第143話 視察
婚約発表の翌日から、お父さん達の視察が始まった。
「この学校は凄いね。話には聞いていたが実際に見るとこれほど効率の良いスキルの発現方法があったなんて、驚愕するよ」
「そうですね。今までどれだけ無駄な時間を使っていたか、お分かりになると思います」
「本当に無駄な時間だ。数年から下手したら十年という歳月を無駄にしてる。スキルを持っている人が多くいればそれだけ産業が栄えるのにな。まぁそれには作れるものが増えなくてはいけないんだが」
「その点はこれから変わっていきますよ。学校で研究、改良という考え方も教えていますから、徐々にですがここから巣立った人たちが色々作ってくれますよ」
その兆しは少し見えている。病院に患者を搬送するときに救急車のように改良したことで、他にもそういう改良が出来ないかと考えた人がいる。
それが移動店舗。行商人が今まで使っていたのは普通の荷馬車だったが、馬車自体を改良して店のように改良したのです。
他にも井戸の水をくみ上げる滑車にベアリングを使うようになった。
リヤカーにもベアリングは今は使われている。卒業生が作り始めたそうです。
学校にいると多くの職業の人と関りになる。同じ生徒やラロックの職人とも交流が生まれるので、知識の交流が行われる。
これまでは自分の職業以外の知識は皆無だったが、いろんな知識が入る事と、学校で習う、改良や研究の考え方が合わさり改良された滑車を産んだ。
弟子制度というのもが存在していたから、余計に職業間の交流がなかったんでしょうね。勿論、教育も足りていませんが……。
「ユウマ君? 彼らは何をしているんだい?」
「あぁあれですか、あれは無属性魔法の身体強化と結界の魔法の訓練ですね」
「あれが身体強化! 凄いものだね。普通の人間では出来ることではないな」
「身体強化に関しては殆どの人が出来るようになると思いますよ。結界は出来ない人もいますが」
「え! わしでもあれが出来るのかい?」
どうしよう……、 誰でもとは言ったけど、高齢の人が出来るようになるのかな?
身体強化にはMPとHPの両方が関係してくる。MPは年齢に関係ないけど、HPは違う。年を取ると自然に減少する分もあるから、レベルがある程度元から高い人じゃないと無理じゃないかな?
ちょっと失礼して、鑑定。
「身体強化には一定のHPが必要なんですが、お父さんは現状ギリギリという感じですね。少しレベルを上げてからなら出来ると思いますよ」
本当はHPは足りているのだが、大丈夫と言えなかった。問題なのはMPの方。貴族だから鍛えているんだろうが、お父さんは勉強の方は嫌いみたいだな。
レベルが上がってる割にMPの上昇率が良くない。俺の場合は特殊だから参考にならないが、錬金術師三人衆のMP上昇率をみるとHPより多く上昇している。
これは以前に考察した知能の数値が関係している。正直お父さんはこの知能の数値が高くない。だからレベルが上昇するときにHPの方に多く振られる。
決してバカだと言ってるわけではないんだよ。知識が少ないというだけ。
貴族で公爵なんですから、それなりの知識はあるんでしょうが、多分その知識が偏っているんだと思う。
政治の知識や武術に関する知識。武術に関する知識だとMPよりHPに多く振られるのかも知れない。
だってね、この年で身体強化が使いたいと思う人ですよ。どちらかというと脳筋でしょ。
グランよりは若いけど、冒険者ならそろそろ引退を考える年齢なんだよ。
「ここがスライム養殖場です。向こうにあるのが学校の所有する畑ですね」
「我が国はエスぺランス王国と親密だから、特許に関する情報も色々入ってくるが、スライムにあれほど多くの使い道があったとは、驚きだったよ」
現在グーテル王国でもスライム養殖の準備が始まっているそうだ。
学校建設が決まっている以上この先絶対に必要になるし、スライムクッションやパウダーなど、今すぐにでも使えるものがあるのだから当然でしょう。
勿論、これらの特許については各国大使を通じて無断で使用することはさせないと通達している。もし無断使用が発覚したら、巨額の賠償金を請求すると通告している。
それに無断使用が発覚したら、今後登録される特許について一切使用を禁止するとも伝えている。
それに伴って国内の特許使用についても新たな法律が作られている。特許を使用する人がその情報を他人に教えてはならないという法律が作られた。
情報漏洩をした人は犯罪者として処罰され、財産没収の上、鉱山での労役が課される。
他にも特許の情報を閲覧開示するには商業ギルドで国籍などが分かる、身分証の提示が義務付けられた。
特許に関する法律がどんどん進化してきている。噂だが近いうちに特許に関する国際会議が開かれるという話しだ。
その会議では医療分野も当然議題になるだろうから、確実に教会やロッテン神聖国と揉めるだろう。
学校の視察が終わって、グラン商会の拠点の視察が始まると、サラのお母さんの目つきが変わり始めた。
「ユウマ君、ここで化粧品が作られているんですよね?」
「はい、そうですがそれが何か?」
なんかやばいぞこれ! お母さんの目つきが獲物を見る目だ。
「サラの話ではここで化粧品の研究がされているんですよね。それなら次に販売される新商品もありますよね?」
そういうことか。確かに次に販売されるニューモデルや、まだ販売はされていないけどチークやアイシャドウなどの研究はされている。それが欲しいという事ね。
「まだ完成していないので、販売は出来ませんが、完成しましたら直ぐにお母さんにはお送りしますよ。勿論、これから新商品が出るたびに……」
「そ! そうなの! なんだか申し訳ないわね。でもありがたく頂くわ」
まぁ義理の親になる人だ、これぐらいは優遇しても良いだろう。
この国の王家にも一番に送っているからね。但し無料ではないけど……
その後もガラス工房では特注の鏡やガラス食器を大量に注文していた。これ視察なんでしょうか?
色々ありながらも、拠点の視察を順調にしていたのだが、ある所で視察が進まなくなった。
「グランド殿、こ! これは噂に聞くウイスキーとブランデーですかな?」
「はい、そうです。私の個人的コレクションです」
ウイスキーやブランデーの量産はされてきているけど、まだまだ輸出が出来るほどは生産されていない。まして此処にはグランが一般販売には回していない、1年以上熟成された物が大量にある。
「ミュラー公爵様、試飲されてみますか?」
「な! なんとよろしいのか? わしはこの国の王宮から送られた物を一度飲んだだけで、虜になっているのじゃ。叶うなら是非お願いしよう」
そこからは視察なんてどこへやら、試飲から始まって、そのまま宴会に突入してしまった。
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