第189話 魔境の魔物

「ゆっくり高度を下げます。周りを警戒してください」


「ユウマ、ちょっと待てあそこに魔物が見える。鑑定するから……」


 そう言ったフランクは、それ以上言葉を発しなかった。恐らく、鑑定した魔物のレベルに驚愕して言葉を失ったんだろう。


 見えていた魔物は、前世でいうワニのような魔物だった。名前はクロコダイラス。ラテン語かよと突っ込みたくなったが黙っていた。


 前世でアメリカでは日本の漢文のように、ラテン語を学ぶことがあると聞いたことがあったので、英語とラテン語を単語で比べたことがあったから、たまたま知っていた。


 ワニは英語ではクロコダイル、ラテン語では、最後にスがつくと恐竜の名前みたいだと思って記憶に残っていた。


 ギリシャ語のラテン語系でサウルスって「トカゲ」、他にもドン、トプスなんていうのがあるがこれも同じ。


 恐竜の名前って、こんな感じでつけられている。


 例えばプテラノドンは


 翼という意味の「プテロン(pteron)」

 否定を意味する「アン(an)」

 歯を意味する 「オドン(odont)」

 を組み合わせたもので、「翼があり、歯がない」という意味


 これはゲームクリエイターとしての雑学で勉強した。


 フランクが鑑定する前に俺はもう鑑定済み。クロコダイラスのレベルはなんと15。フランク達がレベル上げで行った高魔力帯のオークやオーガのレベルが5ですから、15なんてとんでもないレベル。


 見る限り大きさ的にはそれ程前世の大型ワニと変わらない、5~7m位なんですが、レベルが15という事は相当皮膚とかも硬いと予想される。


「ユウマ、あれはやばい! レベルが15だぞ」


「大丈夫、取りあえずここに投擲用に準備した石がありますから、全員でそれを投げて、あの魔物に当ててください」


 飛行船はどんなに降下しても15mまでしか下がれませんから、そこで停止します。


 その高さからなら、女性でも投げるというより投げ落とすなので、魔物に石をぶつけることは出来ます。


「ほらほら、石ならいくらでもありますから、当たるまでどんどん投げて」


 見える範囲にクロコダイラスが5匹いましたが、全員が全部に当てたのを確認したら、俺は順番に一匹づつ、レーザー魔法でヘッドショットしていきました。


 ワニの皮膚がいくら固いと言ってもレーザーには敵いません。それが魔物のワニであっても……。


 その5匹を討伐してる最中にエリー、ロイス、サラ、フランクの順に気絶するか膝をついてぐったりしていった。


 レベルが一気に上がったから、体がついて行けず、その状態になった。サラとエリーは経験済み、フランクとロイスは初の体験。体がだるいぐらいは経験してるだろうが、立っていられないというのは初めてだろう。


「これはいったい……」


「それはレベル酔いだよ。急激にレベルが上がったから起きる現象」


 俺からそう言われて自分のステータスを確認したんだろう。目を見開き驚いていた。


「22! たった5匹の魔物を倒しただけで、それも複数で倒したのに……」


 とんでもないよね。フランクがレベルを2上げようと思ったら、以前の高魔力帯の魔物を何匹倒さないといけないのか?


 例えばレベルを1上げるのに、100の経験値がいるとしたら、オーク1匹で1の経験値なら、100匹倒さないといけない。それが1匹20の経験値なら5匹で良い。


 100匹を倒すのにはそれなりに時間が掛かるから、徐々に経験値が溜まって行くが、いきなり100の経験値が体に入れば、体が耐えられない。


 俺の場合は経験値100倍、普通なら絶対体が持たないが、そこが俺のチートでもあるが、全然問題ない。


 レベル13だったエリーなんか、一気に5も上がって18になっている。耐えられるわけがない。


 サラとロイスは21になって膝をついている。かくいう俺は全く上がっていない……。


「そろそろみんな起きて、さっき倒した魔物の血の匂いで他の魔物が集まって来たよ」


 折角倒した魔物の素材がダメになるから、強制的にみんなを起こして、また石を投げさせた。


 体がいうことを利かないのか、投げるというより落とすに近いがなんとか石を投げてもらったが、素材がダメになるのが嫌なので、全員が当てたかの確認はせずに、これ以上近寄ったらダメな魔物から、レーザーを打ち込んでいった。


 一度に集まってくるのが10~15匹単位だったので、途中少しは休憩出来たから、集まるのが止まるまでに、全部で80匹ぐらいは討伐できた。


「もう駄目だ~~ これ以上は勘弁してくれ」


「もう無理! ユウマさん後はよろしく」


「ユウマさん、エリーが起きません。ここまでにしませんか?」


 エリーさんは50匹を超えた頃から起きてこれなくなって、気絶したままだった。


「サラ、素材がダメになる前に回収したいので、俺は前回と同様に飛び降りますから、心配しないでくださいね」


 前回飛び降りた時に驚かせたので、今回はちゃんと飛び降りる前に、サラに言ってから行動に移した。


 当分、他の皆は動けないだろうから、俺は魔物の回収を済ませてから、周辺の調査をしてみた。


 俺はスキルの気配遮断 気配感知 魔力感知をフルに使って、魔物位置を確認しながら、周辺の植生や食べられる物、薬草などを鑑定しながら採取した。


 勿論、川岸だったので、電撃魔法を使って川の中の魔物も回収した。魚の燻製を作っている時には使っていなかったが、出力を調整すれば魔物を一時的に麻痺させるのに丁度良いと最近は良く使っている。


 これも今思えば電気ではなく、魔電気なんだろうな? 魔電気=魔力とも言えるのかな? いや? ちょっと違うか? 


 以前ニックに病気の事を聞いた時に、魔力酔いという物があると聞いた事がある。レベルの低い人が、高魔力にさらされたりしたらなると言っていたから、魔力には何かをくるわせる効果があるんだろう。


 ん? これって魔電気を意識したら、AEDみたいなことが出来る?


 そろそろ、皆も回復してるころだろうと飛行船から垂らしてあったロープをインベントリに入れてあった巻き上げにセットして飛行船を降下させた。


「どう? 回復した?」


「お前な、いつもやることが極端なんだよ。大丈夫だと分かっていてやってるんだろうが、やられた者の身にもなってくれよ。流石に今回はきつかったぞ」


「ユウマさん、お帰りなさい。こちらはもう大丈夫ですよ」


「取り敢えずレベル上げも済んだし、簡単な調査も出来たから、帰ろうか」


 飛行船を着陸させているから、此処に長時間いるのは危険なので、飛行系の魔物以外は届かない高さまで上昇することにした。


 この世界の動物は全て魔物ですが、これは前世と同じで、攻撃性の高い物もいれば、草食で基本大人しい物もいる。基本的な魚や鳥が攻撃性がないのと同じで、この世界の魔物の魚や鳥も攻撃性は少ない。


 勿論、違う物もいる。ホーンラビットのように前世のウサギと違って攻撃性のある物もいる。


 飛行系の鳥の魔物でも対処できるように、特殊な結界を作った方が良いな。中からは攻撃できる結界があれば、飛行中でも対処が可能になる。


 帰りの飛行船の中では、レベルの話や調査した植生の話で盛り上がった


 最終的なレベルはエリーが20、ロイスが25、サラが25、フランクが27。5の壁が無ければもう少し上がっただろうが、今回はこれが限界だろう。


 経験値の入り方にも法則的なものがあるんだろうな? とどめを刺した人が多いとか、入れたダメージでも差が出るかも?


 そこまで複雑ではないだろうが、ある程度の法則はあるはず。ダメージの差に関係なく、均等割りではおかしいからね。


 丁度出発してから7日目の早朝に俺の家に帰り着いた。


「お疲れ様、今日はみんな疲れているだろうから、ゆっくりして今日の夜か明日にでも話をしようか」


「そうだな。肉体的というより精神的に疲れているから、その方が良いだろう」


「婆や、わたくしたちは、ゆっくりお風呂にでも入ってゆっくりしましょう」


 俺もやりたいことはあるけど、今は止めておく。今までと次元の違う高魔力帯の薬草や魔石で実験をしたいが、やりだしたら止まらなくなるから、次の機会にする。


 ここに来た名目は一応休暇なのだから、最後ぐらいは本当に体を休めないとな……。



 今日の夜はワニ肉パーティーでもやるか? 美味いかな?












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