第321話 新たな賢者見習い

 衝撃的な俺の言葉に三人は唖然として一言も口に出来なかったが、三人が言葉を発する前に、


「君達にはこれから俺の弟子になって貰う」


「宗主様の弟子……?」


「まぁ君たちも薄々は分かっていると思うけど、俺やフランク達は賢者と呼べる程の知識や技術、魔法が使える。そしてそのフランク達を教育、育てたのが俺。まぁ強いて言うなら俺が大賢者でフランク達が賢者という事だな。そして先ほどの話に戻ると君たちは賢者に成る為に俺の弟子に成るという事だ」


 おう、中々良い命令口調で話せたな。フランクと呼び捨てにも出来たし……。


「私達がその賢者に成れるのでしょうか?」


「時間は掛かるだろうが成れると思うぞ。フランクとロイスも元は商人だからな」


「そうなんですね。何でも知っている方だとは思っていましたが、まさか元は商人だったなんて信じられません」


「あぁ君達にはまだ言っていなかったが、彼ら賢者は一人を除いて全員男爵位を叙爵されているから、そのつもりで対応してね。でもユートピアの爵位じゃないから、他国の貴族だね。男爵位を叙爵されなかったマーサはグーテル王国の王女だからだよ」


 この辺が彼らには難しいよね。俺の考える賢者は本来、国に所属しないものにするつもりだったけど、結局それは無理だったから、今の形になっている。でも俺と一緒に居る事でどこに行っても賢者として色々するから所属はあってないような物。


 ただな~~、これから俺は一国の王だから、所属が無いとは言えなくなるんだよね。


「王女! 宗主様の弟子には王女様がいるんですか」


「そう彼女は少し変わっていてね。国の為に成るならと自分から志願して来たんだよ。凄いよね。あぁちなみに俺の嫁さんサラとは親戚だから」


「王族が二人も……」


「そんなに気にすることは無いですよ。私は賢者でもないし、王族と言っても公爵の娘ですから。ただマーサは正真正銘の王女ですから、グーテルの関係者の前では注意してくださいね。賢者の半分はグーテルの人ですから特に……」


 サラは賢者では無いけど、レベルも知識も賢者より上なんだけどね。それに属性魔法まで使えるように成っているから、俺がいなければサラが大賢者でも良いぐらい。只、サラにはスキルがフランクや他の賢者程ないから、微妙な部分もある。


「そう言えば君達三人、スキルは何か持ってるの?」


「持ってはいますが、スキルだと自慢できるような物ではありません」


 自慢出来ないスキル? そんなスキル何て無いでしょ。スキルはどんなものでも生まれつき持って生まれるスキル以外は何らかの努力の結果なんだから。


「一応、聞いても良いかな?」


「私は気象というスキルを持っています」


「私も同じく気象のスキルです」


「ちょっと待って、もしかして君もとか言わないよね」


「申し訳ありません私もです」


 こ、これは凄い! 今まで俺が一度も会った事のないレアスキル持ちが三人もここにいるなんて、確率的にもあり得ない事だよ。ラロックの住民は殆ど全員鑑定したことがあるけど、気象なんていうスキルを持っている人に会った事がない。


 確かにラロックにはここより農家は少なかったけど、それでも農家はいたんだから、一人位いてもおかしくない筈なのにいなかったという事は気象のスキル発現にも法則があるという事だ……。


「三人ともが気象のスキルで自慢できるスキルじゃないという事はこのユートピアにはそのスキルを持っている人が珍しくないということなの?」


「いえ、このスキルを持っているのは私達三人だけです」


 え! 三人だけ。それなのに自慢できない? この人達はこのスキルの凄さを理解していないのか? 気象というレアなスキルだったから俺の鑑定EXで詳細を調べたから分るけど、天気を100%当てるんだよ。こんなスキル農家にとっては喉から手が出る程欲しい物だぞ。


 この人達がいたからあの悲惨な状況でも何とか生きてこれたと言ってもおかしくない。物凄い重税でも何とか食べるものを残せたのはこの人達が天気を予測して、効率よく作物を育てられたからだ。


 あ! だからこの三人は此処の住民に人望があるんだ。この人達は理解していないかも知れないが、気象のスキルが今の自分達の立場を作っていることを……。


「君たちはその気象のスキルの凄さが分かっていないね。そういう所から勉強すれば賢者に成れるよ」


「気象のスキルが凄い?」


「サラ、君は分るかな? 天気が予測出来たらどんな事に役立つ?」


「ん~~~、そうですね。作物を育てるのに役立つのは当然として、漁師なら船を出してはいけない日が分かりますね。今ここにある帆船なら風の強さや向きが分かるなら航行にとても役に立ちますね」


 急に言われたからサラもこれぐらいだったが、他にも色々使える。例えば用水路や道路を作るような土木工事にも天気が分かれば作業工程を調整できるし、事故もなくなる。彼らのスキルの習熟度度合いによっては、予測できる範囲が違ってくる筈だから、正確には言えないが、週間天気や月毎の気象の変化や季節毎の変化まで予測できるかも知れない。


 言い換えれば、予測する内容によっては前世のスパコンより確率が高いという事。当たる確率が100%なんだから……。


「分かったかな? 君たちは農家だったから農業にしか役立たないと思っていたかも知れないが、天気が分かるというのは色んなことに役に立つんだ」


「あぁ確かに、漁師の友達に何度か天気を聞かれた事がありました」


 漁師も天候に左右される仕事だが、その人達に気象スキルが無いという事は、そこに気象スキル発現のヒントがあるかも。それならこれも訊いてみるか?


「君たちは役人の読み書き計算についての俺の方針の時に反応してたという事は君達は出来るんだね」


「はい、出来ます」


「では、ロベルトが天気を聞かれたという漁師は出来たかい?」


「――確か簡単な計算は出来ましたが、読み書きは出来なかったと思います」


 成る程、これで一つは分かったかもしれない。気象スキルの発現には知識の数値が高くないと駄目なんではないだろうか。本が読めるレベルの読み書きは最低出来ないと無理なんじゃないかな。これは錬金術三人衆の例からも分かるが、彼女たち三人は本が読めるレベルだったから錬金術の発現が早かった。特にローズは……。


 弟子になる話だったのに、スキルの事に話がずれてしまったが、これは異常に興味深い事なので、もう少し突っ込んだことを聞いてみる。


「ロベルトさんのお父さんのスキルはなんでした?」


「父も気象スキルでしたから、大したスキルじゃないと思っていました」


「そうなんだ。では他の二人の父親はどうでした?」


「私の父はスキルは持っていませんでした」


「うちもそうです。でも天気は良く当てていましたね」


 これは分からなくなったぞ。ロベルトの父親の話だけだったら遺伝的なものも作用してるかとも思えるが、ラングとマッドの話を聞くとそれが分からなくなる。ラングは遺伝の可能性がないが、マッドは少しあるように感じる。


 そうか! 遺伝じゃなく知識の伝達と考えればラング以外は成立するな。


「ラングの父親はスキルが無かったという事だけど、読み書き計算は出来たかい?」


「はい、領主に税を納める役目をしていましたから」


 ラングの父親は税を納める仕事をしていたから気象の変化に敏感だったんじゃないだろうか? 不作なら自分達の生活が苦しくなるんだから。


「ということはラングもその仕事を?」


「はい、父から引き継ぎました」


 確定かな知識の伝達と知識の数値の高さがスキル発現の条件に成っているのは……。


「三人ともこんな質問ばかりされておかしいと思ったでしょ。何でこんなこと聞くんだろうと。これは今学校でスキルの発現をする為の勉強や訓練をしてるのに関係があるんです。スキルには先天的に生まれる時から持っている物と後から身につくもがあるのは知っていると思いますが、その後から身につくものには取得条件があるんです。その取得条件を揃えて短期間でスキルを取得させるのが学校です。つまり君達三人の気象スキルにも取得条件があるという事です。だからそれを探す質問をしたんですよ」


「それって、気象スキルも誰でも身につくという事ですか?」


「まだ分かりません。完全な条件を見つけるのにはもう少し時間が掛かりますね。でも三人の話を聞く限り、天候に関する知識の伝達があった事と読み書き計算が普通に出来る知能がいることは分かりました」


「宗主様、今までのお話を聞いていますとスキルは条件さえ満たせば幾らでも身につくと言っているように聞こえるのですが」


 ロベルトはやはりかなり優秀だ。賢者に成れる素質十分だな。


「その通り! スキルはいくつでも身につける事が出来ます。フランクは現在三つのスキルを持っています」


「……」


 あまりの驚きに三人は声が出なかった。












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