第219話 無人島は宝の山

「頭いて~~ 昨日は飲み過ぎたな。今日は調査だからこれでは拙いから、改良毒消しポーションを飲んでおこう。フランクは大丈夫だろうが、ロイスは止めておけって言ったのに飲みやがって……」


「おはようございますユウマさん! 昨日は楽しかったですね」


 おいおいどういうことだよ。ロイスは酒に物凄く弱いはずだよな? それなのにこの清々しい挨拶はなんだ? そう言えば昨日もおかしかったんだよな。以前ならエールをジョッキ半分も飲めばひっくり返っていたのに、昨日は最後まで付き合って飲んでいた??????


「ロイスさん、お酒弱かったですよね? それなのにどうしてそんなに元気なんですか?」


「あぁそれはニックさんに貰った薬のせいですかね。私があまりにも酒に弱いので、見かねて作ってくれたんですよ。その薬が結構売れているらしいですよ」


 はぁ~ ちょっと待って、そんな話聞いていないけど。ニックが新薬を作った? 二日酔いどころか悪酔いしない薬? ロイスは全く酔っていないようでも無かったから、アルコールを全て解毒してるわけではないようだから、物凄く画期的な薬だよな。


「それってどんな薬か知っていますか?」


「それならミランダさんに聞いたら分かると思いますよ。ニックさんに協力したと言っていましたから」


 何だって! 医者と錬金術師が協力して作った薬。


「あ~ それとそれには旦那様も手伝っていましたよ」


 な! なんとフランクまで……。 それってフランクの鑑定を使ったってことだよな。お~~ 何というコラボレーション。俺の理想とする協力体制が知らぬ間に出来ていたのか。素晴らしい!


 ロイスからその話を聞いた俺はすぐさまミランダとフランクに話を聞きに行った。すると二人から聞いた内容に益々感動して、未婚女性にやってはいけないのだが、思わず二人ともにハグをしてしまった。


 勿論、それを見ていたサラには後から思いっきり怒られましたが……。


 二人から聞いた内容は本当に素晴らしい発想の転換だった。二日酔いの薬になる毒消しポーションの効果を普通なら良くするのだろうが、飲みたいけど体質的に飲めないロイスの様な人にはそれでは意味がない。


 適度に酔えて二日酔いにならなくするためには毒消しポーションの効果を遅効性にすれば良いと考えたそうだ。ただ遅効性にするだけだと効きはじめたら後は酔いがさめてしまうから、それでは意味がない。そこで薬を小さな丸薬にして、それぞれの消化速度を変えたそうだ。


 簡単に言えば毒消しの薬の弱いものが先に溶けて、徐々に強力なものが溶けるようにした感じかな? 本当はもっと複雑なんだけど、簡略するとこんな感じの薬。


 この薬を作るのには錬金術による成分の抽出、薬師の知識、医者としての人体の知識、鑑定という特殊なスキルが合わさって初めて出来た薬だ。


 この事がどれだけ素晴らしい事か、薬と言えばこれまでは治すことが目的だけだったが、この薬はそうではない。利用者の幸福を願って言い方は悪いが曖昧な薬を作った事に大きな意味がある。


 この研究が前世では作れなかった。アレルギーに対する薬が出来るかも知れない。例えば食物アレルギーだと普通はその成分や食物を避けるしか方法が無かったが、今回の様な使い方をもっと研究すれば、特定の物質のみに効く薬を食事の前に飲めば普通にどんなものでも食べられるようになるかもしれない。


 それにしても俺の知らない所でみんな成長してるんだな。本当に感無量だよ……。


「それでは今日は島の調査を本格的にします。どんな魔物がいるか分かりませんので、注意して調査しましょう。鑑定の使える俺とフランクさんが先頭を行きますので残りの人は指示された物の採取をお願いします。それと物によってはスリープで確保する魔物も出てくるかもしれませんので、いきなり攻撃はしないでくださいね。不意打ちはしょうがありませんが……」


 森に入って直ぐにフランクが俺に驚いたようにして一つの薬草を渡して来た。


「ユウマ、こ、これを鑑定してみろ!」


 渡されたのはよく見る普通のHPポーションの材料になるヒリル草、それを言われるがままに鑑定したら、驚くべきことが表示された。


 ヒリル草の原種、一般に現在使われているヒリル草の2倍の効果があると表示されていた。改良ポーションが開発されてから、色んな研究が進んで、同じヒリル草でもやはり魔境で採れるヒリル草の方が効果が高い事は立証されているが、それでもそれ程大きな違いでは無かったが、ここのヒリル草のように薬草自体の効果が2倍というのは異常だ。


 原種と出ていたから、もっと慎重に細かく俺の持っていたヒリル草と比較したら、確かに少し違う。本当によく観察して漸く分かる程度の違いしかないが。


 俺とフランクの会話を聞いていた、ロイス以外のメンバーの目がギラギラしていて怖い。そりゃ興味があるよね。ロイス以外はみんな錬金術の勉強をしてるし、プロでもあるからね。


「そんな目で見られてもここでは実験できませんからね。ですが採取は少し多めにしていきましょう。ですが調査は始まったばかりですから、程々にお願いしますよ。この分だとこの他にも色々発見しそうですから」


 俺の言った言葉通り、この後もMP回復ポーション、毒消しポーションの材料になる薬草など他にも色んな薬になる薬草の原種が見つかった。


 それだけだったらまだ良かったのだが、島の中心にから流れている川の一つの川底からは、俺が魔境の滝付近で見つけた宝石の原石と同様の物がいくつも発見され、女性陣が大騒ぎになった。


「そう言えばフランクさんあの原石どうしました?」


 他の人に聞こえないように小声でフランクに聞いたら、怖くて売りに出していないから、今でも持っているという事だった。売らなくても加工して嫁のシャーロットにでもプレゼントすれば良かったのに……。


 後から女性陣に聞いたところ、ここの原石クラスを加工したものを持っているのは王族ぐらいだと教えてくれた。そりゃフランクもそれはしないか、そんなものを庶民が持っていたらとんでもない事に成るし、献上するにしても出所がいえないから、余計に見せられないわな。


 フランクが俺の方を見て、首を振っている? これって魔境でもこれと同じものが取れるという事を言うなという事だろうな。この島ならそう簡単にはこれ無いから良いけど、近場で採れることを知られたら、俺達がどうなるか……。考えただけで身震いがする。くわばらくわばら。


 もう直ぐ島の中心につく所まで来たが、これまで出会った魔物は今の俺達なら何も問題なく討伐できるが、出来るだけ討伐しないようにして此処まで進んで来た。


 研究用に数が多くいたものは討伐して持ち帰るがそれ以外は、避けるかスリープで一時的に眠らせて、討伐しなかった。種の保存の意味を皆にも説明して納得させていた。


 それに一番気になったのがこの島にはボア系やウルフ系の魔物はいるが、ゴブリンやオークのような魔物はいないのだ。その代わり爬虫類系のヘビやトカゲ、虫系の魔物は多くいる。


 それだけだったらまだ良かったのだが、ここで最大の発見をしてしまった。


 な! なんと! 見つけてはいけない物を見つけてしまった。天然のミスリルの鉱脈。あれほど苦労して漸く人工ミスリルの製造方法を確立したのに……。


 ただ何時かは見つかると思っていたが、自分で見つける事になるとは、それも他の人にも知られてしまった。特にフランクは拙い。戦闘狂と化しているフランクにはこの鉱脈は目の毒だ。


「フランクさん、この事は他言無用ですよ。もし言ったら俺との縁もここまでです。良いですね」


 脅すようにこの事ばかりは公表しないように厳重に釘を刺しておいた。


「その代わり、これでまた武器を作ってあげますから、それで納得してください」


 飴と鞭は使い分けないとね。人とはこうやって付き合う物です。どこからか「お前も悪ようのう」と聞こえてきそうだが……。


 この後の調査でも色んな鉱石の鉱脈が見つかったが、全員に秘密厳守と言い渡して、今回の調査は終了した。


 残るは周辺の海の調査かな? どんな魔物が生息してるのかも調査しないとね。



  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る