第339話
真っすぐと、寸分たがわずに振り下ろされる剣。その刃が届くことはなかった。
カイに殴られてから動くことがなかったラスター。地面にうつ伏せで倒れていた彼だが、首が180度回転して剣を振り下ろすカイの方に顔を向ける。その時の表情は誰が見ても背筋が凍る不気味な笑みだった。
不気味で恐怖を覚えるカイだったが剣を振る手を止めることはなく、首に届くかと思われたとき、彼の頭が胴体の方にずれ噛んで剣を受け止める。受け止められたからと言って込める力は弱めず、より一層力を込めて頭を切りつけようとするが剣は少しも進まない。
「後ろ!」
叫ぶ声が聞こえ危機を察知したカイは、後ろに分厚い氷の壁を作りだす。その氷の壁に先程ラウラが切り落とした腕が深々と突き刺さり、何度も何度もぶつかり氷を砕こうとする。
限界まで力を込めて刃を押し付けているカイだったが少しも動かないため、剣を消滅させてラスターから離れる。それと同時にラスターの腕は氷の深々と刺さって動かなくなる。
「おいしい!おいしいよ!君の魔力!味わったことのない魔力だ!」
蒼い炎の剣だったためラスターの口回りは氷付き、喋る彼の口内を見てみればまだ蒼い炎が燃え盛っていた。
カイの魔力を味わい動かないラスターに向けて全員が攻撃を仕掛ける。だが彼はそんな物気にしてないかのようにただただ殴られ切り続けられる。
「……あ、ああ、あ、あ、あ。……もうなくなった。なんでなんでなんでだよ!!」
口の中の炎が消え怒り狂いはじめ、同時になくなっていた腕が再生し生える。
叫ぶラスターを中心に衝撃波が生まれ全員が彼から強制的に離れさせられる。頭をむしるようにかきまわす彼だったが、カイが作った氷の壁を見つけるとそれに飛び掛かる。触れれば火傷する赤い氷の壁に彼は抱き着き舐める。
気持ち悪いと全員が思いながらも攻撃を仕掛ける。
「邪魔しないでよ!」
そう叫ぶと氷の壁に深々と突き刺さっていた切り落とされた腕が抜け、襲い掛かってくるカイ達に向けて飛んでいく。単調に飛んでくるだけだったため避けるのも迎撃するのも容易だったが、何度叩き落しても向かってきて、何度切りつけても再生してカイ達に向かっていく。アルマの黒い羽を突き刺しても崩壊することはなく、羽が突き刺さったまま飛んできた。
溶けることのない赤い氷の壁だったが、時間で消滅するのは他と違いはなく、抱き着いていた物がなくなったことで地面に座り込むラスター。すると地面を強く何度もたたきつけ始める。
「またなくなった!僕の中にないから!だから消えた!消えたら味わえないじゃないか!あぁあああああ!……吸収すればずっと俺ノ中に。私の中にアレバいつでも味ワエル。早ク吸収しなイト!!魔力ヨコセ!!!!」
途中から頭を抱え叫び声をあげていたラスターは次の瞬間にはカイに向かて飛び掛かる。それをカイは体を傾けることで避ける。同時に宙に浮いて攻撃をしてきていた腕が地面に落ちて消滅する。
手足を地面につけ、四足歩行の動物かのように着地した彼を見ると、歯をむき出しにして表情は怒り一色になっており、威嚇するかのように喉を鳴らし続ける。目の焦点もあっておらず、その姿は自我のない獣のようだった。
考える力がなくなったことで速さは増していたが、魔力を使うことはなくなり接近戦だけを行う上に、その動きはとても単調で飛ぶ寸前の彼を見れば避けるのは容易だった。また数々の能力を失っているのか、体から出ていた血のような液体が出ることはなく、どれだけ体が切り離されても再生することはなかった。
能力を失ったことでアルマの羽による攻撃が通るようになり、刺さった場所からどんどん崩れていく。
「……遠隔操作で、ハ限界がある。器と、シ、テこの体は最適だっ、タのだガ」
飛び掛かってくるラスターにカウンターの形でカイが首を切り落とすと途切れ途切れにしゃべりだす。
「ダが、これダけ魔力が集れバ、復活でキる。遊ビ、で使っテい、たガもう十分ダ」
「支配を始めよう」
言い切るのと同時に切り離されていた体達が爆散する。それは肉片1つ、髪の毛1本すら残さないほどだった。魔力感知が出来ない者であれば爆散しただけだったが、魔力感知できる者は異様な感覚を感じ取っていた。
ラスターの体内にあった以上の魔力が目の前で生まれ、その魔力が一斉に上に向かって飛んで行ったのだった。
「最後のセリフに異様な魔力。何が……」
カイがそう言うと同時に上から何か落ちてきて辺り一面が砂煙に包まれる。砂煙が晴れ見えてきた頃、そこにあったのは1つの大きな棺だった。
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