第72話 王家と貴族

 学校建設が決まって、その報告を聞いたビクターは直ぐに行動に出た。


 先ずはビクターの後ろ盾ともいえる王家に報告に向かい王に謁見の申し込みをした。


「陛下、急な面会に応じて頂き感謝します」


「良い良い、ビクターが急ぐと言う事はそれなりに大事な事なのだろう?」


「はい、特許は公開してるのに他の領では上手く使えないと相談されまして、それならと言う事で今回我が領に学校を作ることに成り、その御報告に参りました」


「学校とな? それはどのような?」


 ビクターはグランから聞いた学校の内容を王に説明した。


 面会には宰相のカルロスも同席している。宰相は最近の辺境伯領の発展に非常に興味があり是非話を聞きたいとこの場にいる。


「ゾイド辺境伯殿、それはまた面白い事をやられるのですね」


 カルロスは直ぐに見抜いた。この学校は既存の弟子制度に風穴を開けると。


 今現在職業に見合ったスキルを持つためには弟子に入るしか方法が無い。しかし学校で学ぶことでスキルが手に入るのならこれ程楽なことはない。


「これは画期的なことです。だからこそ反発も予想されるので陛下にご相談した次第です」


 王もカルロスも反発は予想できる。この国の弟子制度が崩壊する可能性があるからだ。


 ただ国の発展を考えればこの学校は希望でもあるので応援はしたいが、どうするのが良いのか王もカルロスも思案した。出した答えは・・・


「国が作ることにすれば良い」


「国立ですか?」


 国立にすることで後ろには王家がいると言う事を解らせ、反発はあるだろうが直接的な妨害は出来なくなるだろうということ。


 それに王家としても利がある。金も出さずに国の発展に繋がるし、辺境伯領という金の生る木を確実に囲い込める。それに当然口も出せると言う事だ。


「ではそのようにいたします。」


「うむ、国からもふれを出す故、後は良しなにな」


御意ぎょい!」


 その後は、献上した馬車の話やスライムクッションの家具などの話で盛り上がった。


 その数日後、国からゾイド辺境伯領に国立の職業訓練校を作る事が正式に発表された。


 貴族の多くはその発表を歓迎したが、中にはそうで無い者もいた。


 辺境伯領だけに王家が肩入れしてるようにとる者。庶民に学校など必要ないと思う者。理由は様々だが一部の貴族はそう考えていた。


 中でも商業ギルドを筆頭に各職人ギルドと結託して暴利をむさぼっていた貴族は面白くなかった。


 この国の税制

 税金は国が決める。貴族にその権限はない。

 その代り国から貴族にそれなりのお金が配られる。基本は人口に対して。

 それとは別に各ギルドからの税収入に対して貴族に国が税金を分配する。


 職人は安く作って高く売る。職人も当然商人と同じなので商業ギルドに所属してるから当然税収は増える。それを国に過小報告すれば金が浮くので、その一部が貴族の賄賂に成る。


 その根本が崩れるかも知れないのだ。職人が安く作れるのは弟子制度があるからだ。これは一概に悪い事ではない。ただ適正価格で売っていなのが悪い。


 それに馬車の改良により人も物も今までより動きが活発になる。その結果、他領から安いものが入ってくるかもしれないし、人の移動が多くなれば不正をしている事がばれるかもしれない。


 それでも国がバックに着いたことで学校設立の妨害は出来なかった。


 一方歓迎した貴族も苦労していた。それは職人たちが歓迎していないからだ。

 こういう貴族はビクターに問い合わせをしていたような貴族だ。


 特許が次々公開されて、領の発展の為に職人に作って貰おうとしたが、親方クラスの職人というのはこの国?この世界?の気質が最も染みついている人たちだから、新しい物に忌避感があり作ろうとしない。作ろうという人がいても直ぐには出来ず困っていた。


 そこに学校設立の知らせがもたらされたから弟子の派遣を要請したが、それも拒否され、仕方がなく領に御触れを出し学費をだすからと自ら募集した貴族もいた。中には地理的に遠い領は旅費まで出すという好待遇だった。


 学校が国立に成るという知らせを受けたユウマは少し困惑していた。国が絡むことは良い事だけど、目立ちたくない自分としてはより注意が必要になるからだ。


 そうは言っても学校作りは順調に進んでいる。


 本当はレンガによる防壁を初めから作りたかったが、流石に拠点よりも大きくなるので、今回も木と土による防壁を作って後にレンガで防壁を作ることにした。

   

 勿論、空堀はある。


 校舎と寮は総レンガの三階建てそれを幾つも建てる予定、見た目は前世の団地の様になるだろう。


 食堂は大きい物を一つ。流石に1000人が一度に入れるほどの物は作れないので交代制で食事してもらう。


 浴場は寮の建物に一つづつ。これも大きさに限度があるので交代制。


 実習棟は全て平屋で職種に合わせて大きさを変える。


 資材であるレンガやセメントもどきは今回はユウマが森の拠点で魔法を駆使して大量に作る。


 土魔法の習熟度が上がってるから、本当はレンガを使わなくても平屋ぐらいは作れるのだが、そんな事をしたら人外認定されてしまうのでそれはやらない。


 グラン一家や拠点の人達はそれなりにユウマがおかしいのは解っていても追及はしてこないが、目の前であからさまにおかしい事が起きればそうはいかないだろう。


 かねてから考えていた、スライム養殖施設の増設も今回の学校建設に合わせて作ることにした。


 下水システムは今回拠点と合わせて改良し、規模が大きくなるので大変だが川から水を引くことにした。


 しかし最終的に川に戻すのではなく大きなため池を作ってそこに貯める。その周りに畑を作って野菜を育てる予定。畑の周りは水掘りにして魔物対策。


 出来た野菜は学校の食堂で使えるしあまれば売ればいい。


 これ本当に4か月で出来るかな? ちょっと心配になって来た。







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