第141話 婚約発表

 サラとの正式な交際が始まったが、まだ周りの人には話していない。


 それは先ず、サラさんの両親に正式に承諾を貰ってからではないと公表するべきではないと思うからだ。本人は気にしなくても貴族なんですから、中途半端なことは出来ない。


「サラさんご両親には手紙出しました?」


「はい、直ぐに事情説明と共に、全てを書いて送りました」


 これまでも手紙は送っていると言っていたから、大体の事は伝わっているだろうが、もっと詳しく送ったのかもな? 全てと言ってるから。


 しかしどんな返事が返ってくるかな? 貴族の反応なんて良く割らんし、娘の親の気持ちなんて全く分からん。前世で結婚すらしていないのだから。


 それから15日。


「サラさん、まだ返事は来ませんか?」


「はい、いつもならもうとっくに来ていてもおかしくはないのですが」


 隣国とはいえ、手紙だけならそう時間は掛からない。新型馬車になってから速度も速くなっているし、早馬での配達ならもっと早い。それなのに15日は掛かりすぎだ。


 その翌日予想も出来なかったことが二人に起きた。


「おう! 我が愛しい娘サラよ息災であったか?」


「お!お父様、ど、どうしてこちらに。ましてお母様もご一緒に……」


 待て待て、これはどういうことだ? サラさんのご両親? 手紙の返事が来ないと思ったら、直接出向いたのかよ。


「ふむふむ、サラよ、そちらの方がユウマ殿かな?」


「はい、こちらが私のこん……」


 慌てて俺はサラの口を塞いだ。


「サラさん、ここでは拙いです。兎に角ご両親も長旅でお疲れでしょうから、温泉銭湯にでも入ってもらってから、後でゆっくり個室で話しましょう」


 まだ公表もしていないんだからここでの話は人に聞かれたくない。先ずはご両親との話が先だ。その上で婚約発表をしないと。


「そうですね。気が焦っていました。両親の案内は私がしますので、ユウマさんはこの後の準備をお願いします」


 それにしても誰も貴族が来たことを教えてくれなかったんだ?


 拠点のメンバーなら俺が避けてるのは知ってるはずだ。それなのに……


 今はそれどころではない。先ずはご両親の宿泊場所と護衛の騎士や執事たち従者の案内をしなくてはいけない。


 急な訪問だから食事の準備も手配しなくてはいけないし、やることが多すぎる。


 そう思って動いていると、何故か? 準備が全て終わっているのだ。あれ?


 そこにニヤニヤしたグランとフランクが現れた。


「ユウマどうだサラさんのご両親とは会ったか?」


「ユウマ君、準備は全て終わっているから、君はどっしり構えておきなさい」


「はぁ? それはどういうことでしょう?」


 そこからはフランクとグランが俺の顔の表情の変化をみながら、楽しそうに語ってくれた。


 サラの両親からの手紙はとっくの昔に着いていたが、あて先がなんとグラン商会だった。その手紙の内容は、娘の婚約が決まったようだが、俺には会ったことがないので、直接会いたいが娘の手紙に貴族を避けていると書かれていたので、秘密裏にここを訪問したいと書かれていた。


 その時点で俺とサラさんの婚約は拠点中に知られていた。その上で、みんなは知らんふりをして、気づかれないようにご両親の訪問の準備をしていたということらしい。


 だから誰も貴族が来てることを教えてくれなかったのか。


「それで、いつ発表するんだ? しなくてもみんな知ってるけどな」


「酷いですよ。この15日間俺がどんな思いでいたか。みんなにばれないように物凄く気を使っていたのに」


「まぁまぁ、フランクもその辺にしといてあげなさい。ユウマ君も必死だったんでしょうから……」


 グランは笑いをこらえながら、常識的なこと言っているようにしているが、笑いを堪えてるのが分かるんでは意味がない。


「皆さんに知られていても、ご両親との話が終わってからですね。何と言っても公爵家の話ですから」


「まぁそうだが、手紙の内容からすると反対でもないし、好意的だったぞ。確かに貴族と平民の婚姻なんて殆どないから、お前が気にするのも無理はないがな」


 準備は全て終わっているという事なので、俺はこの後のご両親との話をどうするかを考え始めた。本来なら手紙による承諾をもらって交際を始めて時機を見ての婚約発表、結婚という流れだと思っていた。


 勿論、結婚前には隣国を訪問する予定ではいたけど、それはもう少し色んなことが落ちついてからと考えていた、焦ることはないしね、それがこれだよ……。


 結局サラの両親と話し合が持てたのは、その日の夕食の後だった。


「改めましてユウマと申します。この度は遠いところからお越しくださり恐縮です。本来ならこちらからお伺いするべきことでしたのに申し訳ありません」


「いやいや、そう畏まるな。自己紹介がまだだったな、わしがサラの父でミュラー公爵家当主のルドルフじゃ。そしてこちらにおるのが、妻のイザベラだ。ユウマ殿よろしく頼む」


「イザベラよ、よろしくね」


「敬称など恐れ多い事です。平民の私などは呼び捨てにしてください」


「しかしサラの相手だからな、呼び捨てというわけにもいかん、それならユウマ君と呼ぶことにしよう」


 君付けでもおかしいのだがこれ以上ごねても良くないので、それで呼んでもらうことにした。


「そこでだ、今回わしらが訪問したのには二つほど理由がある」


 そうだろうな、婚約も認めてるような話だったから、ここに来る理由が俺に会いに来るでは弱すぎる、本当に長旅だからな。


「君に会いに来るというのが一番なんだが、その他に王家からの頼みがあってな、それが一つ。そしてもう一つは……」


 王家からの頼みというのは、この国と同様に自国にも学校を作ってくれという要請だった。


 サラから最近話は聞いていた。学校や病院の方にもこの国の貴族や王宮薬師と偽って以前から、グーテル王国の人が学びに来ていると。


 それでも学校の方には数人しか送り込んでいないから、国全体が変わるにはどうしても人が少なすぎる。職業スキルが学校で多くの人が発現出来るようになって初めて、国の制度? 習慣である、弟子制度を壊すことが出来る。


 そりゃそうだよね。隣国まで人を送るなんてそう簡単じゃない。それなら自国に学校を作った方が将来の為にもなるからそう考えるだろうね。


「学校ですか…… それは急ぎでしょうか?」


「そうだな、急ぎと言えばそうなのだが、それはユウマ君にも都合があるだろうから、出来るだけ早くという事で良いと思う」


 それなら何とかなるかな? 


「それでしたら、1年後でもよろしいですか?」


「1年後? そうはっきりと期限を決めるという事はそれなりに考えがあるという事かね?」


「はい、それで申し訳ないのですが、早急に国元と連絡を取って7人ほど人を送ってもらってください」


「7人? また中途半端な人数だね」


「それについてはサラさんなら分かるよね?」


「はい、恐らく賢者候補の人数と同じですね」


「はい、正解」


「賢者候補?」


 将来義理の両親になる人に隠してもしょうがないので、賢者候補とはどいうものか全て話した。






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