第97話 錬金術ギルド

 貴族への魔道具販売が始まって少し経った頃、魔道具が販売され始めたという話が錬金術ギルドに伝わった。

 ギルドではそれがダンジョン産の魔道具ではなく、作られた物だと言う事で大騒ぎに成っていった。

 この時点では作っている者が錬金術師だとは解っていませんでしたが。


 魔石魔道具は付与術スキルが必須の魔道具ですから、現状特許は登録していません。登録してもスキルが無ければ作れませんから、登録する意味がありません。

 スキル持ちが増えれば別です。特に無魔法に関しては一種の発明ですから。


「おい、聞いたか? 魔道具が作られたって話」


「聞いたぞ、魔道具が作られて貴族に売りに出されたそうだ」


「魔道具何てどうやって作っているんだよ」


「作ってる奴、どんな奴なんだろうな?」


 ギルド周辺ではこのような会話が頻繁にされていた。


 少し経って、魔道具の製造がグラン商会だと言う事が広まった頃、錬金術ギルドの一室では会議が行われていた。


「魔道具の製造は化粧品のグラン商会だそうだな。まさか魔道具も錬金術師が絡んでいないよな?」


「それな、わしもそう思ったぞ。魔力を使う職業と言えば錬金術師だからな」


 そこで口を開いたのが、ギルドマスターのエンリケ


「あの忌々しいグラン商会か、化粧品などという錬金術を愚弄するような物を作っただけでなく、学校などという伝統ある弟子制度を侮辱するような物を作った張本人」


 このエンリケ、錬金術を崇高なるものだという考えが極端に強い人物で長年ギルドを掌握してきた人物。


「ギルドマスター、もし魔道具が錬金術師が製造してる物だったらどうします?」


 そう質問されたエンリケは、苦虫を噛み潰したような顔で


「貴族に販売されている以上叩き潰す訳にはいかん。そうかと言いて放置も出来んから、錬金術師が作れるのならその技術を盗めば良いのではないか」


 如何にも特許制度という物に関心が無い人の言葉である。特許とはそういう技術の保護の為に存在するのに、それすら理解していない。


「それには魔道具の製造に錬金術師が関わっているか、それを探ることが先決じゃ」


 探ると言っても場所はラロック、辺境ゾイドの更に奥、辺境の外れなのだ。それに錬金術ギルドに諜報が出来る部署などない。

 元々、発明的な物がないのだからする必要が無いというのが理由だが。


 その後、諜報をどうするかで会議は紛糾したが、冒険者の犯罪で大事に成ったことは周知の事実なので、冒険者には頼めないし、自分達が行こうにもレベル上げなんてしていない錬金術師が護衛なしでは行けない。

 頼めるとしたら完全な犯罪者だけだが、それにはリスクがある。犯罪者に弱みを握られる事でもあるからだ。


 最終的に出た結論は、冒険者の護衛でラロックの温泉に行くと見せかけて自分達で調べる事にした。

 温泉はこの頃王様が行ったという事も有り、かなり有名になっていた。


 1週間後、ギルドの会議に参加するほどの重鎮の錬金術師が2人が冒険者の護衛と共にラロックに到着した。

 今回なぜ重鎮の2人が調査に来たかと言えば、行き先が温泉のなのに若い錬金術師では不自然だったからだ。


 2人はラロックの宿屋に滞在しながら、町で買い物ついでに情報を聞き出そうとしたり、酒場で酔ってる客から話を聞いたが、肝心なことは何一つ解らなかった。

 解ったのは、グラン商会の生産拠点が町の外にあり、そこの従業員が時々町に買い物に来ている事だけだった。

 まして買い物に来てる従業員の中に錬金術師がいるかどうかも解らなかった。


 何も解らない日が何日も続いたが、このまま帰る訳にはいかない2人が途方に暮れていた時、重鎮の一人が見知った顔を見つけた。


「あの女、確か王都で見かけたことがある。ギルドに来ていた女だ」


 重鎮が見つけた相手はローズだった。王都の錬金術師の中でも3年でスキルを発現させたのは早い方で尚且つ女性だったことから、当時ローズは話題に成っていたのだ。


「あの、もしそこの方、王都の錬金術師ではないか?」


 急に声を掛けられたローズは困惑したが、元王都の錬金術師であったことは事実なので、素直にそうだと認めた。


「元ですが王都の錬金術師でしたよ」


「では、今は何処でやっているのかね?」


 ローズはそう聞かれた時にこの人怪しいと直感した。ユウマから近いうちに錬金術ギルドが何かしら仕掛けてくる可能性があると聞かされて、防犯の魔道具を持たされているのだ。


 それにこの辺境で王都の話が出る事自体稀である。ローズは素知らぬ顔で両手に魔道具の用意をして答えた。


「今はこのラロックのグラン商会で働いています」


 これはわざとである。錬金術ギルドが何かするならグラン商会がターゲットのはずだから、わざとグラン商会の名前を出して反応を見る為だ。

 ローズは天才肌だが、意外に度胸もある。


「ほう、飛ぶ鳥を落とす勢いのグラン商会で働いていると、して何を作っているのかな?」


「化粧品とか色々作っていますよ」


 これもわざとだ、色々と言う所に食いついて来ればギルドの関係者確定である。


「色々とはどういう物かね、ポーションだけではないのだろう」


 はい、確定です。色々に食いついて尚且つ、ポーションで狭めてしまえば魔道具確定です。


「色々って色々ですよ、何が聞きたいんですか?」


 とどめの一発、さあどう出る? 手に握っている魔道具に力が入る。


「その色々について聞きたいんだよ、ちょっとそこまで付き合ってくれるかい」


 重鎮の1人がそう言いながら、ローズの肩に手を掛けた瞬間、目の前が真っ白になるほどの強い光とぴーという大きな音が鳴り響いた。


「何だ! 何も見えん、どうなっている?」


「何だこのうるさい音は」


 光は近くにいた人しか解らなっただろうが、大きな音はかなり遠くまで聞こえた。

 そしてその音に反応して、ラロックの警備兵が直ぐにその場に駆け付け、ローズに事情を聴いて、重鎮2人は警備兵に連れられて行った。

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