第52話 辺境伯訪問

 辺境伯ビクターはグランの話は理解出来たが、どうしても賛同すると言う所までは行かなかった。


 言い方は悪いが所詮この世界の住民なのだ。研究心も殆どない改善も殆どしない。そういう気質だから、グランが言うような事をする必要があるのか理解できない。


 グラン達やニックは拠点を見てるし、グラン達はポーションの発展まで知っている。ニックは今回の薬の材料がとんでもない物だと知ってるからその必要性に自然に気付く。


 だが、ビクターは出来た製品は知っていても、それがどうやって出来ているかを見ているわけでもないのでピンとこないのだ。


 だから、グランはビクターを拠点に招待した。


 出来れば夫人も同伴でと付け加えて。


 暫く考えていたビクターだが、そこは聡明な領主だから一度は見ておくべきだろうと訪問を了承し、2週間後の訪問が決定。


 辺境伯の訪問が決定したので、急遽領都にジーンを残しグランとローレンはラロックに向かった。


 貴族が移動するにはそれなりの準備が双方にいる。行く側はスケジュールを調整しなくてはいけないし、当然護衛やもろもろの準備が必要。


 迎える側は当然不快な思いはさせられないので、全てにおいて気を付けなければいけない。食事、休憩場所、宿泊場所……本当に全てだ。


 だからこそ2週間という時間が掛かる。


 グランとローレンがラロックに着いた翌日が、都合よくユウマが取引に来る日だった。


「こんにちはグランさん、今日は皆さんご一緒でどうしたんです?」


 ユウマが会ったことが無かった。フランソアまで今日は一緒にいる。


 そこからはフランソアの紹介から始まって、辺境伯の訪問までを一気にグランが説明した。


「と言う訳なんだよユウマ君」


 グランの説明は理解したユウマだったが、それの何処に皆がいる理由があるのか理解できなかった。


 今回は逆にユウマはこの国が王制で貴族がいる事は解っていても、それに対する庶民の対応は理解出来なかったからだ。


「ユウマ君、今日は君にお願いがあるんだ聞いてくれるかい」


 グランは貴族を迎えるには、何が必要でどういった事をしなければいけないのかを説明、ユウマにして欲しい事を言った。


 正直その内容は中々の物だった、拠点に宿泊施設を作ってくれというもの。

 勿論、風呂付で。他にもこれ大丈夫と思うものもあった。だってライトを付与した魔石まで用意してと言ったのだから。流石に水の魔石やコンロの魔石は言わなかったけど……


 グランは一代で領都でも有数の商会を作った人だし、今までの付き合いから何か考えがあっての頼みなのだろうから、ユウマにいやはないのだが、本当に大丈夫だろうか?


 グランの話はユウマの了解と、ともに終わったが、ユウマが今度はぶち込んだ。


「ローレンさんこんな物作って来たんですけど、ミランダさん達に教えてもいいですか?」


 ユウマはあれ程何かに押されるように作っていた物をごく自然に出してしまった。


「何ですのそれは?」


 一番に反応したのはシャーロット、それに続いてローレンとフランソアも駆け寄って来た。乳液、口紅、ファンデーションと紹介するたびに、三人の目がギラついてくる。この時漸くユウマは自分の愚かさに気づく……女性陣がいない時にすれば良かったと。


 しかしその時グランは別の事を考えていた。これはかつると


 それからの辺境伯訪問までの日々は怒涛どとうの如く過ぎて行った。


 フランクはラロックの木工職人に頼んで、急ごしらえだが見栄えの良いベッドや家具を作って貰い、料理人のケインにはユウマから習った食事を提供できるように準備させた。


 拠点の職人や錬金術師には当日までに、全員身ぎれいにしておくようにグランから通達。


 ユウマが作った宿泊施設の風呂は使って良いことも伝えた。


 これから売り出される商品について従業員が知らないではどうしようもないと言う事もあり、この際ラロックに広まるのはしょうがないと思い使わせることにした。


 守秘義務があっても石鹸やシャンプーなどを農家の次男坊などが使えば当然言わなくても家族にはばれる。独立してるわけではないからね。


 いよいよ今日辺境伯が訪問する、準備は昨日までに完璧に終わっている。


 ユウマが頼まれたものは全て完成してるし、錬金術師には追加の化粧品の作り方も教え終わっている。だから今日はユウマはいない。


 お昼頃漸く辺境伯一行がラロックを経由して拠点に到着した。


 一行は総勢15名、ビクター、ローレライ、専属侍女のロッテ、副家令のマイス

 見習い侍女1名、護衛騎士10名、到着と同時にビクターの放った第一声は


「グラン! こ、此処は要塞か!」だった。


 それもそうだろう生産拠点だから大したことないと思って来てみれば、囲いの外には空堀はあるは、拠点の中に入ってみれば作りかけのレンガの壁がある。


 建物は全てレンガで出来ているし、窓にはガラスが嵌められている。


「ビクター様ようこそ御出でくださいました。ここが商品の生産拠点でございます」


 グランはビクターの言葉を敢えて無視してこの返事を返した。


 心の中では掴みはOKという感じに思っていた。


「生産拠点とは言っていたが、これは凄まじいな」


 驚くにはまだ早い、この先ビクターの心が持つかどうかグランはそれを心配していた。


「それでは拠点の中をご案内します」


 同行するのはビクター、ローレライ、侍女のロッテ、護衛の騎士2名

 それ以外はフランクによって宿泊施設と休憩所に案内され、荷物の搬入と護衛の騎士には交代で休息をとって貰う。


 始めに案内したのはレンガ工房、拠点到着と同時に驚愕したであろうレンガから作り方を見てもらう。


 次に耐火煉瓦を使用した窯で生産される陶器、ガラスは現状フランクが作っているので今回は窯を見せるだけ。


 未だにガラス職人は見つかっていない。ジーンが領都で捜してはいるが、中々良い人が見つからない。


 領都にも当然農家はあるから次男坊や三男坊はいるのだが、流石に領都だと仕事もそれなりにあるから就職先に困っている人は少ない。




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