第266話 王制

 俺の一大イベント結婚式も終わり、エリーが画策していていた初夜も無事すんだ翌日、俺とサラは王家との会議に臨んでいた。


 初夜についてサラっと流しているが、そうしないと俺の心がもたない。それはもうこの世の幸せが一度に全部来たかの様な甘美な一夜でした。これ以上はもう人には語りたくない思いです。勿体ないのですよ。誰が人に教えるかというものです……。


「本当に凄かった……」


「ユウマさん? 何か言いました?」


「いや、今日からまた少し大変だなと思っただけでだよ。それはそうとそのユウマさんというのは止めると決めたでしょ」


「あ! そうでした。あなた御免なさい」


 う~~ん、良い響きだ~~。俺は変わらずサラと呼ぶけど、サラには名前を呼び捨てにするかあなたと呼ぶかどちらかにして欲しいとお願いしたら、あなた呼びの方が良いと言われてそれに決まった。「あ・な・た」本当に良い。結婚している実感がもろに伝わってくるから、呼ばれるたびに責任感のようなものが奮い立つ。


 今日から大変だからこの気持ちを押し上げてくれる言葉は本当にありがたい。結婚式前にある程度は王家との話し合いはすんでいるから、どちらかというと王家の会議に俺達が参加するという感じではある。


 今回の会議には二つの国の王家の他に有力貴族、国の役人が参加していて、これからの国の運営に関係する部分をどうするか話し合うもの。そこに俺やグラン一家、賢者候補、見習いがオブザーバー的に参加する。


 途中から俺は会議を抜けているから、どこまでの人に伝えられているとか、どこまで話し合われているかを知らない。


「では、これより会議を始める。追加で報告があった事については知らないものもいるから、先ずはその報告からする」


 成る程、ビクターに話した内容はもうすでにここにいる人達には伝わっているという事ね。その一部はここにいない人たちにも伝わっているから、あの客の多さだったわけか……。


「では先ず初めに報告するのは……。新たにダンジョンが発見された」


 いきなりそこから行くか。島の事は話してあるんだろうか? していないという事はないよな? 真珠の事がある以上話さない訳には行かないからな。


「それは本当ですか! それは何処に?」


 会議に参加していたグーテル王国の役人があまりに衝撃的な事だったからか、国王がいるのに許しも得ず発言してしまった。


「まぁ落ちつきなさい。驚くのも無理もないが質問などは報告を全てしてから受け付けるからな」


 今回の会議の進行はカルロスがやっている。両王家を除けば此処にいる中では最高位だからね。それにビクターに次いで事情に詳しい。


「そしてそのダンジョンで文献にあったスタンビードが起きた。それが収まってからダンジョンを攻略して最下層まで行き、新しい魔方陣を発見した。その魔法陣こそ転移の魔法陣です」


 その瞬間会議室が物凄い騒ぎに成った。止めようにもどうしようもないほどに……。


 進行役のカルロスや王家の者が静粛にするように大声で叫んでも、それさえかき消されるほどの騒ぎ、こうなったら誰も止めようがない。気持ちは分かるよ俺でさえ物凄く興奮したからね。でも止めない訳には行かない、会議が進まないからね。そこで、


 俺がパワーレベリングの時に魔物を拘束するのに使う魔法、バインド系の魔法を全員にかけて椅子に縛り付けた。


 そうなると魔法だけど物理的に動けなくなるので、自分の体の変化に驚き思考がそちらに行く。そうなれば人というのは殆どの人が少しの間、口を閉じて考えるから周りが幾分静かになる。その時間を使ってカルロスが落ちつくように命令する。


 命令が聞こえなくてもそういう事態に成れば、多くの人が王家の方を見るからそれでも落ちつかせることが出来る。当然だよね拘束されているのが自分達だけで王家はなにもされていなければ、自分達に拘束される理由があると考えるのが普通……。


「やっと静かになったか。もう一度言っておきますが報告は最後まで聞いて質問は最後に受け付けます。これを守れないなら会議から外れて貰うからそのつもりでいてください。これは自分勝手に発言しないという意味も含んでいますからそのつもりで、いいですね」


 俺は知らないけど転移という言葉にこれ程反応するという事は、何かの文献に出ているかしていたんだろうな。もしくは言葉の意味から想像出来た者もいたのかな?


 学校の普通科では歴史の授業もあるけどそんな話は聞いたことは無かった。スタンピードだって文献にあったなんて知らなかったからね。


 まぁ前世でも昔にあった事が文献にあってもそれが真実だとは分からないし、口伝されていたものが後世に文献化されても真実がねじ曲がって伝えられているかもしれない。もしくは口伝が途絶えたものもあるだろう。


 貴族の学校では教えていたけど、ここの学校では敢えて教えていなかったという事もあり得る。サラだけが知っていたという事も実際あったからな。王族だけが知っている歴史というのもあるのかもしれない。


 その後は報告と言っても追加報告のような感じだったから、騒ぎに成ることもなく全ての報告が終わった。


「最後にここにいる者全員に両陛下の意向を通達する。此処で見聞きしたことは一切他言無用。家族であってもだ。国家の最高機密であると心得よ。今現在外に漏れている情報は国がわざと流したものだ。それ以上のものがあることを悟らせない為でもある。では質問を受け付ける」


 それからは質問に対してカルロスとビクターが中心になって答えて行き、二人に補足を促された時だけ俺が答えるという感じになった。


 会議の前に質問されたこと以外には答えないようにと言われていたからその通りにしたが、その質問内容から隠している部分もあると判断できた。質問が偏っていたからね。


 本当はこの際だから全部公にして欲しかったけど、丸投げすると決めた以上これが国の方針ならそれに従うしかない。


 間違いなく隠していると分かったのは飛行船の存在だった。真珠やダンジョンの事を暴露するのに飛行船をしないなんてあり得ないと思っていたからね。それが質問の内容に全く出てこないのだ。それにビクターとカルロスが明らかに嘘をつく時もあったから尚更だ。


 そういう状態だったから俺の補足説明も無茶苦茶難しかった。口裏を合わせながらの説明だから物凄く神経を使ってやらなければいけないから、会議が終わった時にはもうヘトヘト状態。


 補足説明を俺だけにさせた意味が良く分かったよ。フランク達にもさせたら説明がバラバラになってボロが出るからな。今回フランク達が参加しているのは単にその偽装していることを分からせる為だけ。国の方針を伝える為だね。


 王家の方針としては王家は全てを知っている。次に知っているのはこの会議の参加者、その次が情報を拾い上げたこの町に来ている人たち。そして最後が国民という感じです。いずれは最後の二つのグループは一つに成るから、最終的に三段階に情報が統制されるという事。


 情報統制という言葉は前世では良くない言葉だったが、この世界では必要な事なんだと思う。だって封建主義、王制だからね。


 会議の後、王様から言われたことは、これからは全て王家のみに報告するようにという事だった。それと今後俺は会議に参加しなくて良いという事も言われた。それには賢者候補と見習いも含んでいるとね。


 その答えは情報を一番持っているのは王家だけという構図を取りたいという事だ。だから暫く身を隠せという意味でもある。今回は結婚式と情報の流布が同時だったから仕方が無かったが、これからは情報の発信源を王家に集約するから、面会も王家のみという事に成る。


 まぁカルロスとビクターは別格扱いに成るとは思うけどね……。パイプ役だから……。


 しかし、物凄く好都合な条件に成った。こちらが隠れるのではなく国が隠してくれるのだ。それに伴って賢者候補と賢者見習いはラロックにある施設から全て手を引くようにとも言われた。グラン商会の拠点を除いてですが……。


 元々国の施設として認定している学校と病院を完全に国の管理下に置くという事ですね。そしてグラン商会は一商店ではなく国の商業部門という位置づけに成る。言うなればグランは商業大臣的な存在という事です。


 本来ならグーテル王国に帰って国作りの中心になる予定だった賢者見習い達も国が隠すという事に成った。国の発展が一時的に遅れるかも知れないが、賢者見習いの見習いを育てるという事です。それをするのは国の方で賢者見習い達ではない。


 これからは発展のペースが落ちても学校の卒業生や留学生が中心になって国を発展させる。その方が他国との軋轢も少なくて済むからというのが両王家の結論。


 これで俺の引きこもりたいという目標がほぼ達成された。


 物凄く皮肉なことですがね。隠そうとばかりしていたから引きこもれなかったのが、全て暴露したら引きこもれた……。


 本当に世の中上手く行かないものです。


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