第282話 漸く出発

 ダンジョン探索を終えて、崖の上に戻りながら皆はダンジョンについてや転移陣について興奮気味にお互いの情報を交換していた。俺とサラ以外は初ダンジョンだったし、魔道具も珍しい物で、転移というあり得ない経験をしたんだから当然だな。


 これに味を占めて俺達がいない間潜り続けるなんて事はないとは思うけど、ちょっとこの興奮は冷ましておかないと拙いかもしれない。


 それにこの後エマに空中歩行を教えたら、もっと興奮するかもしれないな……。


 ちょっと前までのこの世界の住民は研究とか発明とかに全く興味のない人たちだったのに、今じゃ戦闘狂もいれば研究バカもいる。火付け役は俺なんだがここにいるメンバーは特に酷い状態だから間違いなく俺のせいだよね。


 俺が丸投げしたいが為に賢者を育てるなんてことをしたからなんだけど、育て方間違えたかな……?


「サラ、ちょっといい。エマにはこっそり空中歩行を教えたいんだけど、どうやったらいいと思う?」


「何でこっそりなんです?」


「ちょっと皆が興奮気味だから、このまま皆の前で教えるのは火に油を注ぐことに成って収拾がつかなくなりそうだと思って。それに早く旅行に出たいからね」


「それは無理じゃないですか、だってあれを短時間に教えられます?」


 それはそうなんだよな……。エマなら早いとは思うけど、それでも数時間と言うのは無理だろう。


 ん~~、大丈夫かな? 結界魔法なら……。結界魔法って意外とレアだから使えないのにそこまで興味は持たないか? 学校の生徒でも結界魔法だけはそんなに出来るように成った生徒はいなかったからな。それに対して身体強化は殆どの生徒が出来たし、出来ない方が稀なぐらいだった。


 無属性の魔法は属性なのに魔法自体に適性があるんだよね。他の属性はその属性に適性があれば時間差はあって全ての魔法が使えるように成るけど、無属性だけは違う。


 結局は属性以外の魔法を無属性と言っているだけで、本来は違うのかもしれない。もっと細分化されていると考えれば辻褄が合う。それでも魔法はイメージと言うのは揺るがないから、何年とか何十年と掛ければ全属性、全魔法を皆使えるように成るとは思う。まぁそこまでやる人はいないとは思うけど。


 結界魔法も身体強化も出来なかった生徒は他の無属性魔法に適性があるというのもあり得るな。例えば転移魔法とか空間魔法とか……?


 あれ? そうするとアイテムボックスのスキルの発現条件は転移魔法とか空間魔法? それが正解なら超レアになるのも頷ける。先天的に発現するスキルや属性魔法でも後天的に発現出来るからな。また余計なことを思いついてしまった。これは言っても良いのだろうか? もう隠し事はしないと決めたけど……。


「あなた、ぶつぶつ言っているから、皆さんには聞こえていませんがまた悪い癖が出ていますよ。それにしても本当によくそんな事思いつきますね」


 あちゃ~~、またやってしまったか。でもこうやって魔法やスキルの事を解明するのって面白いんだよ。だからついつい考えてしまう。


「ごめんごめん、ついね」


 しょうがないここは素直に諦めて、皆の前でエマに教えるか。今考えたことがもしかしたら検証出来るかも知れないしな。今は出来ないけど出来るように成りたいと継続して練習する人がいれば、このメンバーの中から使えるように成る人が出るかもしれないからな。


 崖の上に戻っても暫くは皆興奮していたけど、俺がエマに空中歩行を教え始めると俺の予想に反して一気に静まり返った。まぁそれも一瞬だったんだけどね……。俺がエマに教えている間結界魔法について皆は俺達を無視して議論し始めたから、騒がしいのには変わりはなかったね。


 数時間後エマは一二歩は歩けるようになったけど、流石にそれを連続して歩けるまでには成らなかった。


「エマさん、そこまで出来るように成ったのなら後は練習のみです。その魔法を体が覚えれば自然に出来るように成りますよ」


 ここまで出来ればもう良いだろう。完璧に出来るまでなんてやっていたら何時に成るか分らない。


「あ、それからあそこで色々と議論してる人達が結界魔法について聞いてくると思いますから、基本から教えてあげてください。先ずは小さな結界を作る事からですね」


「そんな事で良いんですか?」


「そうですね……、それじゃ緊張感を持たせるためにこういうのはどうでしょう」


 俺がエマに教えた練習法はエマが得するように、十秒以内に結界を銅貨に張れなかったら没収という物。エマの時間を割いて練習に付き合うのにエマに得がないと可哀そうだし、出来なければその度に銅貨を没収されるんだから緊張感が増して集中するでしょうからね。


 本当はピコピコハンマー見たいので結界が張れなかったら叩かれるというのでも良いかなと思ったけど、ピコピコハンマーを作るのがめんどくさいし、流石に痛いのは女性に申し訳ないので止めました。ピコピコハンマーの前には簡単だからとハリセンも考えたけど流石にね……。


 ハリセンとヘルメット、あのゲームが出来るから密かに今度作ろうと思ったのは内緒です。


「皆さん! そろそろ夕方ですがどうします? ここで一泊するか、海岸の拠点まで戻るか、好きな方に決めてください」


「おう、もうそんな時間かちょっと熱くなり過ぎていたかな。時間が経つのは早いな」


 ちょっとどころじゃないでしょうが。ダンジョンから戻って殆ど休まず議論していたじゃないですか。と言いたいのを我慢して、


「俺としては海岸の拠点に戻りたいんですがどうでしょう」


 ここに一泊すると明日もダンジョンへ、何ていう事も起きかねないので、出来れば俺は帰りたい。それに帰れば島にはやりたいことがある人がいるからね。興味がそちらに行けば意見が分かれる。


「どうせユウマは早く旅に出たいから帰りたいんだろう。そこまで俺達は無粋じゃないから帰ってやるよ」


 嫌々、何を恩着せがましく言ってるのよ。フランク貴方が元々ダンジョンに行きたいとせがんだんでしょうが。まぁ場所だけ教えてもいけない場所にあるからしょうがないんだけど。それでもその言い方は何かムカつく……。


「それじゃ、フランクさんのに甘えて、帰りましょう」


 拠点に帰ったのは良いのだが、そこで俺はまたやらかした。二時間かけて海岸の拠点まで戻って来たらもう夕飯の時間だったから、急いで食材を調達するのに俺は無意識に雷魔法を使って魚を獲ってしまったのです。アホです……。


 さっさと食事を済まして明日の準備を済ませ早めに就寝して、明日出発しようと気が焦っていたのが拙かった。やっと念願のサラとの二人旅に出れると思う気持ちが雷魔法というサラしか知らない魔法を無意識に使ってしまったのです。


 そんなことしたらどうなるか? 当然のように再び食事そっちのけで追及が始まってしまった。そりゃ最後の講義とは言ったけど全てを教えた訳じゃない。俺だって全ての事を記録も記憶もしていないから、言い忘れる事はある。その一つがこの雷魔法。


 だってこの魔法この世界に転移したばかりの時に魚の燻製を大量に作る為に使って以来、この間島で一度使ったのが久しぶりなぐらい使っていなかったから、教えるのを忘れていたんです。


 追及されても説明は難しいから自然現象の雷と同じだと言うしかないんです。それにこの魔法多分風魔法を習得していないと出来ないんじゃないかと思うんだよね。属性に雷属性が無いという事は大気を操る風魔法か無属性魔法という事に成るけど、自然現象と同じ魔法だから風魔法が有力。それも習熟度がかなり上がってからしか使えないと思う。


 宮廷魔導士にはもしかしたら使える人がいるかも知れないけど俺は聞いたことがない。もしいたとしても小規模に使う人はいないんじゃないかな……。


 しょうがないから、これも検証の為に先ずはサラのように風魔法を習得することから始めてもらう様に説明して誤魔化した。


 俺の場合経験値100倍というチート持ちだからその辺のところが分からないんだよね。習熟度があっという間に上昇するから……。


 結局その話が終わって、食事を済ませたらもう夜中に近く、翌日の起床が遅くなり、皆にこの後の予定を話したりしていたら、旅の出発が午後に成ってしまった。トホホ……。


「それじゃ皆さんくれぐれも無理はしないように。予定通りなら三週間後には戻ってきますから、それまでしばしの別れです」


「何カッコつけてるんだ。後の事は心配いらんからサラ様とゆっくり遊んで来い」


「それじゃ、言葉に甘えてきます」


















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