第283話 いきなりかよ!

 皆の見送りで旅立った俺達だったが、予定通り大陸を左回りに周って魔境の外側を飛行していたら、気に成る山が見えたのでこの旅の目的、冒険をする為に寄り道することにした。旅立って3日目というまだ旅が始まったばかりの時ですが……。


 旅に出て二日でフリージア王国の沿岸を過ぎて、帝国の近くの魔境の森に差し掛かったのがその三日目だった。その山は魔境の近くからはかえって見えないような高さ何ですが、飛行船からは良く見えるように、森の木々から突き出ていた。


「それにしても、あんな近くに山があったら帝国の人は何かを探しに行きそうなものだが、行かないのかな?」


「ここもユートピアと同じで、帝国の南の果てですからね。その上ユートピアの山脈より危険な魔境の一部ですよ。魔物の強さは分かりませんが、ラロックでも殆ど人は入っていませんでしたから、ここもそうなんではないですか」


 サラの的確な分析で俺もそうなのかと納得しそうになったが、飛行船がその山に近づく程に、それは正解でもあり間違いでもあると気が付いた。


「きゃっ! どうしたんです? 急にスピードを落として」


「サラにはあれが見えませんか? 山の頂上付近の黒い点のような物」


「黒い点? ――もしかしてあれですか? あの黒い点って動いています?」


 そう、俺が見つけた黒い点は動いているのです。それも一つや二つではなく、少なくとも十は有りそうです。


 山を発見した時、飛行船は海岸からはかなり離れた位置を飛行していたのです。まだ国があるところですから、見つかってはいけないので沿岸と言ってもかなり離れていました。目視で山があることがやっと確認できるほどの場所だったから、目的の為に近づくにしても見つからないように魔境の森側から迂回しながら近づいたので、その黒い点を見つけるまでに時間が掛かってしまった。


 山の頂上付近、動く黒い点、これだけで俺は危険を感じ飛行船の速度を落としたのです。この位置から見える黒い点の大きさと山の大きさを考えれば、間違いなくその黒い点は結構な大きさだと理解出来る。


「サラ、どうします? あれはいきなり過ぎるんですけど。まさかこんな所で遭遇するとは夢にも思いませんでしたよ」


「それっていったい何です? 勿体ぶらずに教えてください」


「あれは恐らくワイバーンです」


「嘘でしょ! ワイバーンがこんな近くにいたら噂に成るでしょう。私の国ではワイバーンなんて大昔の文献にしか出てきませんよ」


 それが普通なんだよな。人類最高の冒険者が見たとか、大昔の人が見たことがあるというような文献は確かにあるらしいが、現在生きている人でワイバーンの実物を見た人はいない。俺だって見たことはないけど、前世の記憶があるから想像出来ただけだ。


「ワイバーンの強さってどのくらいなんでしょうか?」


「それは此処からでは確認できないな。もっと近づけば鑑定出来るけど、此処からでは無理だね。もし鑑定するならもっと近づかないと行けないけど、そうなると見つかる可能性が大いにある。強さが分からない相手に挑むのは無謀だし、同じ飛べる相手ですから、逃げるのも難しいですね」


 どうにか此処から鑑定できないものか? このまま挑むことはしたくない。俺一人なら良いが、サラもいるから安全第一に行きたい。 遠目+鑑定EXで出来るかな?


「出来たよ! 遠目の魔法と鑑定を同時に使ったら確認出来ました! ワイバーンのレベルは25。数値的な強さは……、以前倒した事のあるクロコダイラスの1.5倍ぐらいですが、あいつ火魔法を使いますね」


 実際には飛行する為の魔法も使ってる。そうじゃなきゃあの巨体が空を飛べるわけがない。


「魔物が魔法!」


 ん~~~、これはどう解釈したら良いんだろう? 正直強さ的にクロコダイラスの1.5倍程度なら前回同様ビーム系の魔法で間違いなく倒せる。ただどうしてこの程度の魔物に人類最高のレベルの人が挑んだ記録がないんだろうか?


 ワイバーンは見たという記録はある。でも逆にレベルの低いクロコダイラスの記録はない。ん~~~、仮定だけどこうならどうだろう?


 人類最高レベルだった人は魔境の奥深くには入っていない。ただある程度の深さの所やダンジョンでひたすらレベルを上げた。その過程でここに来たことがあればクロコダイラスは見ていないのに、ワイバーンを見たというのも頷ける。この山は魔境の森の深くない所にあるからな。


 これならその人が魔境のどのくらい深くまで入ったかの記録がないのも納得できるな。逆にワイバーンの記録があるから、奥地まで入ったような誤解が広まっているのかもしれない。


「ユウマさん整理出来ましたね。それでどうするんですか?」


 また聞かれていたか、まぁサラになら良いかといういう感じに最近なって来ているから余計に気が緩んでいるな。嫁さんにも成ったしね……。


「嫌、まだ一つ分らないことがあります」


「何が分からないんですか?」


「以前話したことがあるかもしれませんが、魔境の森は奥に行けば行く程魔力が濃くなるんです。ですから奥地の魔物はレベルも高いし強い。でもその法則にこの山の位置とワイバーンは当てはまらない」


「確かにそうですね」


 それに当てはまるとすれば、魔力スポット! 魔力の吹き出し口という仮定だけだ。ただここのスポットは強力な場所ではないから、魔力の濃くなる高度のある山付近に生息するワイバーンだけが生息出来ていると考えるのが一番納得できる。


 火山のように山の頂上付近から噴き出していると考えれば尚更だな。それに大昔はスポット的に強力だったけど、衰退し山の周りは魔力が薄くなったと考えれば今の状況の説明もつく。


「サラには魔力スポットの話をしたことありますか?」


「いいえ、聞いたことないですね」


「魔力スポットとはですね……」


 サラにこの世界には魔力スポット言う魔力の吹き出し口がいくつか存在していてその影響で場所によって魔力が濃くなっている場所があると説明した。勿論島付近にもある可能性があると……。それに今回の事で、そのスポットにも強弱があるという事が証明されたとね。


「それが本当なら、ラロックの近くの魔境の奥には強力なスポットがあるという事ですね」


「そうなりますね。ですが一つという事では無いかもしれません。強さの違うものが幾つも存在しているのかもしれません」


「それを拡大解釈すると大昔は大陸全体が魔境だった可能性も出てきますね」


 おう! そこに気づくか! 俺もその可能性はあると思っている。そうなるとサラには言えないが、この星は衰退してるとも考えられる。もしくは地球の気候変動のように魔力変動があって時代によってはまた大陸中が魔境に戻る可能性もある。


 この山は死んでいないスポットだから復活する可能性があるからね。火山と同じように活動が今はおさまっているだけで、活発になるのかもしれない。前世の研究と同じなら星には寿命があるとも言われていたから何とも言えないが……。


「まぁ考察はこれぐらいにして、今はあのワイバーンをどうするかですね」


「当然倒すんでしょ?」


「それもありなんですが、今の所、人に害はないし、言ってみれば貴重な生き残りでもあるから、どうしたものか判断出来ないでいます」


「確かにそういう考え方もありますね」


 魔物の生態は分らないことが多いから何とも言えないが、前世の通りならワイバーンは卵から生まれると考えれば、ここのワイバーンを全滅させれば二度と此処でワイバーンを見ることは出来なくなる。


「やっぱり倒すのは止めましょう。倒すのは何時でも出来ます。もしこの先ワイバーンが見つからなかったら、絶滅させることに成ってしまいます」


 多分それはないとは思うけど、確証はまだないからな。それにもしワイバーンをティム出来たらワイバーンを利用した輸送とか航空部隊なんていうのも作れる。それに此処は比較的に浅い所だからワイバーンの捕獲をするのに都合が良い。


 繁殖させればもっと利用価値が出る可能性もあるから止めよう。レベル上げの為にこのワイバーンを使う必要もない。これからもっと未開の魔境に行くのだから……。


 それに竜騎士なんてカッコイイじゃない。ロマンんだよね~~。剣と魔法の世界に折角いるんだから、こんなロマンを見逃す手はないよね。


 ロイスにこの話をしたら絶対乗ってくるだろうし、積極的にやるだろうから、是非任せてみたい。ただワイバーンをティムするには相当な魔力も必要に成るとは思うけど……。










  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る