第264話


 予定では幼児化したクリミナルを直すつもりだったが、緊急のそれもとぎれとぎれの通信だったこともあり、オムニはカイ達に「ちょっとごめん」と一言だけ言って部屋を出て行った。


「……私は今からクリミナルの所に向かおうと思います。皆様もご一緒にいかがですか?」


 いつもの声色と姿勢で言っていたが、リオの姿はオムニ同様に焦っている様にカイ達には見えた。そして予定通りのことだったこともあり、リオに案内されながら地下に向かい始めた。




 地下と言っても窓がないだけで、作りは地上とさほど変わらず、明かりも大量にあった。そのため何も知らない人が突然ここにつれて来られたら地下にいるなど微塵も感じない作りだとカイが思っていると、ひと際頑丈で大きく、機械じみた扉の前で止まる。

 リオは待っている様に言うと、扉をいじり始めた。


「ここは緊急時の際に非戦闘員の者や、客人をお通しするための部屋なのです。例外を除き、この部屋に入るための扉はここにしかありません」


 リオがある程度いじると扉はガチャガチャと音を立て勝手に動き出す。


「普段が手をかざすだけで開くのですが、今はこの中にクリミナルがいますから。非常時モードになっておりますゆえ、このように色々する必要があるのです」


 動いている扉を全員が見ている中、リオは袋から椅子を人数分出し始める。


「まだしばらくは開きませんから、ぜひ座ってください」

「これって、魔法道具マジックアイテムですか?」

「……似たような物ですね。魔力を燃料にして動いております」

「見た目だけだと魔法を当てたら簡単に壊れそう」

「試してみますか?」


 ラウラは頷くと、座ったまま人差し指を扉に向けて軽く魔法を飛ばす。すると魔法は扉に当たる前に消滅した。



「あの扉はかなり特殊な物で作られてまして。魔法を無効化する様になっているんです。過去に100人集めて魔法を撃たせたことがありますが、傷1つ付いたことが無いのです」


 タイミングを見たかの様に扉からの音が止まる。すぐにリオが立ちあがり扉を再度いじり始める。


「これで開きます。中から開けるのは簡単なんですがね」


 少しだけ扉が開くと、リオが手動で開け始める。


「さぁ行きましょう。この先にクリミナルがいます」




 中には個室が多くあり、その全てが清掃されしっかりと管理されていた。そして現在も中には使われている部屋もあったため、数人のメイドもここに住んでいることが分かった。


 どの部屋にクリミナルがいるのか分かるのか迷わずにリオが進んでいく。


 そして、他の部屋と変わらない部屋の前で止まりノックすると、返事が返ってくる。


 中に入ると、クリミナルが数人のメイドに世話をされており、以前見た時に出来た怪我は無くなって、服も綺麗で豪華な物になっていた。


「リオさん!」


 リオの存在に気づいたクリミナルはリオに一目散に走り出し、抱き着く。


 しばらく離れなかったクリミナルを何とか剥がして座らせると、他のメイド達は外に待機させる。


「不便では無かったですか?」

「全然!皆よくしてくれて、嬉しかった!」

「そうですか。さて、さっそくですがこの杖を掴んでください」


 杖を握ったクリミナルは、どうしたらいいのか分からず、迷った顔でリオのことを見つめる。


「魔力をその杖に流せば大丈夫です。……と言っても魔力の流し方が分からないですよね」



 リオはそう言うと、手を包むように掴むと魔力をクリミナルを覆うようにして流し始める。


「この感覚を杖に流せばいいんですよ。できますか?」

「や、やってみる」


 困った様子ではあったが、クリミナルは言われた通りに魔力を杖に流そうとする。最初は流せていなかったが、少しずつ感覚を取り戻し、杖にしっかりと魔力を流し始める。


 時間はかかったが、それなりの量の魔力を流し終わると杖は発光し始める。その光はクリミナルを包む。

 光が収まると、クリミナルの姿は親分が変身していた男の物に変わる。


「変わり、いえ戻ったと言うべきですか?」

「リオ様か。感謝する。……カイと言ったな。以前どこかで、俺と会ったことがあるか?」


 カイのことを見たクリミナルが首を傾げるが、カイはもちろん会ったことが無かったため覚えが無いと伝える。


「そうか。それより、この杖があるってことは」

「えぇ。残党も無いと思われます。なので、もう狙われることは……」

「いる。残党はいる。魔国に実験動物用に送られた奴が大量にいるはずだ」

「それは……。オムニに伝えておきます。それよりもあなたはなぜ無事だったのですか」

「んぁ?魔力操作がなってないと上手く操作出来ないんだろ。あのクソジジイは魔力操作がなってなかったからな。操作が途切れた隙に、ナイフやらなんやら、自衛用に準備してた物を投げまくったんだよ。最初は俺が体を動かしてたんだが、だんだんと記憶が消える方に支配されちまってな。アンタらにあったころには、俺が何かするのは出来なくなっちまったってわけだ」


 言い切ったクリミナルは、リオの手を優しくほどき、手を前に出す。


「分かってます。ですが、オムニに話した後です」

「そうか」


 手を引っ込めたクリミナルは部屋から出て行く。


「皆様にとってはあまり面白い物では無かったですかね。戻りましょうか」

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