第190話 それぞれの国では

 ラロックで秘密会議が行われたり、俺が色んな研究をしてる頃、留学生を送りこんだのに、早々に退学処分になった学生がいる国では……。


 ザリウス帝国


「どうなっておる? エスペランス王国の発展ぶりに遅れまいと留学までさせたのに、たったひと月で普通科に行かせた学生の半分が退学に成るとは……」


「申し訳ありません。行く前に学校の基本的な情報は伝えていたのですが、何を勘違いしたのか?」


「勘違いではないだろう。一度目は大使からの注意で済ましてくれたのに、同じことを繰り返したから、退学になったのだろう」


 一度なら勘違いもあるだろうが、二度になればそれは故意だ。分かってやっているという事。


「まして退学に成った生徒は全員軍閥貴族ではないか。いくら帝国が武力に力を入れているからといって、他国でもそれが通用するとでも思っているのか。皇帝陛下にどう報告すればいいのだ?」


「皇帝陛下ならどんな報告でも笑い飛ばすでしょうが、皇太子殿下の耳にでも入れば、どうなるか?」


 帝国の皇帝は温厚な人柄で、これまでの国の方針だから武力に力を入れているだけで、決してそれを使おうとは思っていないが、息子の皇太子は違っていた。


 現在の皇妃の実家が軍閥貴族で、それもかなり好戦的な貴族だったから、孫である皇太子が子供の頃から何かと教育に口を出して、性格を捻じ曲げてしまった。



 マール共和国


「皆も聞いていると思うが、例の学校に送った普通科の学生が約半分退学という事で戻ってきた。大使から注意事項は書面で渡されていたはずだが、担当のルース長官はどう責任を取るつもりだ」


「わたくしだけの責任ではありません。この案件は商務長官の私と外務長官のガルム長官、そしてマール学院の校長の三人で担当し、学生の選抜をしたのです。ましてや、退学になった生徒は全てガルム長官と校長の推薦した生徒ばかり。私の推薦した生徒は誰一人退学になっていません」


「何を言う、それは偶々であろう」


「いいえ、大使からの連絡では一度目の注意の時から、私の推薦した生徒は外れています」


 マール共和国の大使と、この商務長官は学院の同級生で仲が良く、エスペランス王国の学校の事は学校が出来た時から事細やかに連絡を貰っていた。それだけではなくその情報をもとに、自分でも調査員を送って調べていた。


 そんな人だからこそ、どういう生徒を送れば良いか分かっていたので、退学者は出していない。


 一方、外務長官と校長は生徒の親から賄賂を貰って、選んだだけだから、どんな生徒かも知らない。賄賂を贈るれるような豪商の議員の子供だから、我儘放題のお坊ちゃんばかり、勉強をしに行くのではなく、この時代海外に行くことなんて滅多にないから、旅行気分で行った者ばかりなので、退学になって当然だった。


 校長はしょうがないにしても、外務長官は大使から色々と報告は貰っていたはずなのに、このありさまである。


「この度の留学生については、我が共和国にとって非常に大事な事だったのだぞ。これからの国の運営に役に立つ役人を育てる為に送ったのに、これでは計画が台無しじゃ」


「そんなもの、どうにでもなりますよ。今までも出来ているんですから」


 この外務長官は最大議員派閥の前の長の息子だから、議会運営のために大統領が仕方なく採用した長官だった。副長官に優秀な人材を置いていたから、安心していたらこの結果。商売人が中心の共和制だからの弊害でもある。金に汚い……。



 ロッテン神聖国


「生意気な国になったものだ。エスペランス王国め今にみておれ。教会から聖職者を全部引き上げさてやる」


「教皇様、そんな事をしてもあの国は誰も困りません。困るのは教会関係者だけです」


 神聖国から送られている聖職者が引き上げても、地元の神父やシスターはいますから、宗教的には誰も困らない。神聖国の聖職者に高位の治癒魔法を使える人が多いだけで、エスペランス王国にいないわけではない。


 それに医者という資格が生まれたおかげで、病気も怪我も両方治せる人がいるし、ポーションも改良型が直ぐ手に入るから、教会は信仰の場所だけで十分なのだ。


「治癒魔法は神の御業、我々は神の代行者なのだぞ。それを医者などというまがい物を作りおって、神への冒涜である」


 治癒魔法は神聖国の国民だけに発現するものでもないし、教会関係者だけに発現するものでもない。実際冒険者の中にも治癒魔法使いはいる。


 どう思考したらこういう考えになるのか? 宗教に溺れると全てがそれ中心になってしまうんだろうな。錬金術ギルドのギルド長のように……。


 この三か国の送り込んだ、留学生の職業科の生徒は神聖国3人、共和国6人、帝国3人だった。


 共和国は人種20人中6人が職業科。普通科が14人だったのが8人が退学になったので6人。神聖国の人種21人中、職業科は3人ですから普通科は18人いたんですが、10人が退学になったので8人。帝国は人種21人中、職業科は神聖国と同じ3人ですから、普通科は18人、そのうち9人が退学になったので9人。


 職業科の配分が少ない神聖国と帝国はそれぞれに理由があって少ない。


 神聖国は薬師と錬金術が嫌いなので、教会の調度品の為に必要なガラス、木工、鍛冶に一人づつ。


 帝国は逆に軍事に影響する薬師と錬金術にそれぞれ1人と皇帝の要望でガラスに1人。


 共和国は薬師、錬金術、木工、陶器に1人づつ、ガラスにだけ2人送り込んできた、流石商売人の国。商売になりそうなガラスに注目している。



 それぞれの国でそれぞれの反応があったが、後日それに追い打ちを描ける通達がエスペランス王国から届いた。


 その内容は、今後の留学生の定員を減らすという通達。職業科、普通科を合わせて年10人、どんなに定員に余裕があってもこの人数の変更はない。


 それに付け加えて、自主退学以外の退学処分者が出た場合、その国からの留学生は今後一切引き受けないという内容だった。


 これは秘密会議で議論された事だが、学校や病院はこの国の財産であるにも関わず、それを軽く見ているような国とは距離を取るべきという事で、この通達がされる事に成った。


 こちらは好意で教えてやってる立場、それを我が物顔されたらたまったものではない。決して対等な立場ではないという事を、自覚させる意味でもこれは必要な事だった。


 この事で争いが起きるかも知れないが、ここで曖昧な態度を取ることは決して国の為にならないと、二人の国王が決断した。



 これは今後エスペランス王国が大陸の中心になるという決意でもある。



 予測通り、通達が届いて、直ぐに動いた国があった。その国は神聖国。


 留学生の全員引き上げと、エスペランス王国とグーテル王国からの聖職者の引き上げ。


 神聖国内部でもそれに反対する人はいたが、結局神聖国の最高権力者の鶴の一声で決まってしまった。


 しかし結果的にこれは予想通り悪手で、神聖国の関係者が居なくなったことで、両国の教会関係者は自浄作用が働き、腐敗が無くなって行った。


 元々、教会の聖職者になる人は信心深い人が多く、欲には塗れていなかったのだが、神聖国から来ていた幹部の方針によって、贅沢を覚えてしまった結果が以前の教会だった。


 神聖国の幹部が引き上げる時に、両国の贅沢が身に付いた聖職者は今度は自分たちがと行動に出ようとしたが、国が援助して、善良な聖職者が責任者に就いたことで、二つの国の教会は神聖国から分離した形の教会組織に変わった。


 少し違うが、前世のキリスト教のカトリックとプロテスタントのような感じかな?


 同じ神様を信仰するが教義が違う。正確にはこの世界の教会としては、贅沢を嫌うか好きかの違いかな?


 これを境に二つの国の教会には国から援助が出るようになり、孤児院なども併設されるようになった。小さな村などでは学校を建てる必要もないので教会が学校の代わりになり、教師が派遣されるか、聖職者が教師になった。


 但し、聖職者が教師になる場合は1年間のラロックでの研修が義務付けられている。



 この教会の分裂は後に他の国にも波及し、国内で分派される国も出てくる。




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