第310話


 何処か遠くに運ばれるさなか、ラウラはそこから動かずに目の前にいる先の曲がったとんがり帽子をかぶった偽アルマに向けて杖を向けていた。その偽アルマもラウラに杖を向けており、先ほどからお互いの杖から魔法が飛び交っていた。それはお互いの中間点で相殺することが多かったが、中には軌道を逸らした物も出来たりして周りの物を破壊していた。

 破壊していると言っても、そのすべてはラウラの魔法が逸らされた物だったり、偽アルマが避けた物だった。


 ラウラが対峙している偽アルマの角の色は黒。つまり闇属性の使い手だった。

 飛ばされてくる闇の球に対してラウラは風を使い相殺か逸らしていた。


「魔人でもない奴がここまで魔法が使えるなんて、ウケル!!」


 魔法を撃ちながら器用に腹を抱えながら魔法を撃つ偽アルマは、しばらくたって大きく息を吐いてから目端にたまった涙をぬぐってからラウラのことを見つめる。


「はぁ~、まじウケルわ!人間でここまで出来るなんて笑いもんだわ!めっちゃ笑ったしー、やっちゃうよー!」


 やる気満々な表情になった偽アルマは杖を上に向けてから勢いよく振り下ろす。すると空中に生まれていた闇の数が倍以上に増え、時間差でラウラに向けて飛んでいく。

 今まで動かずに対処していたラウラだったが、数が数なだけに跳んで避け始める。そのまま闇は地面にぶつかって消滅するかと思われたが、地面に当たる寸前で曲がりラウラのことを追い続ける。消滅すると思っていたラウラは下から飛んで来た闇を杖で振り払い消滅させようとする。


「良いのー?それはね追撃する上にまとわりつくよー?まとわりついたら痺れちゃうよー?」


 偽アルマの言った通り、闇は杖にへばり付きラウラの腕目掛けて浸食していく。浸食はそれなりの速度で進んでいたため、ラウラの腕に闇がくっつく。

 闇にまとわりつかれた両手を前に出してからラウラが力なく横たわる。杖の倒れる音と同時にラウラの崩れ落ちた音が響く。

 偽アルマはスキップしながら遠くで崩れているラウラに近づいて行く。


「私って相手を無力化させるしか出来ないんだよねー。ってことで他のに……おいて来てるし!ウケル!」


 周りを一度見渡してから、笑いながらスキップで近づく偽アルマ。他の偽アルマがいないと分かると、懐からボタンの付いた小物を取り出す。


「上の研究員から奪って来た魔法道具マジックアイテムなんだけど、魔物を転移させることが出来るんだってー」


 間近まで近づいた偽アルマはとても気分がよさそうに、躊躇うこと無くボタンを押す。すると、小物の中からスライムが一体出てくる。


「そう言えば失敗作って言ってた!ウケルーー!!!!」


 そう言って笑う偽アルマは自前の杖でスライムのことをつつく。スライムと杖がくっついた瞬間、杖は煙を出して溶けだす。驚いた偽アルマは急いで引っこ抜くとまじまじと溶けた所を見つめる。


「ありゃりゃりゃ。溶けた。これアンタにかけたらどうなんだろ。気になるーー!」


 溶けた杖を投げて捨てると、後ろを向いて歩き出す偽アルマ。


 その背中に衝撃が走る。


 突然のことに訳が分からないでいる偽アルマは、起き上がろうとするも体が痺れて動くことが出来ないでいた。


「確認しないで敵に背を向けるなんて。言語道断」


 何か液体がつぶれる音がすると、ラウラはゆっくりと偽アルマに近づく。そして、こちらを見るように転がすとしゃがんで話し出す。


「腕にまとわりついた闇。あれはこれでくっつかないようにした」


 そう言ってラウラが出した右手には風が纏われていた。それを見た偽アルマは訳が分からないと言った視線を送る。いくら風を纏ったと言えど、風が来るだけで目に見えて変化がある訳ではないからだ。


「背中を見せた後で闇を風で包み込んであなたにぶつけた。だから貴方は動けない。色々教えてもらうから」

「……闇……の奴は少し……は耐性ある……の。知って……た?」


 襟元を掴んだラウラは引きずった状態で戻ろうとしたが、偽アルマのとぎれとぎれで弱々しい声を聞いて立ち止まる。このままでは魔力を動かすのも可能になるとふんだラウラは、袋から取り出した紐で手足をしっかりと縛ってから空中に向けて偽アルマを投げる。ここまで力があると思っていなかったのか、空中で驚いた表情を浮かべる偽アルマに対してラウラは残った片手で持っていた杖を両手で持ち、魔力を溜め始める。


「ま、待っ……!?」


 偽アルマの静止の声は届かず、ラウラは迷うこと無く魔法を撃ちこむ。動けない上に空中にいたことで、偽アルマは防御できずに遠くまで飛ばされていく。その方向はラウラが目指していた方向だった。


 途中で動く床から跳んで逃げていたラウラが一番最初に戻ってくることが出来、伸びている偽アルマの確認をしてから皆が戻ってくるのを待ち始めた。

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