第207話 一歩一歩

「サラ、今説明した事理解出来ました?」


 今回の感覚共有の魔法は特に真似し難い魔法。目で見れる物では無いから特にね。


「ユウマさんが言ってることは何となく分かりました。でも具体的にイメージしろと言われたら難しいです」


 そうだよな……。アニメみたいなものが作れれば、それを見るだけでイメージしやすくなると思うけど現状は厳しいよな。


 アニメ? アニメは無理でも絵に描いたらどうだろう? 漫画でも日本人はイメージ出来るからな。やらないよりはましか?


「これならどうでしょう?」


 漫画は描けないが、言葉だけじゃなく説明に絵を入れながらやってみた。


「成る程、そういう事ですか。これなら先ほどよりもっと理解出来ました」


「それじゃ、俺が魔法を掛けて実験をしてる間に、このクルンバでサラも試してみてください。成功すればクルンバの目を通して自分が見えるはずです」


「感覚共有!」


 おぉ~~ マジか一発で成功したよ。でもこれ凄く気持ち悪い……。


 そう言えばアニメでも言っていたな、慣れないと気持ち悪いと。それにしても良く作者は魔法が有る訳ではないのにこれを認識できたな? 実際やったらどうなるかまで想像したんだろうか? 


 これは意識して画面を二つにするイメージが出来ないと俺自身の視界も無くなる。


 これって並列思考? 感覚共有だから痛みとかも共有するのかな? これは拙いな!もっと細かくイメージした方が良いな。視野と聴覚のみ共有というように……。


「サラ! ちょっと待って! もう少し説明がいる。このままのイメージでは良くない」


 俺は一旦感覚共有の魔法を止めて、もう一度サラに魔法のイメージを説明し直した。俺も、もう一度イメージを限定したものに変えて魔法を発動する練習を繰り返した。


 今ならまだ魔法名とイメージが固定化されていないだろうから変更も出来るだろう。


 そう考えると、魔法名とイメージの固定化は個人の問題なんだろうな。世界が判断してるのはステータスに載せるかどうかとその魔法を認めるかどうかだけ。


 それと多少は世界が魔法に補正は掛けているだろう……。そうじゃないとイメージなんて個人で微妙に違うはずだから、近い物は世界が均一化してると考えた方が辻褄が合う。


「ユウマさん! 出来ました! これ物凄く面白いですね」


 おう~~ 風魔法は苦労してたのに今回は早かったな。こういうのも適正なんだろうか?


「おめでとう! 良かったですね。次はこの魔法がどのくらいの距離まで使えるかですね」


 この魔法はステータスで確認したが、使ってるあいだ魔力を消費してるから、距離と時間に制限が有ると思う。それにアニメのような従魔術ではないから、自由自在に操ることは出来ないから、使い方にも制限が有るだろう。


 しかしそれも念話のようなものが作れれば、可能になるかもしれない。命令を遠距離から出来るようになるから。


 意思疎通は出来ないけど、命令は伝えられる。そういう従魔術……。


 念話は出来るだろうか? 電話は音を電気信号に変えて伝達して、再び音に戻してるけど、この世界だと音を魔素にして送るという事になるのか?


 念話というのはやっぱり無理があるよな。それなら電話と同じように考えた方が無理がない。


 ちょっとサラに分からないように、魚の極小魔石に電話的な魔法を付与してみるか?


「あちゃ~ ダメだなこれでは……。流石に魔法が高度過ぎて極小魔石では無理だ」


「ユ・ウ・マ・さん! な・に・し・てますの!」


 やべ! また声に出してた。駄目だな本当に最近良く思ったことが独り言のように声に出してしまう。


「いや、な!何でもないよ!」


「誤魔化さないでください! 私は病気だったせいか魔力には敏感ですから近くで魔法を使われると分かるんです。それに高度な魔法程分かりやすいんですよ」


 わぁ~~ そんな事あるんだ。初めて聞いたよ。凄い事だよな、魔力感知も使っていないのに魔法に気づくなんて……。


 目が一時期見えなかったりした人が、音や臭いに敏感に成るようなことなんだろうか?


「ちょっとね、極小の魔石に魔法を付与しただけだよ。失敗したけど」


「ほら! やっぱりやってるじゃないですか。ユウマさんがそういう事をする時はとんでもない事をやろうとしてる時です。正直話してください」


 バレたらしょうがない。サラには夢の本を渡しているから、電話の事も知っているので知られても問題ないか。


「ティムの魔法は改良出来たから、命令をその都度色々出来るようになったけど、一度離れたら命令の変更が出来ないから、それをどうにかしたいと思って、夢の中の電話のような魔法が付与出来た魔石を持たせたら、離れたところから命令できるかな? そう思ったから、クルンバ用に極小魔石に付与を試したんだよ」


「それで失敗したと」


「そう、高度な魔法だから流石に極小の魔石では無理だった」


 やった後に思い出したけど、付与魔法は高度な魔法程、魔石のレベルや大きさが無いと出来ないことを……、バカだよね俺って。


 高度な魔法になれば必然的に出来たとしても魔方陣が大きくなる。魔方陣が大きいという事は付与する魔石も魔素濃度が濃いレベルが高い物で、また大きさも無ければならない。


 ん? それって魔法を分割して回路のように繋げれば出来るという事では……。


 いかん、さっき段階を踏むと言っていたのに、いきなり電話の魔法の開発などをしようとするなんて。駄目だな一度冷静になろう。


「それでその魔道具は魔石を変えれば作れますの?」


「多分出来ると思う。ただ魔石次第だし、魔方陣が大きくなるから魔道具も大きくなると思う」



 付与による魔道具なら魔石は最低でもレベル15クラスかそれ以上。魔方陣の魔道具なら本体は最低でも公衆電話以上の大きさになるだろう。


 魔法は発動したから、俺が鑑定で見れば魔方陣は解析できると思うけど、どのくらいの大きさなのかは予測でしかないけど……。


「ユウマさん、そんな魔道具世の中に出せますの?」


「はい、無理です。ごめんなさい」


 世の中に出せない物を作ろうとする俺のこらえ性のなさ、本当に欲望に忠実だよな。


 良く考えたら、感覚共有の魔法が切れたら戻る様に命令した方が現状簡単に出来そうだ。いきなりティムを従魔術のようにしようとすること自体が間違い。


「無理ですよね。本当に自重して下さいね……、 でも二人だけが使うなら……」


 何だよサラも欲しいんじゃないか、本を読んでるから便利さを理解してるから欲しいと思うのは当然なんだが、怒るなら中途半端は止めて欲しいな。怒られ損だよ。


 サラに言われて思ったが、電話は無理でもモールス信号みたいなものは確実に出来るな。これなら世の中にも出せる。


 ん? それならクルンバの方を訓練すればどうだろう? イルカや犬の訓練で笛を使う時があるから、音に反応する訓練をしたら簡単な命令の変更は出来るんじゃないかな?


「ピ!」一回なら戻れ、「ピ!」二回なら〇〇とかね。「ピ」という音だけを出す魔道具なら魔石は小さくても出来るんじゃないかな?


 送る側は魔道具を大きくしても問題ないだろうから、それなら距離も時間も克服できるんじゃないだろうか?


 電話はさて置き、俺の考えたことをサラに話してみたら、それなら問題ないだろうし、この先の布石にもなるだろうから、やっても良いという許可が出た。


 でもな~ それやると伝書クルンバの意味がなくなるんだよな。モールス信号が直ぐに可能になるから。


 やっぱりこれは俺とサラの二人だけの秘密にしておいた方がいいな。当分は遠距離での感覚共有は諦めて、見える範囲でのみ使うようにしよう。


 勿論、ここまで研究できたんだから、段階別には作って今後順次発表出来るようにはしておこう。


「サラ、やっぱり当分は感覚共有の魔法も秘密にしょう。魔道具の開発は進めるけど当分は世の中には出さない。鑑定の魔道具のようにね」


「そうですね。それが良いと思います。ですけどユウマさんが何時ものようにぽろっと漏らさないで下さいよ。最近特に口が軽くなってるようですから」


 いやほんと、最近の俺は独り言のようにぽろっと口に出すことが多くなってるから気を付けないとな……。






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