第338話
腹を自分で貫いたラスター。その後の彼の様子は異常でしかなかった。
先程カイ達が殴りつけた箇所や壁に衝突したことで出来た傷の部分は血で赤く滲んでいるのに対して、貫かれた腹からは血が一滴も出ていなかった。
全員が1つも行動を見落とさないために、彼の全身を見ていたが他よりも腹への視線はどうしても強くなってしまう物で、ラスターはその視線に気づき、自分も視線を下におろしていく。
「あぁ、忘れていた」
ずっと真顔でいたラスターだったが、歯を広く見せた心底楽しそうな表情で、人を見下した声色で喋りながら自分のぽっかり空いた腹を見つめる。
すると鮮血と同じ色の液体が腹からポタリポタリと徐々に出始め、時間が経つと共に液体が出てくる勢いが増していく。ついにはその液体があたり一面を赤色に染め上げる。
赤い液体が出ている状態でラスターは顔を上げる。その顔を手で隠そうとしているが、顔に当てているのは片手だけのため笑みを浮かべた表情を隠すことはできずにいた。
「…いけない。ダメだ。ダメだダメだダメだダメだダメだダメだダメだダメだダメだダメだダメだダメだダメだダメだダメだダメだダメだダメだダメだ! 彼の体が傷つくと思うと…笑いが止まらない!!」
ついには我慢できなくなったのか大きな声を上げて天に顔を向けて笑い出した。
そのラスターに向けてアルマは黒い羽を飛ばす。防がれていた攻撃は、今度はなんの抵抗も見せずに刺さっていく。そして刺さった箇所からじわじわと肌の色が変わりボロボロと崩れていく。
「あぁ……。あぁ、あぁあぁ!!!良いのかい?!良いんだね!僕は君の父親だというのに!!」
崩れていく箇所に視線を何度も何度も行き交いさせながら笑い声を上げ続ける。その声は焦るように言っているが、わざとらしく言っている感が強く出ていた。
「さっきのを見て分かってるんだよ。父上はもう生きてない。ひと思いに終わらせるのが私の役目」
「昔はもっと可愛らしい言葉遣いだったのに。どうしたんだアルマ?俺の娘はそんなじゃなかったのに」
だんだんと崩れ落ちる速度が落ち始めている彼は、8割近く崩れボロボロになった腕を目元に当て悲しそうな表現をしていた。その間にアルマは追加で羽を突き刺す。その羽は刺さると同時に体内に飲み込まれていく。
「私はそんな子に育てた覚えない!なんでそんな子に育ったのかしら……。お父さん悲しいなぁ~」
膝を地面についてうずくまるラスター。その状態でも笑い声は止まらず、次の瞬間に彼は背中の翼を大きく広げ空高く飛び出す。その体は先程までの崩れていた様子はなく、元通りになっていた。
「我はラスター。魔人族の王にして、神と呼ばれる存在。今度はお主たちが無様に避ける様を見て戯れるとしよう」
赤黒い物体を飛ばしたとき同様に、手のひらを向けたラスター。その手のひらから先程飛ばしたアルマの羽が生え、アルマが飛ばした時よりも速い速度でカイ達に向けて飛んでいく。
各々が避けたり武器ではじいていると今度は赤黒い物体の球体が飛び始める。それははじくことができないため、全員が避ける体制に入る。
カイが後ろに跳んで避けると同時にラスターが急降下で向かい始める。
全員がそれを見ていたため遅れずに動き出す。カイは正面から迎撃しようと蒼い炎を纏い顔に1発強いのを放つ。自分から接近したラスターだったがその攻撃を避けることはできず、衝撃で地面に落ちる。両手をつく形で落ちたラスターの背中に、槍を回収したミカとフラージュが背中を切りつける。すぐに離脱した2人に続きシャリアが接近し、天井近くまで蹴り上げる。天井には爪を使い移動していたリオが。がら空き状態の背中に向けてかかと落としをたたきつける。落ちている状態のラスターの背中に跳んできたアルマが乗り、地面に衝突すると同時に強く踏みつけ、数本の羽を突き刺し離れる。落ちたラスターに向けてラウラとRが魔法を放つ。Rが放った光の玉はいとも容易く体を貫通する。それは1ヵ所ではなく、少なくとも10ヵ所はあった。その中には心臓もあった。体に穴を作った後はラウラの風の刃が襲いかかり腕と胴体を切り離す。
魔法が止むと同時に、蒼い炎の剣を向けるカイ。狙うは首。そこだけを狙い振るう。
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