第208話 やっぱりそうなるよね

 サラとの秘密の研究はこれからも継続していくが、取りあえずは伝書クルンバの実用化が先だ。


 幸いにも輸送部門でのテストは今の所順調に出来ている。命令もある程度なら複雑にしても今の所問題ないようだ。


 まぁ単純に伝書鳩のように使うだけなら、現状でも何の支障もない。それどころか決まった場所から決まった場所へだけでなく、大体の方角が分かっていれば、お互いが動いていてもクルンバは魔力を探知して目的の人に手紙を届けられる。


 クルンバの魔力感知能力は結構範囲が広いようだ。弱い動物程危険察知が早いというけど、魔物でも同じなんだろう。自分を餌にするような魔物から逃げる為にそういう能力が鍛えられたのかもしれない。


「ジーンさん、クルンバは役に立っていますか?」


「やぁ、ユウマ君最高だよ! 良くぞ思いついてくれたよ。今は殆どうちの商品は無いから、ラロックや領都の職人が作った物を運んでるんだが、今までなら配達した時に次の納品量を聞いてくるから、次の配送まで時間が空いていたんだが、今では届けた時に注文を聞いて戻ってくる前に注文内容が分かるから、次の配送までに時間が掛からない」


 そうだよな。戻って来た時には次の商品が準備されているから、殆どとんぼ返りのように配送がされるから、輸送部門にロスがない。それだけでなく職人の方も注文数以上に作らなくていいから、在庫を殆ど持つ必要がない。


 これを商人側も使うように成れば、追加発注も出来るし、職人と商人が直接取引できるようになるから、輸送部門が御用聞きのようなことをしなくて良くなる。


 そうなれば今度出来る交易所ではグラン商会はこれまでの実績から、この国の商社的な役割になり、以前の領のみでやっていた商売の形式にまた戻ることになる。


 国中から商品を集めて、交易所で売りさばき、逆にビーツ王国から仕入れたものを国中に売ることも出来る。そうすると自社に輸送部門を持っている強みが一段と発揮される。


「そう言えばクルンバは交易所まで行けましたか?」


「問題なく行けたよ。ただそれ以上は厳しいみたいだね。今のところは」


 これもこれからの訓練で改善はしていくだろう。長距離専門のクルンバを育成するのも可能だから。ティムの活用方法に魔物を訓練するというのが出来るようになったから、これからもっと色んな魔物で利用できるようになる。


 これにまだ公表は出来ないが感覚共有が加われば、諜報活動にも使える。ネズミのような魔物ムスラットを使えば家の中まで侵入できるから、諜報員が危険を冒す必要がなくなり、今まで以上の情報が手に入る。


 クルンバの使い方を見れば、他の国もそこに気づくかもしれないが、当分はティム魔法の改良は隠匿されるから、その間に対策を考えれば防ぐことは出来る。


 これからはそういうセキュリティーにも配慮して行かないといけない時代になる。文明が進化すれば、そういう事は当然起こることだから……。


「ユウマ君、そういえばそのクルンバなんだけど、辺境伯様から欲しいと言われているんだけどどうする?」


 まぁそうなるよね。これだけ便利な物が普通に使われていれば、その事が評判になるのは当たり前だから、領主の耳に入らない訳がない。


「それ領主様だけで済みます?」


「あぁそうだね。領主様が知っていれば当然国にも報告されているね」


 ここの領主のビクターは国とのつながりが深い。学校や病院の前からグラン商会はこの国を騒がせているから……。


「クルンバはあの後も魔石の入れ替えはしていますから、交易所の分も全てやれば国からの要望があっても対応できると思いますが、問題は使い方をどうやって誰が教えるかです」


「ユウマ君、もしかして、それって私にやれと言ってるの? 無理、無理、無理……私にはとても……」


 クルンバの運用に一番慣れているのは、俺と従業員を除けばジーンなんだから当然ジーンがするのが当たり前。


「当然俺は無理ですし、流石にそれを輸送部門の人にさせるわけにはいかないでしょ。よろしくお願いしますね」


「はぁ~~~ とうとう私にもそんな役目が回って来たか……」


 賢者候補ではないジーンだけど、地道にレベル上げはやっていたし、グラン商会関係の仕事はジーンが殆どやっているから、オックスの牧場にも関係が深く、ティムの魔法は修得している。だからクルンバの説明も出来るという事です。


「国の方は領主様に任せて、領主様の方だけ対応すれば良いんじゃないですか?」


「あぁ、その手があるね! ありがとうユウマ君、それでやってみるよ」


 後日ビクターから連絡が来たが、講習は国の騎士も同席するからと連絡が入り、ジーンの思惑は外れてしまった……。


 そんな中……。


「サイラスさん、訓練の方は順調ですか?」


「あぁ、ユウマ君、訓練の方は問題ないとうか、順調すぎて怖いくらいだよ。中には現役に復帰しようかという奴もいるぐらいだ」


「そうですか、それは何よりです。孤児の方もそうですか?」


「孤児の方はまだ基礎訓練だからあれは使わせていないから、まぁ普通だな。それでも心構えが違うのか、普通の新人冒険者よりは熱心に学んでいるよ」


 今まで毎日食べる物にも苦労していたのが、ここに来てその苦労が無くなり、尚且つ手に職が付けられるんだから、やる気が違うよな。


 孤児達にはそれぞれの希望を聞いて、職人になりたい人にはその為の知識を覚えさせている。それ以外は俺の私兵になることを希望しているから、訓練をして戦い方を覚えて貰っている。


「それでは武器の方は問題ないという事ですね」


「問題ないどころか、さっきも言ったけど現役復帰を考えたくなるほど、強力な武器だよ」


 サイラス達、引退した冒険者や引退を考えていた冒険者には、孤児の指導と魔法武器のテストをやって貰っている。


 剣や槍の性能は想像がつくが、それ以外は未知数、特に防具に関しては初めてだからテストを入念にやって貰っている。


 通常の武器と魔法武器による、防御性能の比較もやっているし、魔法による攻撃の防御性能も当然確かめている。


 これには錬金術三人衆も交代で参加している。参加と言っても作る側での参加だが。


 付与術の研究を三人に手伝ってもらいながら、付与魔法もやらせているから、魔法武器も製造に携わっている。


 斬鉄などの付与魔法は見て覚えることが難しいので、初めは苦労していたが、ステータスに付与術がある三人は補正が掛かるのかイメージが足りなくても一応は付与できるようになっている。


 ただやはりこれも習熟度なのか、毎回成功する訳ではなく、1つの武器に何度か魔法を掛けることも多い。そのせいで魔力切れが早く効率が悪い。


「エマさん、今日はエマさんが担当でしたか」


「はい」


「ところでアクセサリーの方はどうです? この間アドバイスしたけど結果はどうなりました?」


「そうです! 報告が遅れましたが結界の魔道具は完成しました。ユウマさんが教えてくれたように結界も魔法自体を改良したら、消費魔力が減って、色んなパターンの魔道具が出来ました」


「それってもしかしてあれもですか?」


「そう! あれもです! エッヘン!」


 エマが誇らしげに言うのも無理はない。物凄く画期的なものだからね。そう毒物防御の魔道具だから……。


 毒耐性とか毒無効の魔道具を作ろうとすると、どうしても無理がある。だから結界の魔法を応用して毒が入れない結界を考案させた。


 食事の時に魔道具を起動させてけば、毒物が入った食べ物は結界内に入れないので、口にすることが出来ない。


 始めは結界の範囲を狭くすることから始めさせ、体に沿うように結界を張る様にさせた。そうすると結界が小さくなるので魔力消費が抑えられる。その時にその結界に毒物が入れないイメージも追加させたらから、毒物用の魔道具が出来た。


「それじゃ常時発動型も出来たんですね」


「はい、毒物に対応してる結界としてない結界。常時発動してる結界、必要に応じて発動させる結界と色々出来ました」


 常時発動型は魔石の交換で対応するようにしたもの。発動する魔法の魔力を別の魔石で行う様にさせて、付与をした魔石と分けたのだ。


 これだと魔石の交換時は付与した魔石の魔力で発動してる状態になるから、魔法が切れることがない。


 ただまだ改良の余地はある。どうしても現状だと魔石がそれなりの大きさが必要なのだ。これを小さく出来るように成ればもっとデザインにも種類が増やせる。


 食べ物による毒物だけなら、結界を口元だけに張れるように成れば出来るのではと思っているが、結界というのは不思議なことに小さく張る方が難しい。







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