第279話 三度目の島
学校建設関係が終わり、後は教師や従者が来るまでの間、島で過ごすことにし、俺は三度目の島に向かった。今回の島訪問はそれぞれ回数が違う、始めての訪問から三度目迄いるからちょっと大変かなと思っている。
やりたい事、見たい事などがそれぞれ違ってくると思うから、それをどうするか? いっそのこと自由行動にする? 嫌、流石にそれをするとバラバラになり過ぎるし、折角島に来たんだから成果は何か出したい。
本当なら島に彼らを残してサラと二人、新婚旅行という名の冒険に出るつもりだったが、ひと月経ったらユートピアに戻らないといけないから、このまま出掛けることが出来なくなったのでこんな事で悩まなくてはいけない。
そうだ! どうせ全て丸投げにするんだから、この際前世関係以外の秘密を全て暴露して責任を全て押し付けよう。公表するかしないかの判断を彼らにさせるようにすれば俺は関係なくなる。サラのやった金色の真珠とか以前作った国宝級の真珠の付与の事も全て話してしまえば良いのだ。
他にもあるな、魔石の属性、魔石の属性変化、魔石の合成、真珠の色の関係、他にも沢山ある。ミスリル銅線、スライム銅線、ミスリルの人工製造、この際だから魔力と寿命の関係も全て暴露しよう。ロイスにはショックかもしれないが魔物との感覚共有もこの際教えてしまおう
今回学んだじゃないか、隠すから引きこもれない。隠さなければ周りが隠してくれる。正直ちょっとうんざりしてるんだよね。ひとりで思い悩むのに……。
文明を進め過ぎないようにとか考えるのに疲れたんだよ。あれ程前世で読んだラノベのようにしてはいけないという気持ちにね。魔動車良いじゃん作れるなら作れば。そろばん、それぐらい何の問題もないよね。複式簿記だってどんどんやれだよ。
流石に銃や大砲は止めようとは思うけど、そういう物じゃなければどんとこいだ。もう自重何て出来るだけしない。
どうせ教えても出来ない物もある。魔力やスキルの習熟度、魔法のイメージ力、俺の鑑定EXのように魔方陣まで解析できないなら魔法陣だって研究しないと彼らでは限度がある。
決してやけくそになっている訳ではないのですよ。これからの目標が大陸ではなく世界に成っているから、この大陸の問題をなくしたい。問題というか俺がいなくてはいけない状態を解消したいのです。
お? 今回は色々考えていたけど口には出ていなかったようだ。サラが反応していない。島に着いたら特別講義の時間を設けよう。それが終わったら自由行動で良いだろう。もう自分達でやりたい事を考えられるように成っているから、後は任せよう!
島に到着しての俺の第一声
「初めての人は色々分からないことがあると思いますが、島の探索はこれからやる俺の最後の特別講義の後にしてもらいます。他の人も同様ですが、講義の後は自由行動にしますので、好きに自分達のやりたいことをやって下さい」
「ユウマ、最後ってどういう意味だよ?」
「良い質問ですね。その意味は今回を最後に俺から皆さんに教えることはないという事です。これからは全て自分達で決めて自分達で研究して行って下さい。それに必要なことは今回の講義で全て教えます。言うなれば俺もこれからは皆さんと同じ立場に成るという事です」
「そこまで言われるという事は、内容的に凄い事のように思うのですが、それを私達に話して良いんですか?」
「もう大丈夫ですよ。皆さんはこれまで賢者候補とか見習いと言われてきましたが、その域はもう過ぎています。皆さんは賢者と呼ばれておかしくないのです。その締め括りがこの講義です」
物凄くカッコ良く言っているが、本当は丸投げする為の講義なんだよね。こう言った方が皆もやる気に成るだろうと思ってかなりアレンジしてみました。
「そんな~~ もっと色々教えてくださいよ。まだまだ私は未熟ですよ」
「何を言ってるんですか、ミレーヌさんも自力で錬金術発現させたじゃないですか。今度ユートピアに戻ったらやることが沢山ありますよ。それに男爵に成るんですから自信をもって。従者も付くんですよ」
「そういう事なら先ずはその講義を聞いてからまた話そうぜ。今どうこう言っても始まらないからな」
「そうですね。突然の事ですから戸惑うのも分かりますから、フランクさんの言うように先ずは講義を聞いてから考えてください。ただ、気持ちだけでもこれが最後なんだと意識して聞いて下さい」
それからの講義はサラにも手伝ってもらって、今まで秘匿していたものや研究途中のものまで、仮説を含めて全て教えた。その他に可能性についても最後に仄めかして研究意欲を刺激した。
実に講義が全て終わったのは一週間後。その間は質問も受け付けたし、議論もした。それはもう研究者の集まりの論文発表会のように成っていたね。まぁ論文を発表するのは俺だけだけどね。
「あなた、本当に良かったんですか? あそこ迄話してしまって? 夢の本の内容にも一部触れていましたよ」
「良いんだよサラ。いずれそこまでの研究はしてもらわないといけないんだから、その為のヒントを与えたんです。今の学校ってスキルを発現させることが中心だけど、これからはスキルを発現させるのは学校じゃなく卒業生たちが教えて発現させていく形に変わって行くでしょ。現実的にもうエスペランスでは始まっています」
「それじゃ学校はどう変わって行くんです?」
「それももう変わってるじゃないですか。普通科、魔法科、冒険科とね。これもいずれはそれぞれが学校に成って行くと思いますよ。そうすると、その上の学校が出来るんです。スキルや魔法だけじゃなく職業スキルで研究をする人も出てくる。実際今ここにいる人達がそうでしょ」
ここにいるメンバーには色んな職業スキルを持っている人たちがいる。その中には既にダブルやトリプルのスキル持ちもいるし、それに必要なレベルも持っている。こんな人に成りたいと思う人が増えれば当然上の学校、大学のような物が出来る。
「確かに私は途中からしか知りませんが、ラロックはどんどん変わりましたね。拠点から始まって学校が出来、病院も出来てという流れは聞いています」
「拠点だって変わってるでしょ。鍛冶職人とガラス職人、錬金術師が協力してシャンデリアの魔道具を作っている。サラの実家の物を作った時は個別に頼みましたが今では違うでしょ」
錬金術も変わってくるというか、錬金術師と薬師の垣根は取り払われてくると思う。この間考えたポーションに鎮痛効果の薬草を混ぜたらどうなるかとか、ポーションに治癒魔法を付与したらどうなるかなどね?
他にも今回の講義でもいったけど、レンガやモルタルに魔石の粉を混ぜたら付与魔法や魔法の効果が上がるとかもあるね。これは陶器やガラス製品でも同じ。
付与魔法の支援的使い方も出来るようになるかもしれない。理論上は出来るはず。治癒魔法は人体に魔法を掛けているんだから、これと同じだと思えば、身体強化や物理耐性などの魔法付与は出来る可能性がある
「昨日で講義は終了しましたが、今の心境はどうですか? 始める前と変わりませんか?」
「嫌なんて言うか、物凄く驚くことばかりだったんだが、よく考えると俺達が今まで学んできたことの延長線上の事なんだなとは思ったな」
「ニックさんとも話したんですけど同じ薬師として医者が最終地点ではないと思いましたね。薬師から医者を目指すも良し、薬師と錬金術を極めて薬師の一つ上のランクを目指すのも良いなと思いました」
「ガーギルさんが良い事を言いましたね。今までは薬は薬師、ポーションは錬金術師でしたがこの両方を扱える人がでて新薬が開発されるかもしれません。それにフランクさんの言った延長線上というのも正にそういう事です。もう基礎は出来ているんですよ。自分の得意分野以外の知識を入れたことで、考え方が広がっている」
「それって可能性は無限大という事ですね」
「そうそうミランダさん、その通りです。ミランダさんの得意な化粧品に治癒魔法を付与したらどうなるか見て見たくないですか?」
「鍛冶師の人が作った物に付与魔法をするのを教えましたね。魔法武器です。魔剣、魔法剣、これも考え方が二つあります。分業にしても良いし、スキルを両方持っているなら一人で出来ます」
「ただ、これだけの事を公表して良い物かという気持ちもあるな。ユウマが言うように、戦争の火種にもなりそうだし、一部の物は戦争にも使える」
「でもねフランクさん、その戦争で使える武器は魔物にも使えるんです。そうすると結果皆さんのレベルが上がる。レベルが上がれば出来る事が増えるし、寿命も延びる。それだけじゃなく未開拓の魔境も開拓できる。実際もう少しやったでしょ」
さぁ最後の丸投げの言葉だ。
「講義は終わりました。後は自由行動です。個人で何かやるも良し、グループで何かするも良しです。これからの残り約三週間好きに行動してください。私とサラも自由に行動しますから」
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