第230話


 本部に戻ったカイは、今フラージュの前で正座をしていた。

 本部に戻ってすぐにラウラを見つけることが出来たカイは、ラウラにフラージュの居場所を聞くと、今は会議中とのことだった。そして急遽戻って来た理由を話した所「会議が終わったら連れてくから部屋で正座しときな」と言われたのだ。カイは子供を助けられたが、騒ぎを起こしたのは確かだったためおとなしく従うことにした。


 そして会議が終わったフラージュはラウラに連れ垂れてカイの部屋に来た。


「騒ぎを起こさないように言っておいたはずだけど、どうしてかなー?」


 フラージュの顔は笑っているのだが、目が全く笑っておらずカイのことをただただ真っすぐ見てくる。だが、カイが一番辛く感じていたのは怒られていることではなく、後ろにいるラウラにされていることだった。なんと、後ろにいるラウラは長いこと正座をして痺れたカイの足を時々つついていたのだ。しかも、フラージュにバレないように。無表情でつついているのだが、付き合いの長いカイは雰囲気だけで楽しんでいることが後ろからひしひしと伝わっていた。


「それで、どうして騒ぎを起こしたのかな?」

「え?」


 カイが驚いたことにフラージュは疑問を持った顔になる。

 カイはこの部屋に来るまでにラウラから説明がされていると思っていたのだが、そんなことは無かった。フラージュはラウラにカイが騒ぎを起こしたとした聞いてなかったのだ。そしてカイはゆっくりとラウラの方を見る。すると、ラウラが足をつつこうと手を伸ばしていたため、手を使って避ける。


「ちょっと、ラウラは話してないの?」

「話してない。私は痺れた足をツンツンした時の反応が見たいと思っただけ」


 それを聞いた瞬間にカイは正座を止めて、胡坐をかく。その様子にフラージュはより疑問を浮かべる。


「俺はラウラに遊ばれたってことですか」

「信用しすぎるのも危ないってこと」

「それで、どうして騒ぎが起きたの?」


 我慢が出来なくなったフラージュがカイ達に事の次第を聞いてきたため、カイが詳しく話していく。


「そう言うことなんだ…。もう兵士達はなりふり構ってないみたいだね。こんな昼間に、しかも子供を斬ろうなんて」


 フラージュが厳しそうな顔をしてから、すぐにいつもの顔に戻す。


「ともかく、カイ君は今日はもう待機ね。それと、近々手紙が帰ってくるみたい。もしかしたらすぐに公国に向かえるかもしれないよ」


 これを聞いてカイとラウラの顔が一瞬で真剣な物になる。

 あの魔人が公国ならば知っているといった理由を2人はどうしても知りたいと思っており、すぐにでも行きたかった。だが、今の王国の現状をほっておくことも出来ないため帝国にいるシャリアに相談したのだ。そして反国家団体と協力することになった今、援軍が来ればカイ達は帰国することが可能になる。


「フラージュさんはどう思います?」

「怪しいよ。かなり怪しいよ。正直行かない方が良いとも思った。でも、魔人とはこれから戦うことになるから少しでも情報は欲しいよ。そのためにはカイ君がいないといけないからね」


 カイは言われて袋から貰ったペンダントを取り出す。

 このペンダントがあれば教えると言われたため、他の人が持って行けばいいとも思ったのだが、以前、カイ以外が触ろうとした瞬間に弾かれたのだ。色々な人が触ろうとしたのだが、カイ以外が触れないのは変わらなかった。


「このペンダントが魔法道具マジックアイテムなのは薄々感じてましたけど、用途が全く分からないんですよね。魔力も流せないですし」


 カイがペンダントに魔力を流すと、ペンダントが紫色に輝き、次の瞬間光が無産する。今回はそれほど多い量を流していないのだが、以前流した時は最大量の半分程流した。その時と様子は変わらず、本当にこれが何なのか全く分からないでいた。


「ともかく、今は王国のことをどうにかしないとですね」


 カイの言葉に2人は頷いた。




 会議室に集まった者達は、騎士達を含め全員何か覚悟をしている顔になっていた。


「今日、帝国の方から手紙が届いた。既に援軍は王都近郊に潜伏しているそうだ。明日、王都に攻め入ると連絡を受けた。俺達も明日、市民を避難させてから仕掛けるぞ。市民は既に用意されてる王都郊外にあるシェルターに避難させる。それは計画通りだ」


 予想していたのか、驚きの声は出なかったが、数人が固唾を飲む音がする。ボスがそう言うと、以前の以前の会議には参加していなかった男は椅子から立ち上がる。


「ですが、城には防御の結界があるはずです。それを突破できなければ私達の勝利は無いのでは?」


 その発言の幹部の一部が険しい顔になる。それは結界があることを知らないからでは無かった。


「…その情報をどこから得た?お前に教えた覚えはないぞ」

「そんなことよりも結界です!結界はどうするのですか!」


 その言葉に動揺が広がる。だが、大幹部たちと帝国側は誰も表情を崩さない。


「その結界なら破壊し終わってる。問題無い」


 問題になった結界とは、以前カイが城の牢屋に監禁されたときに壊したあれだった。あの結界は魔力を吸収する物で、普通魔力を流して破壊することなどできない物だったのだが、カイの持っている膨大な魔力により破壊出来ていた。


 ボスの発言に今度は結界のことを言った男が同様する。そして大幹部直属の部下が男のことを囲う。


「さて、どこでその情報を貰ったか話してもらうぞ。お前ら!今から誰も本部の外に出すな!」 


 ボスの掛け声と同時に会議室の外から数人が駆けて行く音がする。その音が聞こえているのに誰も動かないと言うことは、直属の部下なのだと判断して誰も焦らない。


 男を捕まえてから会議が再開された。




「長い間ありがとな」


 会議が終わってすぐ、カイとミカ、そしてラウラはメッサーと向き合っていた。3人の格好は今から戦闘しに行く時と同じ格好をしており、カイとミカは仮面をつけていた。


「こっからは俺らが頑張るわ。お前らはお前らで頑張れよ」

「うん。…死なないようにね」

「死ぬかよ。俺らには頼もしい援軍がいるんだからな」


 王家との戦争だが、書い達が参加することは無い。それはシャリアから届いた手紙に理由があった。帝国は魔人の情報をいち早く知りたいと思ったため、カイ達には一時帰国を命じたのだ。本当はフラージュも一緒に帰国したい所だが、受け継ぎをしないといけないため王都に残ることになった。

 そしてメッサーが準備の合間をぬってカイ達の見送りに来ていた。


「ミカさんもラウラさんも気をつけてな。こいつは暴走することがあるから大変だと思うが」

「分かってるよ」

「ん」

「ちょっと!?そんな言うほど暴走すること無いって」


 メッサーは大きく笑うと、ままたカイのことを真っすぐ見る。


「俺は魔人と戦ったことがねぇが、強いんだろ。マジで気を付けろよ」


 カイ達は頷くと、本部から出て王都を出て、帝国に向かうために用意されていた馬車に乗り込んだ。

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