第4話


 カイはレイと別れた後、森の入り口近くの少しひらけたところで素振りをしていた。


(俺は魔力を感じることが出来ないから、魔力を操作する訓練をしないぶん、剣術とかの技術で戦えるようにしないと…)


 魔法の適性検査を受けた後で人々は自分の魔力を感じることができるため魔力の操作をすることから訓練する。魔力を操作して体に纏わせることで攻撃によるダメージを軽減することができ、自分の運動能力を上げることができるからである。

 これは無属性魔法の中の身体強化の下位互換だが、魔力を纏わせるだけで魔力を纏っていない常人の2~3倍の力を出すことができるようになる。

 適性魔法がない人はこの強化ができないために生活していくのが難しいのである。




(ん?なんか…)


 カイは素振りをやめて休憩していた。そのとき森の奥から何かを感じた。


(呼ばれてる…?)


 カイは不思議に感じながら、気になりどんどん森の奥に入って行ってしまった。




 カイが森の中に入ってから、30分ほどたったころだった。バキッ!木が折れる音がする。カイが音がしたほうを見たとき一気に冷や汗が出た。

 全長が3m以上もある熊がいたのである。しかもただの熊ではなかった。全身の毛が水でおおわれていたのである。モンスターだった。そしてカイはこのモンスターを知っていた。


(ウォーターベアー!?まずい!?気づかなかった!?)


 カイは動けなくなっていた。恐怖で動けないのはもちろんのこと、本能が下手に動けば簡単に食われることが分かったからである。


(どうしよう…持ってるのこの木の棒だけだよ…)


 カイが動けずにいるとウォーターベアーは痺れを切らして突進し始めた。


「グラアアアアァァァァァァァ」

「っ!!」


 とっさに横に跳んだことにより避けることには成功したが、カイには次の攻撃を避ける自信はもう無かった。


(どうしよう…あんな攻撃受けたら…)


 死と言う物からの恐怖で体が硬直し震えて避けることが出来なくなる。

 もう何も考えることが出来なくなっている中、カイの横を何かが通り過ぎた。

 それが何かはカイにはわからなかったが、そんなことはどうでもよかった。目の前の状況のほうが大事だった。

瞬きをした瞬間だった。


「…えっ!?」


 ウォーターベアーの頭が落ちた。

 一瞬だった。ウォーターベアーは断末魔の叫びをあげることもなかった。

 した音は頭が落ちる音と胴体が倒れて響く轟音だけだった。


 一瞬だけ呆然としてしまった。しかし、ウォーターベアーを一瞬で倒すものが周りにはいるという事実が彼を冷静にさせた。


(何!?ウォーターベアーが!?何が…!?)


 カイは持てるすべてを持って周りを警戒した。視覚・聴覚・嗅覚・触覚を研ぎ澄ました。視覚で草木一つ一つの動くのを見落とさないように。聴覚で草木が擦れる以外の音を聞き取るために。嗅覚でモンスターだった時に獣臭をいち早く嗅ぎ警戒するために。触覚で吹く風の変化を感じ取るために。


 その状況が30秒ほど経った。カイがこの状況を維持するのに限界だと感じ始めたとき声が聞こえた。耳を疑った。こんな森の奥でありえないと思った。しかし聞こえた声はその後に見たものが正しかったと証明した。


「君、大丈夫?」


 聞いた声は少女の声だった。なぜ女の子が?と思ったが、それ以上に感覚を研ぎ澄ますのに疲れてしまっていた。

 疲れて地面に腰を落としたとき、その少女が次に発した言葉にカイは驚き耳を疑った。


「あれ?カイだ」

「…えっ、なんで知ってるの…!?」


(この子誰…!?)




 補足説明


 レイがカイを守るために渡したペンダントが発動しなかったのは、ウォーターベアーの攻撃が直撃しなかったためです。

 もし避けずに直撃していたら、風の盾が発動していました。

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