第309話


 偽アルマと共に運ばれているはずのフラージュは、ただただ槍を構えている状態で立ち止まっていた。そして、一緒にいるはずの偽アルマの姿は無かった。そんな状況でもフラージュは動かず、目を瞑った状態で槍を構えて佇んでいた。

 そのフラージュが槍を振るうたびに、槍が何かと当たり火花が上がる。その一瞬だけ偽アルマの姿が現れる。

 フラージュと一緒に運ばれているのはラウラの真後ろに突然現れた偽アルマで、その偽アルマは床が揺れ出すのと同時に透明化していた。それを見ていたフラージュは、カイ達の方に跳ぶのではなく、その偽アルマに向けて攻撃していた。それを偽アルマの集団は見ていたのか、フラージュには目に見えて一緒に移動して来る偽アルマはいなかった。

 それでも、フラージュが敵がいると確信して槍を振れば空中で攻撃が当たり火花が散る。


「やっぱり見えてる。スゴイ」


 喋ると同時に偽アルマが姿を見せる。

 先程は一瞬しか見えなかったがよく見ると、本物のアルマを10歳ほど成長させたような見た目で、ツインテールでいるのに対して、目の前の偽アルマは長い髪を下ろしている状態だった。角の色が同じ灰色と言うことで、姿を消すのが彼女固有の魔法なのだと判断できた。


「見えるはずないのにアナタは見えてる。なんで?それにその仮面。ナニ?」


 姿を見せた偽アルマはナイフを握っている両手をダラリとしたに下げながらフラージュのことを見つめる。そして不思議な瞳でフラージュの眼に当たるであろう場所を首を傾げながら見つめる。


「仮面は昔から付けてるから。癖みたいな物。それで、なんで見えてるかだけど……」


 フラージュは体勢を低くして槍を構える。それを見て偽アルマは軽くユラユラと揺れるとフラージュに向けて突っ込む。その瞬間フラージュの姿がいなくなり、数秒経ってから先程まで偽アルマが立っていた場所に現れる。


「あなたも消える。ビックリ」


 フラージュが消えている間にすれ違った偽アルマは、持っていた2本のナイフが砕けるのを見ながら呟く。


「消えてる。でもあなたはいる。私とは……チガウ」


 そう言った偽アルマは懐から手のひらサイズの玉を取り出し地面に投げつける。その玉は地面にぶつかった瞬間大量の煙をまき散らす。いわゆる煙玉だった。

 フラージュはすぐに後ろに下がったが煙が広がる方が早く、念のため煙を吸わないように息を止める。

 これだけ煙が出ていれば攻撃の瞬間に煙が揺れて居場所が分かるとふみ、集中力を高める。

 全力で警戒していたフラージュだが、突然横向きに飛ばされる。視覚だけでは限界があるため魔力感知も使い確認していた。それでも突然攻撃された。それはラウラを攻撃した時も同じで、ラウラを守れたのは奇跡と言っても過言ではないとシャリアは思っていた。


 飛ばされたことで煙から出たフラージュは、膝をつきながら偽アルマの声がする方に目線を向ける。


「あなたからは魔力を感じない。でもそれは見えてるときだけ。消えた瞬間に魔力が溢れだす。だから何処にいるか分かる。でも私は逆。姿を見せてるときは魔力が漏れるけど、姿を消したら魔力を隠せる。それが私とあなたの違う所。ワカッタ?」

「さらっと嘘をつくんだ。その煙の中で移動したら、捕らえるなんて簡単のこと。何かが通ればどこかが揺れるからね。でも視認なんてできなかった。まるでソコから存在自体が消えたみたい」


 次の瞬間、シャリアの上からナイフが振り下ろされる。その攻撃を横に転がりながら避けると、ナイフを振り下ろした状態の偽アルマが手元からだんだんと現れ出す。


「ナンデ?」

「私は魔力感知が得意なの。攻撃される一瞬だけでも感知出来れば対処できる」

「秘密知られた。コロス!」


 先程までの無気力な瞳と変わって、焦っている心情が感じられる瞳をしていた。


 偽アルマはまた姿を消す。フラージュは体勢を整え槍を構えると、心臓を狙う一突きが当たるすれすれで現れる。それをフラージュは体勢を低くしながら、下から柄を津かってはじくと、手元目掛けて刃を振る。攻撃が当たり刃に確かに血がついた。床にも血が点々と落ちるが、次の瞬間落ちなくなる。


「別の空間にいるあなたは攻撃する時だけ体の一部をこっちに送ってる。もしくは存在自体が消えてて、攻撃する時だけ顕現させてる。とかかな?」

「分かった風に口をきかないで。キライ!!」


 また同じ様に心臓を一刺ししようとする一撃が現れる。フラージュはその攻撃を今度は避けたりはじいたりするのではなく、手が現れた瞬間に体を回転され、手首をつかむ。


「離して!」


 捕まったことで姿を現した偽アルマは残っている片手のナイフで攻撃を仕掛けるが、それは槍を手放したフラージュに受け止められてしまう。


「能力に頼って戦ってたんだね。力も技をほとんどない」

「うるさい!」


 図星をつかれたような表情を浮かべてから偽アルマはその場でジタバタと暴れ出す。だが、フラージュが言ったように力があまりないのか、全部フラージュに抑え込まれていた。

 フラージュは偽アルマが落ち着いた一瞬を狙って後ろに回り込み絞め始める。力も技もフラージュ以下の偽アルマが抜け出せるはずもなく、いともたやすく絞め落とされる。


 フラージュはゆっくりと偽アルマを寝かせてから、急いで戻り始めた。

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