第280話 冒険に行けない

 講義後の行動は、意外な物だった。自由行動をして良いと言ったのに、皆でこれからどうするか話し合いを始めてしまったのです。


「それでどうする事に決まったんですか?」


「先ずはこの島の事を皆で知ろうという事だ。原種の事、此処にしかいない魔物について、真珠について、ダンジョンについて、ミスリルについて、兎に角全部知識にしようという事に成った。その後俺達に何が出来るか個人でも全体でも話し合えば何か見えてくるかなとな」


「大まかにはそれで正解だと思いますが、もう一つこれからはそれに必ず国や政治も付け加えて考えてください。皆さんは男爵なんですから。領地は持ちませんが国全てが自分達の領地だと思ってください」


 これからは彼らが国や世界を変えて行く、だからこそ、それが何時も視野に入っていないといけない。俺がこの世界の文明を進歩させる時にいつも考えていたことだ。世の中に出して良い物かそうでない物か? 時期を見る感覚、色んな視点から物事を見る習慣、全てこれからそれを養っていって欲しい。


「それじゃ後の事は皆さんで考えてやって下さい。俺達はちょっと出かけてきますので」


「おい! ユウマ俺達を置いて何処に行くつもりだ? それにダンジョンの場所も聞いてないぞ」


 おぅ! そうだった。 ダンジョンの場所もそうだけど、あそこには普通の方法では入れなかったんだった。どうするかな? エマなら少し練習すれば結界魔法の応用位は出来るように成るだろうが、女性にだいの男が抱えられて行くのは流石に見た目的にシュールだよな……。 フランクが抱えられてるところを見て思いっきり笑ってやりたい気持ちはあるがそれは止めておこう。


 しかし本当にどうしよう? 階段なんか付けたらスタンピードの時溢れた魔物が階段を使うとも限らんしな。


 え~~い、めんどくさいけどトンネル掘って通路を作るか、その出入り口を大きな岩で塞いでおいてマジックバッグで出し入れすれば何とかなるか? タルパもトンネル掘ってるぐらいだから何とかなるだろう……?


「ダンジョンの場所は教えますけど、場所が特殊なので今から教えます。そのついでに土魔法の使い方というか、トンネルの掘り方を見せますので、イメージを覚えてください。使えるようになる人もいるかも知れませんから」


 旅の話は今するより、ダンジョンを見せた後の方がフランクには効果があるだろう。戦闘狂にはそちらに興味が行ってくれた方が、俺達は旅立ちやすい。


 テレポートは見せても良いのだが、出来るなら転移陣から自分達で発想して欲しい。少し出発は遅れるけど、全員は無理でもフランクとロイス位は最深部の転移陣まで連れて行くか。そうすれば次はフランク達が皆を連れて行くだろう。


 それにダンジョンには行き止まりの通路がまだまだあるからな。一度最深部に行っただけでは飽きることもないだろうしね。宝箱で釣ればフランクならホイホイ行くだろう。


 ただな~~~一つだけ気に成っているのが、ダンジョンは生き物だから、多分最深部は変わっていると思うんだよね。そこもちゃんと教えないといけないよな。フランク達の今の実力ならそれ程危険ではないと思うけど、潜るたびに危険度は増すから、オークのレベルが少し上がるぐらいなら良いけど、食肉ダンジョンだからミノタウロス辺りが出てくると苦労するかもしれない。


 オーガの集落でも大丈夫だったけど、ミノタウロスはデカいからな……。


 ダンジョン探索が決まったので、急ぎ準備して、皆で走って向かいました。走ると二時間ぐらいかかるんだよね。あぁ~~早く冒険旅行に行きたいよ~~。


「到着しました。ここにダンジョンがあります」


「ここって以前の調査でこれなかった場所ですね」


「そうです。ミランダさん達が調査できなかったところを追加調査した時に見つけました」


「それでそのダンジョンは何処にあるんだ? この周りにはそれらしきものは無いぞ」


「フランクさんこちらに来てください」


 俺はフランクをダンジョンの入り口が見える崖の端に来るように言って、そこから身を乗り出させて入り口を見せた。


「な! 何ていう所に入り口があるんだ。あそこまでどうやって行けというんだよ?」


「だから言ったでしょ。特殊な場所にあると。あの場所だからトンネルなんですよ」


「でもユウマさん、それなら前回はどうやって行ったんですか?」


 わぁ~~油断してた。当然そこに気づくよな。今回トンネルを掘るという事は前回は別の方法だと……。やばい! ましてそれを聞いてきたのがエマだ。


 サラの方を見るとあぁ~あと言うような顔をしている。サラとエマは仲が良いから、エマが結界好きなのは知っている。前回の結界を応用した空中歩行なんて見せたら、この前の精米の結界魔法より食いついてくるぞ。


 一時は教えてもという考えはあったが、トンネルを掘ると決めたら教える必要もないかと選択肢から外したから、すっかり忘れていた。トンネルと空中歩行の両方はやりたくない。でも誤魔化しようがないんだよな。代わりにテレポートでも良いけど、これもめんどくさいことに成りそうで今は嫌だ。


「それじゃトンネルを掘りますね。エマさん前回の方法はサラから聞いて下さい」


「あ! 逃げた。あなた――」


 サラの小言を無視してここは逃げの一手とばかりにトンネルを掘り始めた。トンネルは斜めに掘るので今の場所から少し離れて掘り始めましたからエマとサラからも離れられるので、一時的かもしれないけど追及は逃れられる。


 そうはいってもトンネル掘りなんて俺にとっては朝飯前なので、あっという間に終わってしまった。


「相変わらずユウマお前の魔法とアイテムボックスは異常だな」


 そうだよね掘るのにも魔力を相当使うし、掘った土を固めても残る分はあるからそれを全てアイテムボックスに次から次へと入れて行くんだから見てる人には異常に見えるよね。普通は掘って固めるまでは何とか出来ても、残った土は運び出さないといけないからね。


 しまった! トンネルを塞ぐ岩を用意していない。今戻ったらサラの小言が待っているだろうし、エマの追及も……。まぁスタンピードでも起きない限りこんな入り口付近に魔物も出ないから今は良いか……。


 しかしこのままサラ達を残したままにするのも拙いから、呼んできてもらうか。


「ローズさん申し訳ないけどサラ達を呼んできてもらえますか?」


「良いですよ。でもユウマさんもうちょっと上手くやらないとサラ様に嫌われますよ」


 見抜かれてる――。まさか他の人も……。わぁ~~視線が痛い。嫁に面倒事を投げるなんてと言う目だ。でもあそこでエマの追及は本当に面倒で時間を使ってしまうからしょうがないじゃない。確かにサラにお願いしたのは申し訳ないけど、現物を見せるより説明だけの方がエマの追及が軽いのは明らかなんだから、魔法を知っているサラにしか頼めないのよ。


「善処します」


「で、ユウマここがダンジョンなんだな」


「はいここが食肉ダンジョンです。そしてダンジョンと言う魔物です」


 俺がそういうと皆は何を言っているんだという顔に成ったけど、そのまま説明に入った。全て話し終える前にはサラ達も到着していたので、睨まれながらの説明だったが何とかダンジョンは生き物だという事は説明できた。


「ユウマ何でその事を講義で言わなかった?」


「言っても信じないでしょ? それだったら現物を見せながらの方が良いと思ったんです」


 はい嘘です。ただ忘れてただけです。自分でも何で言い忘れたのか分からない。恐らく前世ではそれが常識だったし、前回の調査でそれが真実だと納得できたし、もう俺の中ではそれが常識に成っていたから、説明し忘れたんだと思う。だけどダンジョンでフランクを釣ろうとした段階で色々思い出したんだよ。


「あなた!」


「ユウマさん!」


 やっぱり来たか。このままスルーは無理だよね。ここは素直に


「ごめんなさい」


「あなた次はありませんよ――」


「ユウマさん、いくら私が結界好きでも時と場合は考えますよ。それにそれをサラ様に押し付けるなんて男として情けないですよ」


 時と場合を考えないから逃げたんですけど……。ここでそれを言うのは火に油を注ぐようなものだから言いませんけど、自分の事って本人は気づかないもんなんだよね。


「はい申し訳ありません。以後気を付けます」


「それはそれとして、後できっちり教えて貰いますからね」


 魔法はイメージなんだから自分で何とかしてよ……。俺は心の中でそう思ったが決して口には出さなかった。これ以上サラとエマの機嫌を損ねるわけには行かなかったから……。


 元々一時しのぎだとは思っていたからしょうがない。結果ダンジョン探索の後エマに空中歩行を教える為に出発がまた遅れた。


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