第215話


「俺が知ってるのはこれだけだ。これ以上は知らねぇ」


 男が白状した真実は騎士達が驚くには十分な物だった。なんと、今回の誘拐騒動を国の研究機関が起こしていたのだ。一部の兵士が雇われて裏で誘拐作業をしており、その時誘拐する人は研究所に指示をされてるとのことだった。


「もう話したんだ良いだろ!?」

「誘拐した人達はどこに連れてくのー?」

「今は全く使われなくなった屋敷だ。研究者が管理人らしくてな。裏口から運び込むんだよ。それからは知らねぇ」

「その屋敷はどこ」


 騎士が地図を見せると兵士は震える手で屋敷の場所を指さす。3人は場所を覚えると兵士のことを見る。そして、尋問していた騎士は剣を抜き、真っすぐ兵士の喉に突き刺す。兵士は理解が出来ない顔をしていたため、騎士は真顔で話しかける。


「あんな風にならないって言っただけで、殺さないとは言ってないから。来世では騙されないと良いね」

「止めとけ、もう聞こえてねえよ。それより今はその研究所だ。今から行くか?」

「早く行った方が良いでしょう。研究所に運ばれてるなら十中八九実験に使われています。これ以上被害者を出さないためにも急ぐべきです」

「そうは思うけど、私達の任務は確認された謎の組織の調査だよ。今回のこととは無関係じゃない?見捨てる形で良くないとは思うけど、私達がするべきことかなー?」


 騎士達が来たのは、飽くまで組織を調べるため。王国の平穏を維持するとかそんなために来ているわけではない。そのため今回の誘拐騒動を調査する必要性など全くなかった。それでも協力していたのはラクダレスが協力を求めたからだったが、これ以上はライン越えだった。


「すでに結構な時間協力してますよね。これ以上は嫌ですよ。明日も調べないといけないですから。それにお肌にも悪いですし」

「お前はそれが本音だろ…。まぁ俺はついてきますよ。手がかりは全然ないんです。色々な所を調べた方が良いでしょう。ってことで、お前は帰って良いぞ」

「魔力感知が出来る私が帰ったら困るでしょう!仕方ないからついてくよー」


 約1人は渋々と言う形だが、3人で先程しった屋敷に向けて移動をし始める。だが、それが自分達の求める情報があることを3人とも思ってもなかった。




 屋敷に着くと、ちょうどその屋敷から馬車が出て行くところだった。


「あの馬車、滅茶苦茶人が乗ってるよ」

「屋敷の中は」

「誰も。反応なし」

「先生、乗ってください。急ぎますよ」


 騎士2人の全速力にラクダレスでは追いつけないことを2人は知っていたため、男の騎士の方が背負う。馬車とはだんだんと離れて行ってしまうが、魔力感知があるために見失うことは無かった。

 馬車が止まり、接近出来た3人は物陰に隠れて様子を見ると、誰かが寝ている人達を建物内に担いで運び込んでいた。


「あれが誘拐犯たちか。さて、王国は人を使って何してんだかな」

「ろくなことはしてないでしょ。先生、入れそうなところはー?」

「見たところ入り口はあそこしかないみたいですから、今は待ちましょう」


 帝国の騎士の2人だが、2人とも潜入はそれなりに出来る。出来るのだが、ラクダレスと比べたときには天と地の差が生まれるためにラクダレスと一緒にいるときは指示によく従っていた。その潜入の腕前と普段学園で先生をしていることから2人からは先生と呼ばれていた。


 しばらく待つと、馬車に乗っていた人が全員運び終わったのか、馬車がどこかに走っていく。そして運び込んでいた人達も中に入って行ったためラクダレス達も移動を開始する。だが、扉の手前で女騎士が突然立ち止まる。疑問に思い2人も止まる。


「どうしました?なんか感知しましたか?」

「さっきの人達の魔力を感じない…。中の様子が全く分からないよ」

魔法道具マジックアイテムか?怪しさ満点だな。俺から行きますね。念のため2人は離れててください」


 女騎士とラクダレスは一緒に後ろに下がり騎士のことを見守る。

 ゆっくりと扉を開くと、何もなかったからか男が来るように手招きする。

 3人で中に入って道なりに進むと少し広い所に出たため、女騎士が2人の肩を掴みバレなそうな道の端に連れて行く。


「感知できるようになったよ。確か追ってる組織に魔力量が異常なのがいたんだよね」

「えぇ、そう聞いてます」

「下にいるよ。しかも数個。うじゃうじゃいる。だいたい常人の2倍以上のが」


 それを聞き騎士の顔が驚愕に染まり、ラクダレスの顔は真顔だったが冷や汗が出ていた。


「特に一番下にいるのはかなり多い。5~7倍くらいかな。こんなの感じたこと無いよ」

「どうしますか…。俺個人としては情報をまず持ち帰るために撤退した方が良いと思いますけど。これだけでもかなり重要な情報ですから」


 騎士が自分の考えを伝えながらラクダレスに指示を仰ぐ。ラクダレスは相手がローブ男達なのか調べたいと言う気持ちもありどうするか悩んでいると女騎士が焦り出した。


「さっき言ったのが上がって来てる!もしかしたら気づかれたかも!?」

「待てよ。こっから距離あるんだろ?ただ移動してるだけだろ」

「真っすぐ上がってこっちに来てるんだって!今3階下にいる!」

「2人は逃げてください。そして本部にこのことを伝えてください。私は私でどうにかします。行きなさい!」


 ラクダレスが本部と言ったことに違和感を感じた2人だったが、今まで怒鳴ったことが無いラクダレスが怒鳴ったことで何も聞くことなく出口に走っていく。


「残ったのはお前か。排除する」

「貴方がウォッシュですか。なかなかにやばそうですね」

「俺のことを知ってるのか。お前、カイの仲間か」


 ラクダレスの前に現れたウォッシュは前にはつけていたフードを脱いでおり、その額には1本だけ角が生えていた。そして、その角は中間から先が灰色で根本が緑色と茶色の2色だった。


「その角…。確か『魔人は額から2本の角が生えている』と見たことがあります。ですが貴方は1本だけです。半魔と言うのでしょうかね?」

「口数が多いな。お前の知ることではない」


 ウォッシュが手を付けると地面から大きな棘が出てきたため、ラクダレスは急いで後ろに跳ぶ。その棘は土で作られていたが、先はとても鋭利で簡単に人を刺し殺すことが出来る程だった。


「なかなかに惨いことをしようとするのですね。こんなので殺されたくは無いですね」

「侵入者に死に方など選べんぞ」


 それから何度も地面から棘を出してくるためラクダレスは痛む足を無理やり動かして避け続ける。傷が痛むからと言って、最盛期はフラージュと互角並みに戦えるようになっていたラクダレスにとって、速度の遅い魔法が下から来るとしても避けることは造作でもなかった。


「遅いですね。魔法を使い始めた子供の様です」

「フッ、この程度が本気だと」


 ラクダレスはまた跳んで避けようとしたが、跳ぶことが出来なかった。跳べないと思い地面を見ると足首にツタがまとわりついていた。


「油断しているからだ。まずその足をつぶす」


 ウォッシュは地面を動かして、ラクダレスの右足を前後から挟む形で潰す。あまりの痛さにラクダレスは悲鳴を上げそうになったが無理やりかみ殺す。


「今度は反対だ」


 ウォッシュが反対の足をつぶすと言うと、ラクダレスが笑い出したため手を止める。


「油断している?それは貴方もですよ。それでは、ごきげんよう」


 そう言うとラクダレスの姿が一瞬で消えた。


魔法道具マジックアイテムか。本部と言っていたな組織の一員か。博士に報告だ」


 ウォッシュは逃げた2人を追わずに、来た道を引き返した。




 転移系の魔法道具マジックアイテムを使ったラクダレスは自分の家の床にうつ伏せの状態で倒れていた。


「ハァ、ハァ。けっこう容赦なくやってきましたね」


 動くと痛むため、ラクダレスは発信機に魔力を流してから動かないようにする。


(やはり転移の魔法道具マジックアイテムをもらっておいて正解でしたね。聖国に5個しかないと言われている物を彼らが使ったとカイ君に言われたときは驚きましたが、魔人が関わっていましたか。それなら納得できます。魔人の魔法文化は人間よりもかなり進んでいると読みましたからね。量産しているのでしょうかね。これは厄介ですよ、カイ君)


 ラクダレスは脱力した状態で、騎士の2人がやってくるのを待ち続けた。

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