第124話 世の中そんなに甘くない

 飛行船の事は信じてくれた二人だが、今度は自分達にも手伝わせろと言って聞かない。


 そう言われても学校や病院、拠点運営など多くの事をやりながらだから、そう簡単にはいかないと言って聞かせても、今度は自分達は現状直接は関わっていないから大丈夫だという。


 確かに賢者計画の為に現場からは離れてもらっているからその通りなんだが、飛行船はこの魔境の拠点で作っているから、距離的に製作を手伝うとなれば泊りに成るので無理がある。


 俺なら2時間で通えるからまだ可能性はあるけど、フランク達ではまだその時間では来れない。


 そんな押し問答をしていたら、話の輪からいつの間にかいなくなっていたロイスが、また余計な物を見つけてしまった。


 この建物は飛行船の製作だけじゃなく倉庫も兼用してるので、休暇中に俺が趣味全開で作った作品も当然保管されている。


 ロイスは黙って作品を目をキラキラさせて見つめ、それを大事そうに撫でまわしていた。 


 良く新車の車やバイクが届いた時に、にやけながら触りまくる人がいるが正にそれに近い、傍から見てると非常に気持ち悪いが……


「ユウマあれはなんだ? ひとつはリヤカーのように見えるが」


 ロイスがいない事に気づいたのと、俺の視線を追った事で奇妙な光景を見たフランクが、リヤカーと自転車を見つけてしまった。


 見つからないように視線を向けないようにしていたし、出来るだけ体で見えないようにしていたのに、ロイスのおかげで見つかってしまった。


「あぁそう、リヤカーですよ」


「リヤカーは解っているんだ。そのリヤカーが繋がっているものは何なんだ?」


「あれね…… あれは自転車という乗り物」


 これは非常に拙い、フランクの目が商売人の目に成っている。


「あれは売るつもりはないですよ。俺の趣味ですから」


 先手必勝! 売りものじゃないアピール、本当に売るのも難しいものだからね。先ず現状俺しか作れないし、とてつもなく作るのに時間が掛かる。


 俺にそんな時間は無い。今は休暇中だからなんとか一台は作れたけど。


 自転車を作った後に開発されたカーボンもどきを使えば、フレームやホイルの大量生産は出来るから、やろうと思えば作れるし売る事も可能にはなっている。これはリヤカーも同じ。だけどそれは言わない。


 このカーボンもどきにはもう一つ特徴があるんだよね。飛行船の骨組みを作る時にどうやって湾曲させようかと考えたんだけど、普通は型に材料を流してプレスするんだから、初めからその形の型を使って作れば後から曲げる必要はない。


 ただそれだと部品ごとに型が必要になるから、大変だし微妙な調整が殆ど出来ない。


 その時に思いついたのが、素材はスライムなんだから魔力を流したら柔らかくならないかと言う事。


 やってみたら出来ました。尚且つ流す魔力の量で柔らかさまで調節できる。

 勿論、流すと言っても少量です。


 そして無機物となっているカーボンもどきは魔力を蓄えて置けないので、自然に魔力が抜けて元の硬さに戻る。


 竹や木材を熱して形を変えて冷えたらその形のままに成るのと同じ原理。


 此処まで知られると余計に飛行船作りは手伝ってほしくない。カーボンもどきの正体を知られると、自転車もそれで作れると気づかれる。


 今有る自転車は金属で出来ているから俺しか作れないで誤魔化せるが、カーボンもどきがばれると、この言い訳が出来なくなる。


 あ! もしかしてこれって、ミスリルとスライム素材で合金作ったら抵抗の少ない配線が出来るんじゃ? もしかしたらミスリルの量を減らせるかも?


 いや、そうじゃないミスリルとカーボンもどきか?


 いや今は無理だ。これは落ち着いてじっくり研究しないと。


「おい! ユウマ大丈夫か? 急に黙り込んで」


 やべ、思考の渦に取り込まれていてフランク達を無視していた。



「売れないのは作るのが大変と言う事か?」


「そう滅茶苦茶面倒なの、これ作るのにも1週間以上掛かってるから」


 はい嘘です。1日で殆ど出来ました。


「そんな事より、今日は何しに来たの? 病院で何かあった?」


 話しを他に持って行かないといけなから、本来の目的を聞くことにした。


 いや、それは当たり前の事なんだよ、話をふる振らないは関係なく。


 何だか俺が間違っているように感じて、納得できないが……


「それか、今日来たのは視察が終わった事を知らせに来たんだ」


 おかしいだろう? わざわざ知らせる事か? 休暇が終われば普通に仕事に行くんだから。


「それとなついでにレベル上げでもしようかと思ってな」


 それがメインの目的か、ローズとスーザンの強化合宿の成果を気にしてたからな。他にもあの剣を使いたいんだろう。


「それは解りましたけど、視察は上手く行ったんですか?」


「あぁ…… 上手くいったよ」


 なんだ今の妙な間は、何かあったな。おかしいと思ってフランクを問いただしたら、スーザンがやらかしたことを白状した。


 その程度なら問題ないだろう。いつかは教会やロッテン神聖国とはやりあうことになるだろうから、それが少し早くなるだけだ。


「そう言えば、俺が出した課題は出来てるんですか?」


「それならみんな必死に、自分の職業とは別のスキルを発現させようと頑張ってるぞ」


「そうスキルはそれで良いけど、魔法の方はどうです?」


「ニックが身体強化をできるように成ったぞ、無属性魔法の方はまだだな」


 しょうがないか、そう簡単にはいかないよな。 俺の休暇はまだあるけど、フランク達に付き合うか。 ただではないけど……。


「フランクさん、それならレベル上げのついでに合宿していきます?」


 合宿と言えばスパルタなのです。今回はローズ達と違って男性なので趣向を変えようと思います。


 どうするか? それは本格的に武術を覚えてもらいます。


 武術といっても俺も中学や高校で習ったぐらいの知識だが、この世界の一般人になら十分教えられます。


 それプラス、今回のレベル上げは自分達だけでやって貰う。


 何時もは俺が手助けしてたけど、今回はなし。


 他にも科学や物理の知識を詰め込む。時間があれば魔法陣の知識もね。


 本人たちは気楽な気持ちで来たのだろうが、そうは問屋が卸さない。


 明日から俺は鬼畜モードに移行する。


 今日はせいぜい英気を養っておきたまえ…… ふふふ







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