魔国:トラビー国編

1章 秘密国家コンタム公国へ

第229話


 数日後、王国の近くに帝国兵が到着したと聞いたカイ達は再度、反国家団体の本部の会議室に来ていてた。そこには以前と同じメンツが集まっていた。そして、その人達とは数日で触れ合う機会がとても多く、会えば軽く挨拶する程度の仲になっていた。



 そんな数日間をカイ達が何をしていたかと言うと、本部でメッサーなどど組手をしただけでなく、組員に案内される形で街中に繰り出していた。これには最初フラージュとラウラは強く反対したが、今の街の様子を知っていた方が良いと思ったのと、いつまでも地下空間にいたくなかったと言う気持ちを持っていた2人が負けじと言っていると、反国家団体の組員が一緒ならとフラージュ達が折れた。

 そして、メッサーの部隊が丁度街を巡回すると言うことで、それについて行く形になった。


「長が情景反射並みの速さであなたの罪が冤罪だと言った意味が少し分かった気がします」


 現在、街中をカイはメッサー部隊の副隊長と2人で巡回していた。あまり多くの人数で巡回していれば兵士に不審に思われてしまうため、1つの部隊を2人ずつに分けて行っていた。そして、カイはメッサーと組むのだと思っていたが、パワーバランスを考えたところ、メッサーは新人と組むことになり、カイは副隊長と組むことになった。

 そして巡回をして1時間ほど経って副隊長が話しかけて来た。


「どうしたんですか、突然」

「いえ、先程からの貴方を見れば誘拐などしないと改めて思いまして」


 巡回と言っても国民達が兵士に目を付けられないように行動している様子を路地裏や屋根の上から見守るだけなのだが、時たまお年寄りの人が重い荷物を持っている様子がうかがえた。そんな人に対してカイは、兵士が近くにいないことを確認してから手伝いに行ったりしていたのだ。もし近くにいた場合は兵士に顔が割れていない副隊長に助けてもらうようにしていた。彼女も手助けすることに嫌そうな顔は全くせず、快く引き受けていた。


「ですが、いずれその優しさが裏目に出る。そのようにも感じました。…年上の戯言だと軽く受け流して貰ったら幸いです」


 考えている表情から明るい表情に変わる。カイはその言葉にどう返事をしようか悩むと、少し離れた場所から普通の格好の少年が2人に向かって走ってくる。その様子を2人は特にきにした様子が無く見ていた。だが、次の行動で、副隊長は少年がただの少年で無いと確信する。少年はカイにわざとぶつかって来たのだ。


「おっと、大丈夫?」


 カイが聞くが少年は返事どころか、カイのことを見ずに走り去ってしまう。副団長は走り去った少年のことを見るが、既に姿は見えなくなっており、追える状況じゃなかった。


「っ!?何か取られていませんか!?すみません気づくのが遅れました!」


 さっきの少年はスリをしようとしていたのだ。副隊長は少年の身なりが普通の子供と全く変わらなかったため、そんなことはしないと思ってしまった。


「大丈夫ですよ。取ろうとした瞬間に体をずらして取れないようにしましたから」


 そう言ってカイはポケットにしまっていた財布を副隊長に見せる。すると副隊長は安心したような表情を浮かべる。


「良かったです。でも、あんな子供がするとは思いませんでした。保護出来ればよかったんですが…」

「なら追いますか?」

「へ?」


 普通だったら追うことなどできないが、カイには魔力感知がある。そして、カイは反国家団体が孤児を受け入れていることを知っていたため、保護したと言うのではないかと思っていた。


「今なら追えますよ。どうします?」

「い、行きましょう!」


 カイは表に出るという言うことで、仮面をつけてから急いで少年のことを追い始める。


 だが、2人はそう長く走ることは無かった。

 屋根伝いに走っていると、前の方で早歩きで移動する人達が増えてきており、カイは異常を感知していた。


「マズイです!さっきの子が囲まれてます!たぶん兵士です!」


 副隊長は驚きながらもカイの続きの言葉を聞く。


「今から無理やりあの子を助けます!先に行くので、着いたら保護お願いします!」

「待ってください!あなたは今客人です!私だけで…」


 そこまで言うと、騒動の様子が遠目で見えてくる。よく見ると兵士は既に剣を抜いていた。


「もう相手は剣を抜いています!行きますよ!」


 カイは返事を聞かないで走る速度を速める。だが兵士はもう剣を振りかぶっており、このまま走っても間に合わない状況だった。そのためカイは氷を作り、剣を振りかぶっている兵士に向かって撃つ。幸い振り下ろす前に氷をぶつけることができたため、兵士は剣を落としながら膝をつく。


「誰だぁぁああ!」


 魔法が飛んで来た方を見る兵士達は、国を守る者達には見えない人相をしていた。その睨みは今にも人を殺そうとしている人の物だった。


「なぜ子供を殺そうとしている」


 カイは声を変えて兵士に話しかけると、兵士達は驚いた顔をして後で、獲物を見つけたような顔になる。


「おまえ、反国家団体の奴だな!お前ら捕まえて居場所を吐かせるぞ!」


 膝をついていた兵士は落とした剣を拾い、周りにいた兵士達も剣を抜く。そして子供から視線を外し、カイのことだけを見る。その隙に副団長が少年の口を塞いで移動し始める。


「こいつは検問所を壊してんだ!たっぷり拷問して吐かせるぞ!その後は俺達の遊び道具になってもらおうぞ!」


 1人の言葉でよりやる気になった兵士達はカイに向かって一斉に跳びかかる。だが、カイとしては戦う意味がもう無いため、地面に氷の壁を張って戦わないようにする。その時に兵士達は氷の壁の中で氷漬けにされてしまうが、カイのはそんなこと気にも留めず、離脱していった副隊長達を追いかける。

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