第69話


 医務室を出たカイとミカは人気のないところに来ていた。


「今まで黙っててごめん」


 ミカが何を話そうとする前にカイが謝った。


「俺はあの3人が何者か前から知ってたけど話さなかった」

「あれは隠さないといけないことだから仕方ないよ」

「それでもミカを仲間外れにしてたのには変わりないから。ごめん」


 カイは頭を下げているためミカの顔が見れない。今ミカはとても困った顔をしていた。

 ミカの中では仲間外れにされたなんて考えは全くなく、アルドレッド達のことは隠されていて仕方ないと思っていた。

 そのため、謝られていもどうすればいいのか分からず困っていた。


「...なら、今度からこうゆうことでも隠し事なしにしよ。あと、1つ私のお願いを聞いて貰って良い?」

「分かった。今度からは絶対に隠し事はしない」

「うん!お願いは、ダンジョン探索が終わったら本気で私と模擬戦して」


 先程まではほんわかした雰囲気だったが、模擬戦と言った瞬間からミカの雰囲気が真剣な物に変わる。


「分かった。本気で戦うよ」

「言質は取ったからね?」


 カイも真剣な顔で答えると、それに満足したのかミカが笑顔になる。だが、その笑顔は嬉しさと言うよりも、強者と戦えることに興奮する戦闘狂が出す笑顔だった。




 ミカは話しが終わったため、長期休みであったことや、カイが長期休みで何をしていたか聞こうとしたが


「もう1つ良い?」


 カイが待ったをかけた。


「まだあるの?」

「まだ2つだけ...」

「うん、まだまだ時間あるからゆっくり話そ!」


 どんな話しか分かっていないが、長い間話すどころか、会うことも出来なかったカイと長く話せることにミカは嬉しく思っていた。


「ミカはさ、王国がどんな国だと思う?」

「住んでるとよく見えてくるよね...」


 ミカの言葉からは、発せられていないのに「良いところも、悪いところも」と聞こえそうなほど悲しさが含まれていた。


「...私は貴族だけど、貴族が住む大きな屋敷と違って普通の家に住んでる。そこは普通の一般居住区なの。だから近所の人たちも私のことを平民だと思ってる。私も正直自分は平民だと思ってる」


 ミカの顔は嬉しさで溢れており、そんな顔を見てカイも嬉しくなった。


「近所の人たちは皆会った時にいつも笑顔で挨拶返してくれるし、話しをたくさんしてくれる。私が冒険者になりたいって言った時もたくさん応援してくれた。「ミカちゃんなら立派な冒険者になれるよ!!」って。皆良い人たちなんだ~」


 ここまで話してミカの顔が暗くなる。


「前に貴族について皆に聞いたことがあるの。皆貴族が怖くて仕方が無いって言ってた...」


「突然殴られたり、目を合わせただけで難癖付けられて怒鳴られたりしたって言ってる人もいれば、貴族って聞いただけで震える人もいる」


 ミカの目に涙が溜まる。


「そんな貴族が大っ嫌いだけど、私も貴族の1人...。ねぇカイ、どうすればいい?」


 ここまで言ってミカが静かに涙を流す。

 カイは黙って頭をなでると、ミカは声を上げて泣き出しカイにしがみつく。




「ごめんね、急に泣いちゃって」


 落ち着いたミカはそう言いカイから離れる。


「...どうすればいいか聞かれたけど、先に長期休暇のこと聞いてもらって良い?」


 そう言われ、ミカが頷いたのを見たカイは、長期休暇でレイに会いに行く中で会ってしまったグイのことを話した。


「兄上が冒険者のことを殴った瞬間ショックと言うよりもやっぱりなって思った。俺は目の前の兄上を止めようとしたけど、兄上が剣を抜くまで動けなかった...」

「やっぱり怖かった?前に一方的に殴られたって言ってたし...」

「怖かった。兄上の顔が怖かった」

「顔?」

「笑ってたんだ。一方的にいたぶってることが嬉しかったんだと思う」


 聞いたミカは目を見開き、カイの目を驚きと疑いを持った目で見る。そんな人がいるのかと疑っていたが、カイの表情を見て本当なんだと認識した。


「見たとき狂気を感じた。恐怖で動けなくなった。でも、剣を見た瞬間になんとか正気に戻って斬りつけるのを止めた。その後は兄上は俺のことを斬ろうとするけど、全部避けて、反撃しようとしたときに目的のレイ兄上が止めてくれた」


「レイ兄上が兄上を退散した後、レイ兄上と人が居ない所で聞いてほしいことを聞いてもらった。モンスターを作るって言ったローブ男達のこととか、色々」


「俺は平民のことを道具だと思ってない貴族はレイ兄上とミカだけだと思ってる。実際に兄上のことがあるし、学園でも貴族は平民のことを馬鹿にしてる」


 ここまでカイは一度大きく深呼吸をする。


「だからローブ男達のことをどうにかしたら王国から出て行こうと考えてる」


 これを聞きミカは驚く。


「...カイは王国が嫌いなの?」

「うん。王国と言うよりは差別意識のある貴族がだけど」


 ここまで聞きミカは顔を下に向ける。


「このことはレイ兄上にも言ったんだ。そしたら「お前がしたいことをしろ」って言われた」


「これを聞いて自分の意思で悩んで決めたことは間違ってないんだと思った。」


「だから俺からミカに言えるのは、ミカがしたいことをすればいい」

「え?」

「貴族でいるのが嫌なら今みたいに平民でいればいい。お姉さんがいるんだからミカがアルゲーノス家を継ぐこともないと思うから、お姉さんが継いだ時に出て行くと言えばいい。もしダメなら俺が連れ出すよ」


「ミカには俺とかアルさん、セレスさんに先生、それにお母さんがいる。いけないことしたときは俺たちが全力で止める。悩んだときは一緒に考える。だからミカがしたいことをしていいと思うよ」


 ここでもし「帝国に一緒に来てほしい」と言えば、ミカはついてきたかもしれない。でもカイは流されるのではなく自分で決めてほしかった。だからミカには一緒に来てほしいとは言わなかった。


「悩んだときはたくさん悩もうよ。一緒に考えるから」

「うん!」

「その変わり、俺が悩んだときは一緒に考えてよ」

「うん!!」


 いつの間にかミカの顔はとても嬉しそうな笑顔に変わっていた。

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