第320話 ユートピア初代国王
カルロス達を島に送りだした次の日、代表ロベルトと副代表のラングとマッドがやって来た。
「良く来てくれたね。今日来てもらったのは此処ユートピアを国にするという事を皆に報告する為なんだ」
「という事は、宗主様が国王に成るという事ですね」
「いやいや、成るというのではなく、成って良いかという事。決めるのは住民だから了解が欲しいと言ったら良いかな?」
「「了解など必要ありません!」」
即答かよ、それも三人揃って。まぁこの三人はこう言ってくれるとは思っていたけど、ここまで即答されるとこちらの方が恐縮する。
「本当に良いの? 俺みたいな若造で?」
「何をおっしゃいますか。此処を解放したのが宗主様で、此処が解放されてからの住民の笑顔を作ったのも全て宗主様です。今まで何十年とこんな笑顔が此処に溢れたことなどありません。学校、病院、帆船作り、米作り、ガルスの繁殖、鉱山の発見とどんどん良くなるばかりで、不満を持つものなど一人もいません」
ここまで面と向かって言われると照れ臭いな。俺の欲望を叶えるために必要だったからというのが一番だから、こうまで褒めちぎられると申し訳ない気持ちにさえなる。
「では三人は了解してくれたという事でこの先の話をするよ……」
三人に話した内容は、先ず住民に此処がユートピアという国名の国に成る事という事と初代国王が俺、ユウマ・コンドールで、建国と同時に名前をユウマ・コンドール・ユートピアに改名するという事を説明した。
次にユートピアの領土が隣国のミル村周辺も含むという事。ビーツ王国とフリージア王国の了承も取り付けてあって、一応俺がもう国王として承諾はしてあるから後は建国後にサインするだけだと伝えた。
「ここまでは良いかな? 突然ミル村も領土に成ると言われてもピンとこないだろうから、近いうちにミル村に行って村長に会って貰おうと思う。中々のやり手の女性だから、頑張ってね」
「「女性なんですか!」」
「残念、女性は女性でも老女だよ」
女性と聞いた時の反応が凄かったけど、いったい何を期待していたんだか? 三人とも確か妻帯者の筈だから、浮気でも考えていたのか? それとも単なる好奇心? まぁ同じような役目をする仲間に若い女性がいれば楽しいのは分かるが、何と言っても村長だぞ若い訳がないだろう。それぐらい気づけと言いたかったが、可愛そうだから黙っていた。
こういう洞察力、思考力、観察力なんかはこれから磨いて貰わないといけないな。国を運営するには必要な能力だからね。それでも求心力だけは持っているから今はそれで良い……。
「それからこれも、建国と同時にエスペランス王国、グーテル王国、ビーツ王国、フリージア王国との五か国同盟を結ぶことに成っている。これから細かい内容は詰めるけど、大まかには軍事同盟と経済同盟を結ぶという事だね」
「宗主、いえ、国王陛下、同盟は良いのですが、ビーツ王国は大丈夫なんですか?」
「いやいや、まだ陛下は止めてよ。正式に宣言したらその時は受け入れるから、それまでは宗主どまりでお願い」
「駄目です! 国王に成る方がそんな事ではいけません。言葉遣いも直して下さい」
ロベルトのこの発言の何が面白かったのか、俺の後ろで話を聞いていたサラがクスクスと笑いを堪えながらお腹を押さえていた。
「な! 何ですサラ。そこは笑う所ではないでしょ」
「だってあなた、私も昨日婆やに同じように王妃様と言われた時にあなたと同じことを言ったら、婆やにもロベルトさんと同じ事を言われたんですもの」
確かにサラは今までエリーにお嬢様とかサラ様としか呼ばれていないのにいきなり王妃と呼ばれたら、俺と同じ様なことを言うよな。それに対する答えがまた同じなら可笑しくもあるか……。
「分かりました。でもこれはエスペランス王国のカルロス宰相にも言いましたが、公式な場所以外ではもう少し気楽に話してください。いやくれ」
マジにムズイよ。前世でも主任止まりの俺に人に命令口調で話すなんて、ハードル高過ぎ。サラは公爵家の人間だからまだそこは問題ないだろうけど、俺には本当にきつい。分かってはいるんだよ慣れないといけないという事はね。でも……。
「今は一応了承しますが、出来るだけ早く慣れてください」
「分かりました。さあ次行きますよ! あぁさっきの返事がまだだったね。ビーツ王国の方は問題ありません。かなりこの前の脅しが効いているようで、エスペランスからの提案に二つ返事だったそうです」
「それでは、金鉱山の事も……」
「いや、それは当分秘匿することにしている。これはカルロス宰相とも合意してるからそのつもりで」
「今度こそ次行くよ。次は三人にやって貰いたい事なんだけど、ちょっと大変なんだ」
「「何なりとお申し付けください」」
スゲ~~、この人達ちょっと前までは庶民だよ。それも農家、商人でもなかったのに良くそんな言葉使えるね。どれだけ三人が頑張ったのか? それとも教えたマックスが凄いのか? こっちがビビるわ!
「一つはさっき話した内容を住民全員に話して承諾を取って欲しい。金鉱山の事もね。今はまだ良いけど同盟が結ばれたら、ビーツ王国やフリージア王国からも人が来るだろうから、当分は秘密にしたいから協力してもらいたい」
「承諾と言うのは宗主様が国王に成るという事ですね。必要ないとは思いますがご命令とあらばやらさせていただきます」
いや~~~、会話を続けるだけで肩が段々重くなる……。
「承諾はそうなんだけど、そのついでに住民の名前と家族構成、住んでいる場所、持っているスキルがあるならそれも調べて来て」
「名前と家族構成……」
「言いたいことは分かるよ。物凄い数だし範囲も広いからね。それに住んでる場所をどう書いて良いか分からないよね。それでこれを使って欲しいんだ」
「こ! これはユートピアの地図ですか! 物凄く精巧に書かれているみたいですが」
国を作ると考えた時に法律も必要だとは思ったけど、それには戸籍、人口、住所、土地の区割り(所有者)などをはっきりさせないと、法律を決める上でも必要になると思ったから地図を作ったんだ。
俺の魔法には行ったところなら地図を作れる能力があるから、昨日の夜のうちにユートピアとミル村のまだ俺が行ったことのない場所をぐるっと回って地図を作製したのです。その上で紙に複写、ゼンリンの地図のように一軒づつ家も書かれているから、村と町ごとに番号を振って村名、町名と番地を書いて住所を作った。
滅茶苦茶大変だったよ。地図に番地を振るのがこんなに大変だとは思わなかった。数字を入れるだけなのにね。地図に数字を入れている間中、ゼンリンの人や役所の人は凄いなと前世を思い出しながら、感心していた。
「宗主様、このエデンとはこの村の事ですか?」
「そうそう、他の町や村は変えなかったけど、此処は特別だからね。だから村の名前も改名したんだ。小さくてもここを俺は王都にしたいから!」
「ここを王都……、でも……」
「いいのいいの、俺の性格上、城や屋敷に籠るタイプじゃないから、住むところなんてどこでもいいぐらいだから、色んな意味で都合が良いここが王都で良いの」
「……」
「そこまで気にするなら、近いうちに森と山を切り開いてそこに城か屋敷を作れば良いでしょ」
「そこまで言われるならそれは良いとして、役人はどうするのですか?」
「役人というか役所は今まで通り元領都エジンに置いてそこで仕事もしてもらうつもり。だって人口もあそこが一番多いでしょ」
これには俺なりの考えがあってそうしている。王制ではあるが貴族は作らないつもりだから、国の運営は選挙で選ばれた議員にやって貰う。勿論、最終決定権は俺が持つから、どちらかと言えば前世の大統領制に似ているかな。
「そして、役人は試験で採用するからその事も伝えてね。試験は俺との面接だから、読み書き計算は出来なくても良いよ」
「え! 読み書き計算が出来なくても良いんですか?」
「いいよ、そんなものは覚えれば良い事だから。俺が求めている役人は……。おっと!これ以上は言えないな。試験問題だから」
こんな事する国なんて今まで無かっただろうから困惑するのも無理はないが、これが俺の考える国作り。
「あぁそれと一番大事な事なんだけど、この国には貴族は作らないからそのつもりで、その代わりに住民全員で10人の国の代表を選んでもらう。選挙という方法でね」
この後も法律の作成や選挙の事などを三人に説明して、どのように進めるか話して行った。
そして最後に三人には衝撃的な事を伝えた。
「君達三人は建国までで代表と副代表の地位を辞めてもらう」
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