29話


『守り人の牙』の2人と分かれたカイとミカは学園の医務室に来ていた。

 部屋には男性が1人おり、その男が総合第一学園の医師のようだ。

 医師はカイを見た瞬間に驚きすぐに診ようとしたが、カイが先にミカを見てほしいと言ったため、医師はカイにベッドで寝ているように言い、すぐにミカの容体を見ることにした。


 ミカの容体を見た結果、一度に魔力を大量に放出したことが原因だったため、少し安静にしていればすぐにでも元通りに動けるようになる状態だった。


 カイの傷を見た結果、左腕の傷は大したことは無く、消毒をして包帯を巻くだけで終わった。氷を溶かし脇腹の傷を確認した結果、縫い合わせる必要があったため、カイは医師に支えられながら別室に移動した。


 移動後、麻酔を塗り、何針か使い傷を塞いだ。医師には1週間ほど安静にするようにと言われた。



 先程の医務室に医師とカイが戻って来た。


「大丈夫だった?」


 医務室に戻って来たカイにミカは駆け足で近づいた。


「大丈夫。1週間くらい休めば元通りだって」

「良かった。私はもう少し休んだら寮に戻るけどカイも一緒に戻る?」

「ちょっと待って。…あの、俺も寮に戻っていいですか?」

「君は念のためここにいてくれ。もしも傷が開いたら大問題だ」

「…ってことらしいから俺はここに残るよ」

「分かった…」


 ミカは少し寂しそうな顔をしたが、その後は2人で楽しく話していた。




「じゃあ私は帰るね。また明日ね」

「うん。また明日」


 長い間話してしまったのか、そろそろ外が暗くなりそうだったため、ミカは寮に戻って行った。


「さて、カイ君で良いかな?」


 ミカが救護室を出てから少ししてから、机で事務仕事をしていた医師が急にカイに話しかけた。


「はい、そうです」

「君は冒険者体験を受けてる生徒だね」

「はい」

「どこまで潜って来たんだい?その傷の深さからすると4階層までは言ったみたいだけど」

「5階層まで行きましたよ」

「5階層まで行ったんだね。なら、その傷は、オークファイターと戦った時の傷のようだね」


 本当はイモータルジェネラルにつけられた傷だったが、ここでこのことを言って面倒なことが起きると感じ取ったカイは言わないようにした。


「にしても、君の傷を覆っていた氷は奇麗だったね。あれは、高い技術を持った人にしかできない芸当だけど、カイ君は誰に魔法をかけてもらったのかな?」


 医師が放つ空気が変わった。その目はカイのことを詮索しようとする目になっていた。


「あれは同行していたセレス先生にかけてもらった魔法ですよ。僕には傷を塞ぐ方法が無かったので先生に塞いでもらいました。」

「へぇ~、王国にもすごい魔法使いがいるんだね。勉強になったよ」


 カイはこの言葉に違和感を感じた。その違和感は頭の中で先程の医師の言葉を再生することですぐにわかった。


「…先生は、王国の人間ではないのですか?」

「…王国で初めて高い魔法技術を見て浮かれすぎましたね。そうですよ。私は王国の人間ではありません」

「帝国ですか?」

「いえいえ、私は聖国の人間ですよ。この学園に雇われるため王国に来たんですよ」

「そうなんですか。…やっぱり王国の魔法技術は低いですか?」

「そうですね。少なくとも聖国よりも低いと思いますね。無詠唱で魔法を放つ人がほとんどいませんから。いたとしても威力はとても酷い物でしたからね」

「先生はなんで王国に来たんですか?来る意味が無かったんではないですか?」

「…まぁ、君には教えてあげましょう。


 聞いた瞬間、カイは警戒度を限界まで上げた。


「そこまで警戒しないでくださいよ。何かするわけではないんですから」

「あなたは何者ですか?」

「ただの医師ですよ。ただ、お金が必要なので来ているだけです。実は聖国で孤児院の経営をしているんです。経営し続けるためにもお金が必要なので給金が良い王国に働きに来たんですよ」

「それを信じろと?」

「信じるも何も本当のことですから」


 カイと医師のにらみ合いが続く。しかし、この状態が続いても意味無いためカイは警戒するのをやめた。


「…先生も大変なんですね。でも、孤児院からいなくなって大丈夫なんですか?」

「それは大丈夫ですよ。他のものに管理を頼んでいますから。ただ、子供たちに会えないのは寂しいですが…」


 その時の医師の顔は、本当に悲しそうな顔をしていた。


「そもそも、聖国の人が王国に雇われて大丈夫なんですか?」

「聖国自体は問題ないと言っていましたね。ただ、王国側はどうでしょうね」

「確認してないんですか?」

「えぇ、確認する前に雇われてしまいましたから。学園は私のことを確認をしないで雇ったようですから、聖国の人間が王国にいるとは思っていないでしょうね」


 学園のガバガバな雇用形態にカイは驚くしかなかった。


「まぁ、言わなければ問題は無いでしょう」


 医師はそう言うと楽しそうに笑った。


「王国は他国に対して厳しいですからね。カイ君は王国と他国の関係を知っていますか?」

「いえ、知りません。そもそも、王国では他国のことをほとんど聞きませんから」

「なら、私が教えましょう。王国と他国の関係性を。っと、その前に事務仕事を終わらせなくては。少し待っていてください」


 医師は机に置いてある紙にいろいろ書き始めた。




 ここまで読んでくださりありがとうございます。

 投稿再開が遅くなりすみませんでした。


 近況ノートでもお知らせしましたが、4月の間は2日に1回の更新とさせていただきます。奇数の日に最新話を更新いたします。

 投稿頻度が落ちてしまい申し訳ございません。


 これからも「無能判定されたけど間違いだった!?~実は最強の氷炎使い~」を読んでいただけたら幸いです。

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