第255話


 辺りは真っ暗になり、街灯が無ければ何も見ることが出来ないと言う状況の中、反国家組織を倒すために兵士達はある建物を包囲していた。

 そして、兵士達の後ろにオムニとカイ達もいた。




 兵士が屋敷を訪ね、敵の本拠地が分かった。

 クリミナルのことで不可解な事が多いため、今回はオムニ自ら出ることにしていたのだが、そこでちょっとした問題が起きた。

 屋敷にクリミナルがいることだった。


 公国内ではオムニの屋敷が一番安全なのだが、前回の魔人騒動のように完璧と言うわけではない。もしもの時には主であるオムニも戦うことになっているが、それはもしもの時。リオでも敵わない敵がでてきたときだ。


 街中の様に屋敷が襲撃されるかもしれない。前回の様に突然魔人が攻めてくるかもしれない。そう考えた時にメイド達だけでは荷が重すぎる。人間かモンスターが相手ならばメイド達も戦えるのだが、魔人となれば話は別だ。全員で相手したとしても良くて数人の犠牲、最悪全滅してしまう。そのためリオかオムニは残る必要があった。


「だから僕が行くって。リオはお留守番」

「いえ、主が敵地に赴くのに、メイドである私が屋敷にいるなどありえません。主は屋敷で吉報をお待ちください」

「本音は?」

「久々に手ごたえありそうなのと戦えるかもしれないじゃん」


 兵士が目の前にいると言うのに、オムニとリオは言い合いを始める。カイ達も兵士もそれをポカンとした顔で見ていた。


「ほらー。今のリオじゃやりすぎになるよ。だから屋敷で待機。これ命令で」

「……分かりました」


 それだけ言うと、リオは部屋から出て行く。残ったオムニは兵士の方に手を置くと笑顔で話しかける。


「ってことで僕が出るよ。そっちの指揮は?」

「は、はい!指揮は総隊長が取ることになっております」

「うーん……。あいつは休ませていいよ。休暇取れって言っておいて」

「はいっ!?」

「分かったみたいだねー。やるときにここにいる僕で行くからよろしく!」


 まだ何か言いたそうにしている兵士の背中を押して、無理やり変えさせるとオムニは普段の様にカイ達に話しかける。


「……なんで俺達も戦うことになってるんですか」

「いやー、勘なんだけど兵士達だけじゃ足りないと思って」

「それならさっき言ってた総隊長を休まさなければいいのでは?」

「リオもそうだけど、あいつもやりすぎるからねー。実はさ、死体からでも頭が無事だったら記憶を漁れるんだよ。2人は殺してからゆっくり探ろうとしてるけど、俺は出来ればそう言うのは嫌なんだよ」


「それに、魔人と戦うにしろ戦わないにしろ、今回は僕も戦うから良い物が見れるかもよ?」




 そして作戦当日、カイ達はオムニに連れられて現在に至っていた。


 兵士達は見たことの無いカイ達を探るような目線を最初は向けていたが、実行が近くなっていくにつれてその視線は無くなっていった。


 南区は普通の家屋と似ており、壁面は大体は白色になっていた。違うのは多くに建物に煙突がついていることだった。ほとんどの建物が白色の中、カイ達が囲んでいる家は黒色で異様に目立っていた。今は夜と言うこともあり景色に紛れているが、昼間にこんな建物があったならば目立つはずだった。


「結界かなー」

「結界なら魔力感知で分かるはず」

「南区は魔法道具マジックアイテム作ってるからね。万が一爆発しても大丈夫な様に結界で覆ってたりしてるんだよ。気づかなかったのはそれのせいだね」

「その結界は無いってことは……」

「もうバレてるね。よし、じゃあ皆ー、突撃ー」


 なんともしまらない感じで合図が出されたが、兵士達は建物の中に流れて行く。その様子を最後尾にいるカイ達は見守る。


「にしても変だよね。捕まえた奴らは100人近く。そんな組織がこの建物だけに入るとは思えない」

「……地下には反応無し。結界の可能性も皆無」

「逃げたとか?」

「……それは困るなー」


 そんな話しをしていると前から兵士が走ってくる。


「総司令!中に転移用かと思われる魔法陣を発見。破損は無く、魔力を流せば使える模様」

「ドジったのか、迎え撃とうとしてるのか……。どっちにしても行くしかないよね。よし行こうか」


 オムニは兵士達をかき分けるようにして建物に近づいて行く。


「待ってください!?総司令が行くのですか?!」

「そうだよー?もし待ち受けてるなら僕なら絶対対処できるからね君達は俺達の後に続いて来てよ」

「お、お待ちくだ」

「諦めろ。こう言い出したら王は聞かん」


 兵士が講義を続ける中、黒髪だが所どころ白が混じっており、いくつもの戦いをかいくぐって来たような、いかにもベテランと言うような風貌の老兵が兵士を止める。


「お、ひっさしぶり。元気してた?」

「王のおかげでこのようにピンピンしております。ところで王、お一人で向かわれるつもりで?」

「そうだけど?」

「いえ、念のため数名連れて行った方が、例えばこいつらなど。まだ若いですが中々骨があります」


 老兵の視線の先には若い兵士が3人敬礼していた。


「うーん。ならカイ達と行くよ。行ける?」

「問題無いですけど」


 カイ達の名前を出すと老兵の眉がピクリと動く。


「王よ、その者達は?」

「友人。色々あって招待したんだよ。さっき言ってた兵士達よりは確実に強いよ」

「ほう」


 目の細め、カイ達のことをじっくり見て行く。先程紹介された兵士達は自分達よりも年下の者達が強いと言われたことに不愉快そうに顔を歪める。


「……その様ですな。私よりも強い。恐れ入りました」


 老兵の吐いた言葉に兵士達がざわつきだす。


「中の調査は先程終了いたしました。あとは転移の魔法陣のみです」

「オーケー。いいタイミングで兵士を5人ずつ位で送って」

「承知いたしました」


 話しは終わりと言うようにオムニが建物に入っていく。兵士達は少し混乱しながらオムニとカイ達のことを見る。

 老兵はとても嬉しそうに口の端を上げながら兵士達に指示を出し始める。




 建物に入ると数人の兵士が居り、オムニに敬礼をしてくる。


「転移なんだけど、誰か魔力通せる?僕はちょっとやることがあるから」

「じゃあ俺が。でも何するんですか?」

「ちょっとね。転移してからの数秒は動かないでね。何があるか分からないから」


 オムニの忠告に頷きながら転移の魔法陣の上に立つと、カイは魔法陣に魔力をドンドン流していく。魔法陣が光り輝き、あまりの眩しさから全員が目を閉じる。




「来たぞ!」

「殺せぇええ!」


 そんな声が聞こえてきたため、目を開けると魔法が飛んできていた。どれもがそこまで威力が高い物じゃなかったため、撃ち落とせそうだったが、その必要は無かった。

 全てが空中で消滅、と言うより見えない壁に衝突したようになっていた。


「迎え撃つ方だったね。好都合。こっちからは通るからドンドン撃っちゃって」


 オムニは魔法陣から降りると、杖を取り出して魔法を撃って行く。カイ達もそれに続いて敵を撃退していく。

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