第111話 ペニシリン
患者の治療も大体終わって来たので、次に進みたいのだが、薬師達の様子が変だ?
その訳は、細菌やウイルスに対する知識がないから、頭が理解しないのです。
ユウマによって患者はどんどん治療され完治してきているのに、原因が細菌やウイルスだと言われても、顕微鏡で存在は理解出来ても何故それが原因になるのかが理解できない。
それはそうなんですよ。この世界には何て言ったら良いかな? 基本的知識が無いと言ったら良いかな?
例えば人間は殆どが水分で構成されているとか、元素、分子、細胞、DNAと言う様な物があると言う事を知っているという知識。
詳しい事は俺でも良くは知らないが、そういったものが存在するということと、どんな構成だという認識はあるから、癌は細胞の突然変異だと言われれば理解できますが、細胞自体を知らなければ何のことか解らない。
この突然変異というのも知識なんですが……
魔法やポーションって物理を無視してる物もあればそうで無い物あるんです。
ポーションが良い例ですね。骨折した時に真っすぐにしないでポーションを掛けると曲がったまま骨が再生され接合する。これはどちらかというと物理通りなんです。
では火傷や傷口がいびつに成っている皮膚でも、再生するときには正常に再生する。これは物理を無視している。
この物理を無視していることがこの世界の常識に成っていたおかげで、骨が曲がったまま接合するという事が理解できなかった。
ここで現状の薬師達はどうかと言えば、細胞という物を知らないから、細菌やウイルスが細胞に入って細胞を破壊したり、変質させたりすることで病気になると言う事が理解でない。
しかしこれを完璧に理解させるには最低でも前世の小学校から中学までの教育が必要になるけど、そんな事やってる暇は無いので、今は原因である細菌やウイルスが体に入ると色んな病気に成るということと、骨は真っすぐにしないと曲がって接合すると丸憶えしてもうしかない。
これで実際充分ではあるんですよ。ポーションなんて言う理不尽な物が存在するんですから。
それに今回治療した患者に使った薬とかがやっぱり異常だった。
結核の薬が前世と違いこの世界では特効薬だったように、細菌に効く薬である、ペニシリンがとんでもなかったのだ。
前世でもペニシリンは多くの細菌性の病気に効果がありましたが、この世界では細菌どころかウイルスにまで効果があった。
勿論、全てではないですが、抗菌薬のペニシリンがウイルスに効くというだけでも、とんでもないことだ。
今回の患者でペニシリンが効かなかった患者は全て手術で患部を切除する方法を取りましたが、この先の医学の発展次第では薬による治癒も出来るように成るかも知れません。
しかしペニシリンは飛んでも無い物だったのですが、製法は全く同じアオカビからの採取というごく普通で拍子抜けしました。
良くこの方法を覚えていたと思うでしょ、何を隠そうTVドラマの異世界トリップものを見た時に勉強したんです。
ペニシリンを抽出するのに本来ペニシリンを含むアオカビを見つけることが一番最初に苦労するのですが、そこはお俺の場合、鑑定(解析)があるので苦労しません。
苦労したのは、日本なら簡単に手に入る、米のとぎ汁と寒天が手に入らないことです。
カビの培養に芋の煮汁と米のとぎ汁が必要なんです。液体培地を作るのに必要な材料がこの二つ。
米のとぎ汁は米をまだ発見していませんので、代用品を探すのに手間がかかりました。これは寒天も同じです。
炭やろ紙に使う紙はありましたし、重曹の代わりに成る物はこれまた、不思議なことにスライムパウダーが使えました。
この様に苦労することもありましたが、ペニシリン溶液の抽出は出来たのですが、効果を確認する段階で、本来は患者の膿からブドウ球菌を採取して確認するんですが、ポーションがあるおかげで患者に化膿してる人がいないので、どうするか悩みました。
しょうがないので細菌性の病気だった人の切除した内臓や筋肉から細菌を培養してみて、それで効果を確かめました。
こればかりは本来と違う方法なので確信は無かったのですが、この世界ではこの方法であっていたようで、菌は死滅していました。
ペニシリン溶液が出来た時点で効果は俺の解析で確認してるので問題なく効くことは解っていましたが、薬師達に見せるためにわざわざ実験をしたんです。
解析なんていうチートがある俺ならなんでも知る事が出来ますが、普通はそんなこと出来ませんから、基本的なやり方を覚えてもらいました。
習熟度の高い鑑定持ちなら薬がどんなものかは解ると思います。ですが抗菌薬だとは解っても、細菌自体がどんなものか? 病気の原因が細菌だと知っていなければ投与できません。
これから解るように、この世界の薬師には鑑定のスキル持ちが協力すると、動物実験などの必要が無くなるんです。
医者には手術の練習などの為に魔物実験は必要ですが……
ペニシリンが細菌だけでなくウイルスに効くというのも俺の解析で分かった事ですが、こればかりは現状、実験で確認させる方法が思いつかない。
ウイルスの培養は生きた細胞がないと出来ませんし、ウイルスは細菌より扱いが難しいですから、現状は止めておいた方が良いと判断しました。
ペニシリンが多くの細菌やウイルスにまで効くのに、同じ細菌である結核菌には効かないというのも不思議なんですよね。
でもこれが事実である以上、他にもこのような事はあると思うんですよ。ですからペニシリンという基本となる物が出来たので、これが効かない病気の研究をすればいいと言う指針といえるものが示されたとも言えます。
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