効を試してみるか。何か分からんが直感的にそうしろと言われているように感じる」


「毒無効ですか? それが出来たら物凄い事ですよ」


 そうなんだよな。エマが結界魔法の応用でそれに近い事は出来るようになっているが、あくまで毒物が結界内に入れないというやり方だから、食べ物を結界の近くまで運んで初めて弾かれるという効果。


 しかし、毒無効の魔法だと毒であろうと食べても毒として働かないという事だし、他にも毒蛇のように毒を持つ魔物にやられても毒の効果が無いという事だから、常時発動してるという事に成る。魔力を通して一時的に発動するという物ではないという事が物凄い事なんだよな。


 それじゃどの色の真珠に付与しようかな? そう考えたと思ったら、俺の手は真っ直ぐピンクがかった色の一際大きな真珠に向かっていた。


「ユウマさん、なぜその真珠なんです? 大きいですけど白でも桃色でもないような真珠を選んでますけど」


「いや、なんて言ったら良いか分からないけど、直感? これが良いなと自然に思っただけなんだよ」


 正直自分でも分からないから、こんな返事しか出来なかったけど、決めた以上はその真珠に付与してみよう。


 毒と成る物全てが、この真珠を持っている人に効かないイメージをしっかり固める。それから魔法を付与しようとした時に、一瞬だが俺の脳裏に毒無効って状態異常無効と、どう違うんだろうという思考が働いた。


 その瞬間! 魔法が発動、魔法陣が現れて真珠にその魔方陣が吸い込まれていった。


「ユウマさん、成功したんですか? 物凄く真珠が光ったように見えましたから」


 魔石に付与する時も同じような現象が起きる。俺には魔法陣として見えているが、他の人には光って見えるそうだ。今回もそれと同じ現象が起きたから、サラが成功かと聞いてきた。


 サラが疑問形で聞いてきたのには理由がある。光り方が尋常じゃなかったからだ。


「多分、成功だと思うよ。それじゃ一応鑑定して確認してみようか」


 俺の返事が曖昧になった理由もサラと同じように異常なことがあったからだ。それは発動時の魔法陣がいつもに比べて以上に大きかったから……。


 それでも確認のために、俺が鑑定EXを発動した。その時……。俺は言葉を失った。


「ユウマさん、どうしたんです? 私にも見せてください」


 俺が真珠を持ったまま動くことも言葉を発することもしない、ただ茫然としていたのを見て、サラが俺の手にある真珠を奪う様に取り上げて、自分も鑑定眼鏡で鑑定した。


 そこには、{この真珠を身に付けている人はあらゆる状態異常が無効になる}と表示された。


 サラの鑑定ではこの表示だが、俺の鑑定EXでは更に詳しく表示されていた。物凄く詳し事が表示されているが、物凄く簡単に言うと無敵で健康だという事。


 人の体の状態異常というのは物凄く範囲が広い。怪我や病気も状態異常と言えるし、毒や麻痺、石化なども当然状態異常、強いて違うと言えるのは老化ぐらいだろうか?


 何故そう思ったのかは、俺の鑑定にも老化の事については表示されていなかったからだ。老化は自然の摂理だから異常とみなさないというのが道理だと思う。


 只そうなると、化粧品などによる効果はどう判断されるんだろう? 老化抑制の化粧品が発売されたばかりだ。自然の摂理の老化を捻じ曲げているからこれも状態異常になるのか?


 それにしてもこれは超ヤバイ物だ。絶対封印するべき物。こんな物絶対に世の中に出せない。国宝級どころか神級の代物だよ。


 今思えば確かにこの魔法付与の時の消費魔力は異常に多かった。俺の現在の魔力量の8割は使ったと思う。一度の魔法でこんなに消費したことは今まで一度もない。


 正直イメージさえしっかり出来れば現状普通の屋敷ぐらいなら、一度の魔法で出来る自信はあるが、イメージが完璧には出来ないからやらないだけだけど、それをもし実行したとしても多分俺の魔力量の半分も使わないと思う。


「ユ・ウ・マ・さ・ん……。これはいったいどういう事でしょう?」


「どういう事と言われましても……」


 サラのあまりに冷たい目線からの質問に、思わず敬語で答えてしまった俺だが、どう説明したらいいのか迷ってしまい、それ以上は答えられなかった。


 何故こうなったのかは何となく分かる。状態異常について考えたのは事実だから。でも一瞬であってイメージしたと言えるものでは無かったはずなのにこうなった。


 これってもしかして神の悪戯?


 以前フランクから聞かされた俺を鑑定しなかった理由と良く似ている。何となくするなと言われているみたいだったの逆で、今回はこれにしろと言われたように真珠を選ばされた。


 普通なら一瞬のイメージぐらいでは魔法に影響はないはずなのに、今回はそれが奇跡のように発動して、神級のアイテムが出来てしまった。



 神の奇跡? 嫌々、どう考えても悪戯だろう……。








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