第312話


 最初は反撃しながら運ばれているカイだったが、一瞬の内に出来た偽アルマの集団の隙をつき1人に跳びつく。跳びかかられた偽アルマはもちろん抵抗してきたが、振るわれた武器は腕に纏っている氷で全て防ぎ一発入れて行く。攻撃を入れれば、すぐに次の偽アルマに跳びつき攻撃。それを繰り返して元の場所に戻ろうとしたが、それは出来なかった。

 次の偽アルマに跳びつこうと瞬間に足を掴まれた。綺麗に顎に攻撃が入り、膝から崩れる所だったため、もう大丈夫だと思ったのだ。掴んできた偽アルマはしっかりと気絶していた。それなのに気絶してから掴んできたことに不思議に思っていると体が浮く感覚が走る。次の瞬間、今まで離れようとしていた方向に後戻りする様に投げつけられる。投げられたカイが見た光景は地面から土で出来た巨大な手だった。


 カイは背中側に氷を作り身を守りながら飛ばされていた。そして、その様子を偽アルマ達は遠くから見るだけで、追いかけてくる様子は無かった。

 数回壁にぶつかったがどれもそこまで強い衝撃を受けること無く、今までで一番の衝撃を背中に受けると同時に勢いは止まり、カイは着地と同時に氷の剣を生み出し構える。

 投げられた時に見た様に偽アルマ達は全く追って来ておらず、カイの目の前には両手を地面に付けた状態で止まっている偽アルマだけだった。その偽アルマは本物とほとんどが一緒の見た目で、違うのは翼と、感情と光を感じない瞳が違う点だった。


「情報にあった侵入者達の移送を完了。次の段階に進行。目の前の敵の捕獲を開始」


 淡々と何も感情を感じさせない声で喋る偽アルマ。それを受けて警戒を強めると、地面が動く感覚を感じる。後ろに飛べば地面から土で出来た巨大な手が出てきて、すごい勢いで合掌する。カイが避けた先にも手が生えて攻撃して来るため、カイは避けに徹することになった。

 だが避けるのはとても簡単で、先読みして来るのではなく、着地した所に攻撃をして来ると言った形だったため避けるのは容易だった。そのため接近するのも簡単だった。

 近づくことが出来たカイは容赦なく氷の剣を振り下ろすと、偽アルマは相変わらず感情を見せること無く手のひらを剣に向ける。カイはその手すら切るつもりで振り下ろすと剣は彼女に当たった瞬間に歪み曲がる。

 あまりの出来事にすぐに後ろに下がり剣を消してまた出す。すると剣が何事も無かったかのように元通りになって出てくる。


「対象の混乱を確認」


 偽アルマは手のひらを広げながら無駄のない動きで突進して来る。

 カイはそれを剣を振って迎撃するが、手のひらに当たった瞬間に剣が曲がり使い物にならなくなるため、両手に纏っている氷を解き普通の剣を生み出す。偽アルマはその剣は手のひらで受けること無く避ける。


「未知の魔法を確認。データバンクに接続。該当データなし」


 ただただ佇む偽アルマ。感情を感じさせない瞳は、カイが攻撃して来る間も感情を灯さず無機質な視線を送り続ける。

 偽アルマは何度か殴りや蹴りなどの攻撃を仕掛けるが、それカイは全て受け止め剣で斬りつけようとする。偽アルマはそれを手のひらで受けるのではなく避けようとする。カイの技術よりも偽アルマの避ける技術が低かったため、偽アルマは切り傷が少しずつ増えて行く。だがまるで痛みなんか感じてないかのように無表情でいる偽アルマに対して、カイは自分の方が有利でいると言うのに恐怖を覚える。


 胴体が空き隙が出来たため、カイは殴り飛ばしすぐに接近する。

 偽アルマが衝突した場所は貯水されていたタンクだったようで、亀裂から水が少しずつ出始める。

 接近出来たカイが振り下ろそうとしたタイミングでが1人でに動きカイに攻撃を仕掛ける。何とか剣で受けることは出来たが、衝撃は消し切れなかったため地面を滑るカイ。よく見れば偽アルマの右手は床に、左手は壁に触れておりそれで操作したのだと理解する。

 偽アルマは立ち上がると、壁から出ている水に片手を付ける。


「対象の捕獲を断念。抹殺に移行」


 血を流しながら呟くと同時に水が壁を破壊して大量に出てくるが、その水は空中でとどまり出す。

 彼女がカイのことを見つめると、中に浮いている水から小さな水の塊がカイに向けて飛んでいく。カイはそれを氷の壁を生み出し守ろうとしたが、守ることは出来なかった。水弾は壁を簡単に貫通し、カイの頬を掠る。そして当たった床部分は水弾で開いたであろう綺麗な穴が出来ていた。

 大きさもそこまで大きい物では無かったため、空中に浮いている水全てがそれになるのだと思ったら……。気づいたらカイの額には冷や汗が浮かんでいた。


「損傷により故障した機械を確認。一帯の放棄を提案。……許諾を確認。敵の早急の末梢を優先」


 その声を皮切りに水弾が雨の様に降り注ぐ。

 カイはすぐさま壁から離れ駆け出す。1秒もかからないで壁は粉々に破壊され、壁から飛び出たカイのことを追いかけ始める。

 カイが通った場所は大量の穴ができ始める。


 数分だろうか、命がけで走り回ったカイの額からは大量の汗が出ており、肩で息をしている状態だった。

 空中に浮いていた水は無くなり、遅いかかる物がなくなったため、カイは偽アルマのことを見ながら息を整えていた。


「敵の生存を確認。次の手に移行」


 偽アルマはもう一度地面に両手を付け始める。すると地面から巨大な手が生まれカイのことをつぶそうとする。だが、先ほど同様にカイを追う形だったため避けるのは容易だった。

 避けながら接近したカイは一撃で終わらせるつもりで剣を振る。避けた時にも対処できるようにするのも忘れない。だが、その予想は外れに終わる。

 避けていた偽アルマだったが、今度は地面から離した手で剣を掴もうとして来る。彼女が掴んだ瞬間に剣先が動きだし、剣先はカイの喉元に向けて伸びる。

 それを見たカイは喉を氷で覆い、相手いる手のひらを偽アルマに向け、そこから剣を生み出し始める。

 剣はかなりの切れ味を持った物だったが、氷で覆ったおかげで少しだけ間が生まれ頭を傾けることでカイは避け切る。

 逆に偽アルマはカイの手のひらから生み出された剣を見ておらず、その剣は偽アルマの腹に突き刺さる。

 カイは息を上げながらも、突き刺した剣はそのままに後ろに跳ぶ。


「腹部へのダメージを確認。損傷大。戦闘続行は不可と判断」


 大量に血が出ている状況でも偽アルマは感情を見せず、今までずっと見ていたカイから視線を外して腹部に刺さっている剣を見る。


「敵への情報流出を危惧」


 そう言うと剣を引き抜き投げ捨てる。その時も顔色を変えることは無かった。彼女は最初から変わらない表情で両手を地面に付ける。




 上がっていた息を整えたカイはミカ達と分かれた場所に向けて駆け出す。

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