第299話 戦闘狂

「おかえりなさい、あなた。母はもう大丈夫ですよ」


「良かった。レベルの低い人が一気に上がるとかなりきついみたいだからね」


「えぇ、でも母はまだやる気の様ですよ。体が軽いと喜んでいますから」


 体が軽いというのは分る。俺も転移したての時、レベルが上がるたびに力が増しているのが良く分かったからな。ある程度レベルが上がると実感は無くなるけどね。


「サラも知ってるとは思うけど、そういう時は力のコントロールが上手く行かないから気を付けるように言ってあげてね」


 自分では分からないんだけど体がそのレベルに慣れるまでは力のコントロールが上手く出来ない。レベルが低い人が急激に上がると特にそういう状態になるが、時間が経てば意識しなくても自然とコントロール出来るように成るから不思議なんだよね。


「あぁそれと、ゴブリンの死体を撒いて来たから、暫くしたら魔物が寄ってくると思うから準備だけはしといてね」


「寄ってくるのは良いですが、この間のような変異種は来ないでしょうね。来たらまた説明が大変ですよ」


 それは俺も考えたが、多分あんなのはそうそうお目に掛かる者じゃないと思う。そうじゃなきゃ、魔境は変異種で溢れていることに成るからな。


「多分それはないと思うよ。魔力感知もして来たけどそんな大きな魔力反応はなかったから」


 そう言った瞬間、俺は思い出した。前回のあの失敗を……。ここの魔物には魔力を隠蔽出来る奴がいることを忘れていたことに……。まぁ直接戦闘を今回はするわけじゃないから、まぁ大丈夫か? 大丈夫だよね……?


「ユウマ君、次の魔物はまだかね。体が疼いてたまらんのじゃ」


 戦闘もしないのに疼くって、おかしいでしょ? これは早めにここでのパワーレベリングを終わらせて、戦えるレベルの魔物がいる区域に行った方が良いな。


 暫くして、上空から見ていると、徐々に魔物が集まって来た。あれ? どう見ても集まって来ている魔物は普段見ている魔物が多いな。勿論、初めて見る魔物もいるけど、殆どがホーンラビット、ウルフ、オーク、オーガ、コカトリス。ホーンラビットって草食じゃないのかよ? 初めて見る魔物と言っても本当に初めてではなく、蜘蛛、蜂、蟻、カエル、など普段は小さい魔物の巨大バージョン。


 勿論、ホーンラビットにしても巨大だ。その代わりウルフやオーク、オーガ、コカトリスは大きさは変わらないが、レベルが高い。


 こうやってみると、これも魔物の生態を表している。レベルはそこそこで強大化するものと、大きさはさほど変わらないがレベルが上がるタイプがいると……。


「おい、ユウマ! あれはどう見ても魔物の生態が分かる発見じゃないのか?」


 流石にフランクは気づくか。鑑定持ちだから魔物の名前やレベルが分かるからね。


「そうですね。特にここはそれが顕著に出ていますから、分かりやすいですね。ラロックから入った魔境とは全然違います」


「ラナとかアラーネア(蜘蛛)、フォルミーカ(蟻)、アピス(蜂)、全部身近で見る物ばかりだが、名前の前にビッグが付いているし、レベルも5~7とあり得ない」


 一方、オークやオーガもレベルが一段と高く12や15とクロコダイラスクラス。フランクが騒ぐのも無理はないが、発見とは言い切れない部分があるのだ。それは何故此処とラロックでは違うのか? これが分からないと法則としての生態の発見とは言えない。


「まだ完全な生態の発見とは言い切れませんね。そういう進化をするものがいるという事だけは発見ですが、それで魔物の進化の生態が全て分った訳じゃないですから」


「言われてみればそうだな。ラロックはどうしてあんなに規則正しいのかが分からないと、此処が異常なだけとも言えるからな」


 恐らくこれにも魔力スポットが関係してるのだろうが、正確なところは現状の情報だけでは分からんな。


「まぁその辺はこの先の研究課題ですね。それはさておき今はやる事をやりましょう。魔物が集まっているんですから」


「おう、そうだな。それじゃまた石を盛大にぶつけるか」


 それから暫くは、集まった魔物を討伐しては回収を繰り返したが、三度ほどやった所で魔物があまり集まらなくなったので、パワーレベリングは終了した。


「これでレベリングは一応終了します。これから別の場所に移動しますから、それまでは休憩していてください」


 このままパワーレベリングだけで終わらせて帰還なんてしたら、絶対に後から不満が出るので、この後、体を動かしてもらうために、此処よりは低魔力帯に移動して、そこで思いっきり魔物を自分の手で討伐して貰い、鬱憤を吐き出してもらう。


 しかし、今回のパワーレベリングでも公開して良いのか分からない魔物が多くいるな……。


「皆さんに聞きたいんですが、今回討伐した魔物について報告するべきでしょうか?」


「した方が良いんじゃないか。どうせしたって此処に来れるわけでもないしな」


「わしもそう思うぞ。報告することで未知の事が分かるというのはこれからに役に立つ」


「お二人のいう事も分かるんですが、島のダンジョンのように成りません? 調査させろとか……」


「それは……、あり得るな。もしそうなったら俺達が何とかするよ。お前は嫌なんだろう?」


 流石にフランクにはバレてるか。当然嫌に決まっているから、皆に聞いたんだ。新しい事を報告する度に調査に付き合わされるなんて御免だからね。


 場所を移る前に全員のレベルを確認しておくか。俺は何と久しぶりに1上がって80、サラは34、フランクは30、ロイスは29、お義父さんは15結構上がったな。途中ふらっとしてるのを見たから、結構上がってるなとは思っていたが……。お義母さんはなんと13、エリーは22、そして最後がスーザン、スーザンは途中からやけにやる気に成っていたから如何なのかと思ったら、20まで上げていてびっくりした。


 こういう魔物が多くいる時は、一匹の魔物に皆が石をぶつけるまで待っていられないので、端から攻撃することを伝えて順番に倒して行くから、全員が攻撃出来てない魔物が当然出来るので、レベルの上がり方に差が出る。


「次に移動する場所では着陸しますので、戦いたい方は思う存分戦ってください」


「おぉ! それは良いな。レベルが上がった成果が直に感じられるな。ユウマ君ありがとう」


「パワーレベリングでは鬱憤も溜まるでしょうから、どうぞ思いっきりやって下さい。ただ自分はいいやという人は申し出てくださいね。飛行船に結界を張りますからそこで待機出来ます」


 あれ? 誰も反応しない……。サラを除いて他の女性陣は待機したいというと思ったんだけどな?


「ユウマ君、私に何か武器はない?」


 はぁ~~~、何を言ってるのかな? お義母さんはお肌ぷりぷりが目的でしょ? 今のレベルなら明日辺りには肌の艶や張りも良くなって、美魔女化粧品でも使えば10歳は若く見えるように成る筈。エリーは流石に元の年齢がいっていたから、効果が激しく出たけど、お義母さんはまだ若いからそれほど劇的には表れないと思う。それでも十分若返るんだから、武器を持っての戦闘なんて必要ないでしょ。


「あのお義母さん、武器と言われましてもどんなものをご所望で? それに武器がいるという事は戦うという事でしょうか?」


「勿論、戦いますよ。武器はそうですね、サラから聞いている魔法武器などが良いでしょうか。一応剣は使えますから」


 剣が使える? レベル3だったんでしょ? それなのに……。まぁ貴族ならそういったことも嗜みなのかもしれないが、それって人相手の事で魔物が相手ではないと思うんだけどな。


「それならわしも魔法剣が欲しいぞ。一度使ってみたかったからな」


「えっと、もしかして全員参加ですか?」


 俺がそう言うと俺の予想に反してエリーとスーザンまで首を縦に振って肯定の返事を返して来た。


「そうすると、皆さん武器がいるという事ですね。それも魔法武器が……」


「あなた、試作品の武器なら持っているでしょ。私知っていますよ。こそこそと色々作っているの……」


 いつ見られたんだ? 確かにサイラス達に渡してる物とは違う物は作っているけど、それらにはミスリルを使っているから、公表出来ないまま放置している。まあ島の調査をしているぐらいだから、近いうちには公表出来るかなとは思っていたけど、それをサラが知っていたとは……。


 それにしても、この豹変ぶりはサラの再来か? 何かに目覚めた?


 こんなはずじゃなかったんだが、一度に三人も戦闘狂を生み出してしまうなんて思いもよらなかった。












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