第110話


 ルナから言われた「帝国に来ない?」と言う言葉でカイはアルドレッドから「帝国に来い」と言う言葉を思い出す。だが、その時と違い頭の中にルナの言葉がとても残る。そして惹かれる。そんな中カイはローブ男達のことを思い出す。あいつらのことを無視して逃げることが出来ない。


「ごめん、今は帝国に行けない」


 そう言うカイのことをルナは驚き、ミカも最初は驚いたがすぐにどうしていけないのか察する。


「俺とミカはやらないといけないことがあるし狙われてる可能性がある」

「そんなの帝国に行けば」

「そいつらとはケリをつけないといけないんだ。放っておけば絶対に危険になる。だから、王国に居られるうちは王国を離れることは出来ない」


 そう言ったカイの顔は先程までの苦しそうな顔は無くなり、先程のルナと同じで決意を持った顔になっている。それをみたルナは何も言えなくなってしまう。


「…分かった。けど、いつでも帝国に来て良いからね」

「分かった。そのときはルナに会いに行くよ」

「うん」

「ミカ~次はどこ行くのー!!」

「次はね~」


 ルナが元気よく聞くと、ミカも笑顔になりどこに行くのか話し出す。その光景を後ろから見ていたカイは心の中で「ありがとう」と言った後で2人の後を追いかける。




 その後3人は観光を楽しんだ。初代国王の像が飾られている噴水広場を見たり、何かの記念博物館を見たり、途中で露店に売っていた甘いお菓子を食べたりした。

 ミカとルナの2人はとても楽しんでおり、完全に周りを警戒していない。そのため自分達を追う影に気づかない。その影はたったの5人だけだったが確実に追って来ていた。


「ねぇ、あの店とか入ってみない?」


 そのお店は男女共に入るそうな服屋だった。ミカもルナも午前に行った服屋とは違う雰囲気のお店だったため2人は疑問を持たずに店に入っていく。カイも一緒に店に入ると、追手の1人も店に入ってくる。その男を見てカイは驚くが顔に出さないようにする。

 カイはルナが試着室に入っているうちにミカに小声で一言「追手有り」と言う。ミカも内心だけで驚く様にする。カイが少し離れた、もし何か起きてもすぐ駆けつけられる場所まで移動する。


「ルナー!どんな感じ?」

「ちょ、ちょっとミカ!?なんで入って来たの?!」


 ミカは元気よく更衣室に入っていく。他にも客がいたが、よっぽど仲がいいのだろうと無視していた。そしてミカが入って来たことに対して驚きと恥じらいを持ちながら反応するルナをミカは無視してカーテンを閉める。何をしているんだと攻めようとしたルナだったが、振り返ったミカの顔を見て止める。ミカの顔は真剣そのものだった。

 そしてミカは小声で今の状況を話すと、ルナの着替えを手伝った後で2人で更衣室を出る。出てすぐの所にはカイが居り、男性物の服を持っていた。


「こんなのって俺に似合うと思う?」


 そう言ったカイを見て、今は普段通りにすべきだと思った2人は先程と変わらない態度で返答する。


「うーん、カイならこっちの方が良いんじゃない?」

「こっちの黒いのも良いんじゃない?」


 そう言って2人はカイの服を選び始めた。




 カイが服を持ってきた後で2、3着見た後で3人は店から出る。その間先程と同じ様にミカとルナの2人は楽しそうに他愛もない話をしている。カイも話に交じり楽しそうに話している。そんな3人はどんどんと人が少なくなっていくところに移動する。

 そして人が1人もいない所で、ついに後ろから魔法を撃ってくるのもがいた。


「ウォーターキャノン!」


 その『ウォーターキャノン』はルナが振り返り同じ水で相殺させる。


「サンダーボール!」

「フレイムバレット!」

「ライトボール!」

「グリーンキャノン!」


 残りの4人が飛ばしてくる魔法をミカとルナは全て相殺する。2人ならば押し切ることも出来るが、今回は周りの被害を考えて相殺させている。


「なぜだ?やはり帝国の者は化け物か」


 そう言って現れたのは、最初に『ウォーターキャノン』を撃って来た、カイが学園のダンジョン探索で一緒になり、重体になったために休学していたガル=バイトだった。




「2人とも兵士を呼んできて」

「分かった」


 カイは小声で2人に話しかける。ミカはすぐに了承し行動しようとする。だが、ルナだけはカイの言葉に反抗する。


「待って。あの人数だったら私たち3人なら簡単に倒せる」

「それは分かってる。だけど、あいつらの目的は俺だと思う。それに兵士を呼ぶのは訳があるから」


 そう言ったカイを見て、自分達が力不足だと言うことではないと分かり、ルナは渋々言うことを聞く。


「話し合いは終わったか、無能?」


 バイトはそう言う中後ろの者達は動かない。ローブを深く被って顔を見えないようにしているためかただただ不気味に見える。


「2人ともお願い」


 カイがそう言うと、2人は駆けだしその場から離れた。


「ついに仲間にも見捨てられたか?」


 バイトは大きく笑う。それでも笑い足らなかったのか笑いながら話しかける。

 先程感情を表に出したためか、その態度に異様にイラついたカイは殺気をのせながらバイト達に言う。


「お前達の目的は何だ」


 そんなカイの恐れを抱いたのかローブの4人は一歩後ろに下がる。バイトに関しては尻餅をつく。


「答えろよ」

「お、お前などに言う物か!」


 そう言ってバイトはカイに手を向ける。


「ウォーターボール!」

「サ、サンダーキャノン!」

「ラ、ライトボール」


 カイの殺気に当てられていた4人の内2人だけはバイトが魔法を撃つことで正気に戻り、バイトの補助に回る。そして魔法を撃った後で残りの2人を正気に戻すために肩を揺する。バイトは魔法を撃つと立ち上がる。立ち上がっている中でバイトは3つも魔法が飛んでいっていることで勝利を確信する。

 その魔法達はカイ目掛けて一直線に飛んできているため、カイが横に一歩踏み出すだけで簡単に避けることが出来た。それを予想していなかった敵5人は固まるが、カイは何もしない。それを見てなめられていると思った5人は興奮して魔法を撃ちまくる。デタラメに撃つが、しっかりとカイに当てようと言う気持ちはあるのかカイに向かって飛んでいく。カイはそれを横に移動したり、ジャンプしてり、しゃがんだりして避ける。避ける姿を見てより怒り心頭に発せられた5人はより威力をあげて魔法を撃つ。そのため周りへの被害が考えられていない。近くにあった建物4件ほどは半壊しており、うち1軒は家だったのだが人が住めるレベルでは無くなっていた。他の建物も壁が壊れたり、一部の屋根が無くなっていたりしていた。唯一救いだったのはその建物達には誰もいなかったことだ。


 騒ぎを聞きつけ、近くにいた者達が魔法の射程外の所に集まりだす。そんな人々を5人は見えてないのか魔法を撃ち続ける。むしろどんどんヒートアップしていく。そのためより建物の破壊が進む。全壊の建物が3軒、半壊が5軒となったところで、兵士をつれたミカ達が戻って来た。


 丁度、5人の後ろ側に戻ってきたため兵士は後ろから5人を取り押さえる。捕まった5人を見てカイはホッとしていると、ミカ達が近づいてきた。


「大丈夫だった?」

「さんざんだったね…」


 2人に大丈夫だと言った後でカイは壊れた家々を見て苦笑いするしかなかった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る