第311話


 動く床にいるミカに対して、魔人特有の翼を大きく広げながら近づいてくる。その翼は全て真っ黒でコウモリの様な翼で、本物のアルマの様な白色の羽は一切ついていなかった。そして首には皆がチョーカーの様な物を付けていた。


 偽アルマ達はミカに向けて魔法を放つ者と、接近して攻撃する者達に分かれていた。その後ろで長い前髪で片目が隠れている髪型の、灰色の角が生えた偽アルマが一定距離を保ちながら飛んでついて来ていた。その偽アルマが指揮を取っているようで、口を開く度に男性の声が響き渡る。見た目も男性と遜色なかったため、本物と性別が違うことにミカは驚きながらも、飛んでくる魔法を避け、接近して来る者に対しては槍を使っていなしていた。


 ミカも反撃として雷を飛ばしているが、魔力感知に特化している魔人達には中々届かず、安易には撃たずに魔力を温存していた。逆に魔人達は人数もたくさんいることを生かして魔法を容赦なく撃って行く。


「この数の魔人に恐れること無く、懸命に戦う姿。とても美しい!」


 床が止まったことで魔人達はミカの後ろに回り込み、一気に畳みかけようと武器を突き立て突進を仕掛ける。

 ミカは高速移動を使い男の偽アルマの前まで移動する。突然の登場に男は驚いたが、魔力感知で分かっていたのか、腰に刺していた剣を流れるように抜き槍を受け止める。


「その闘志を秘めた瞳もとても美しい!!」

「ちょっと……気持ち悪い」


 力強く振り払われたことで後ろに飛ばされ、着地と同時に魔法が大量に撃たれる。ミカは焦ること無く、視覚と魔力感知を駆使して魔法を叩き潰していく。


 長い間防戦一方な状況が続く。

 ミカにいくら魔法を撃ちこんでも全て対処され、だからと言って近接攻撃を仕掛ければ逆に自分達が反撃をされる状況に偽アルマ達は焦り出す。

 指示を欲しいとばかりに男の偽アルマに視線を送るが、当の本人はミカのことを熱い視線で見つめるだけで、いくら話しかけてもどこか抜けた返事しかしてこない。




 しばらくして、偽アルマ達の中に魔力不足になった者が出て来たのか、魔法の攻撃が緩みだす。ミカはここまで最小限の動きと魔法だけで対処していたため魔力も体力も残っていた。この機会を逃すはずもなく、近くにいた偽アルマのことを切り付け相手を崩し始める。


「何をしてる。抵抗してるのが美しいんじゃないか。攻撃が無いと見れないじゃないか」


 男から放たれる冷たい言葉に、偽アルマ達は悔しそうな表情な者もいれば、苦しそうな表情を浮かべながらミカに向けて突撃を開始する。


 長い間相手をしてミカは思っていた。魔力も数も相手の方が上だが、明らかに戦闘経験がない。連携も取れていなければ、中には武器をまともに振れない者。魔法が狙った方向に向けて飛ばない者もいる。そんな者達が戦っていることに違和感を感じながら戦っているとようやく男が前で出始める。


「満足したな。もう良い。用済みだ」


 男の偽アルマが地面に降り立つと、その瞬間は偽アルマ達は安心した表情を浮かべていたが、最後の言葉を聞いた瞬間に青ざめ始める。近くにいた偽アルマが話しかけるよりも前に男が先に指を鳴らす。その音と同時に男の指先から魔法が放たれ、警戒したミカだったが、目の前の景色に驚くことになった。

 今までミカのことを攻撃していた偽アルマ達が一斉に倒れる。倒れた彼女達から魔力の反応は感じなかったためミカは酷く驚いた。


「何で……」

「何が起きたか分からないって表情だ!それも美しい!!!!」


 突然のことに警戒して離れたミカに対して偽アルマはペラペラ話し出す。


「私はマーキングした所に魔力で作った針を打ちこむことが出来る!それをこいつらの首輪に施してやってたんだ!針は数回撃たれると死ぬようになってたんだが、今日はあと1回しか耐えられない奴を連れて来てたから……と言うわけだ!まったく不便だ。1回で死。それで良いと言うのに」

「仲間のはずでしょ!」

「なぜ怒る?むしろ感謝されるべきだ。これ以上醜い姿をさらさずに済んだんだからな!!」


 両手と顔を上げ、下品な笑いをする男。

 次の瞬間、ミカの姿は男の後ろにあった。男は魔力の反応が突然が後ろの現れたことで急いで攻撃を仕掛けるが、ミカに簡単に受け止められる上に反撃をくらい数歩下がる。


「人が悦に入っている時に……!!」

「男前になったじゃん」


 男の言葉など無視して話しかける。何を言っている分からない様子の男に向け、ミカは挑発的な表情を浮かべながら右頬を軽く叩く。男は真似るように右頬を触れば何か液体がついた感覚を覚える。ゆっくりと離して見れば右手は真っ赤に染まっていた。


「あぁああああぁぁぁああぁあぁああ!!」


 そこまでしてようやく気付いた。すれ違い様に頬を切られたのだと。


「貴方が言ってた美しいって奴だね」


 ミカの言葉など届いていないかのようで、男は地面に蹲り奇声を上げ続ける。


 恨みや憎しみ、怒りなどを含んだ視線で見てくると思ったミカは、槍を構え警戒しながら接近する。だが、ミカの予想とは違った。


 醜い物を見るような視線をしていたのだが、その中には不思議と怒りや恨みと言う物は感じなかった。だが驚いたのはそこではない。

 振り向いたと同時にこと切れた偽アルマが握っていた剣を拾ったのだ。反撃して来るのだと警戒して足を止めたミカだったが、次の行動は予想とは違った。


 剣先を自分の喉元に向けたのだ。


「なッ!」

「美しくない物に生きる価値はない」


 迷うこと無くその剣先を進めた。剣はまるで何も抵抗を感じてないかの様に貫通させた。


 魔力感知を使って敵の反応がないことを確認したため、ミカは槍を担いでから急いで分かれた場所まで戻る。

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