第308話


 床がグラグラと揺れ、どこかに向けて運ぶように動き出す。カイ達は全員が近くにいる者達の所に跳ぼうとしたが、それを許す程相手は甘くなかった。


 リオは運ばれるさなか、爪を壁や天井、地面に突き刺しながら目の前にいる偽アルマのことを睨みつける。


「あなた達~。この子猫ちゃん、壁とかに印付けてるから剥がしながら走ってついてきなさ~い」


 その声と言葉遣いから、集団を指揮していた偽アルマだと分かる。その偽アルマは指示を出しながら、なめるような視線でリオのことを見つめる。そんな視線を無視しながら爪を飛ばし続けるが、刺さった先から全て取られてしまうため、取った相手を気づ付けるように回収するしかリオには手が無かった。そして、目の前にいる偽アルマには魔法で水球を飛ばすが、避けるか後ろから追いかけてくる偽アルマが盾となって当てることが出来なかった。

 移動する地面から離れようとすれば、周りにいる偽アルマが妨害して来る現状がある程度続くと、急に地面が止まる。突然止まったためリオはその場で倒れそうになる。それを隙だと思った偽アルマが跳んでくる。


「止めなさい!演技よ~!」


 ボスの偽アルマに言うようにリオはわざと倒れたが、もう偽アルマ達はこちらに跳んできている上に、リオの射程圏内だった。

 倒れながら回収を終えていた爪を飛んできている偽アルマに向けて飛ばす。もちろん偽アルマも当たらないように構えるが、全ての爪が自分の横を通ったためミスしたのだと思い、意識は倒れそうになっているリオに集中される。リオが爪につながっている糸を軽く引くと、爪は曲がって偽アルマ達の背中目掛けて飛んでいく。早業だったこともあり、指揮者の声で動いた者は間に合わず、偽アルマ達の体に糸が絡まる。絡まったことに気づいた偽アルマは焦りながらも、リオを攻撃しようする者、絡まった糸を取ろうとする者に分かれた。

 剣が届くと思い、糸が絡まった状態に偽アルマが振り下ろすが、その場所にリオは存在しておらず、突然上に引っ張られる。他の糸が絡まった偽アルマも同様で、空中で宙吊りになる。


「あの糸が魔法道具マジックアイテムになってるみたいね~。糸を自由自在に操って、先っぽのあれで攻撃するのかしら~」


 指揮者のリオの持つ手袋の魔法道具マジックアイテムの観察を終わらせ、ゆっくりと彼女は視線を上に上げる。そこには片手を上げた状態で宙吊りになったリオがいた。

 リオが下げている手を上げると、宙吊りになっている偽アルマも一緒に上がり、リオが投げる動作を行えば、その者達は飛んで行った。

 空中に浮いているリオに偽アルマ達は攻撃を仕掛ける。ある者は跳んで剣を振ろうと、またある者は魔法を飛ばし。その間ずっと指揮者は観察するようにリオのことを見ていた。


 片手が空いたため、リオは爪である程度の魔法を撃ち落としつつ、天井に爪を深々と何か所か突き刺し、空中を器用に移動していく。飛んでから攻撃を仕掛ける者達が追い付くことは出来ず、魔法もほとんどが当たりそうも無かった。それはお互いに魔力感知を使えるが故だった。


「5択にして来るなんて意地悪な子猫ちゃんね~」


 魔力を武器に纏わせることで威力も強度も高まる。これを使いリオは爪を天井に深々と突き刺していたため、それをアテにして魔人達は魔法を飛ばしていていた。だが、リオが爪を飛ばす場所は1ヵ所ではない。1回で5ヵ所も飛ばしていた。それでも偽アルマ達は数が大量にいるから大丈夫かと思っていたが、リオは着実に魔法を使い倒して行く。魔法が飛んでくると分かっていても、体が反応出来ない者達が大量にいたのだ。

 着実に数が減っていることに指揮者は焦ること無く支持を出す。


「あなた達~、しっかり避けなさ~い」


 その言葉を受けるなり、偽アルマ達にリオの攻撃が当たらなくなり始める。

 先程「走って」と言った時も偽アルマ達の足が速くなったと思っていたリオ。指揮者に何かカラクリがあるのは明白。すぐに指揮者に爪を飛ばすが、他の偽アルマが身を挺して守るか、指揮者のもつ鞭に叩き落される。


 魔力の消費を抑えるため魔法はあまり撃たず、しばらくの間空中から攻撃を仕掛けていたが、攻撃があまり当たらなくなったことで、リオは浮くのを止め地面に下りようとする。


「いま無防備よ~。攻撃仕掛けて~」


 その瞬間を狙って全方位から魔法を撃ちこむ。リオは10個あるうちの1つの爪を指揮者に向けて飛ばしてから、糸を自分の周りに巻く様に、まるで繭の様にすることで身を守る。だが、所詮糸は糸燃えてしまう。繭は大炎上を起こしながら地面に落ちて行く。

 そして、飛ばした爪は軌道がかすかにずれており、指揮者の後方に突き刺さる。


「悪あがきも当たらなかったわね~。油断しちゃダメよ~。しっかり刺し殺しなさ~い」


 突進を仕掛けていた偽アルマ達は剣や槍を容赦なく振り下ろす。近づいても反応が無かったため、仕留めたと思った指揮者は笑みを浮かべるが、その表所はすぐに焦った物になった。武器を下ろした全員が、繭に当たる寸前で止まっていたからだ。


「全力で引きちぎりなさ~い!」


 その言葉を受けて動けなくなった偽アルマ達は動こうとするが、逆効果の様で体のいたるところから血が流れ始める。体のあちこちが切れて痛い上に糸は切れないと分かったのか全員がおとなしくなる。


「巻き添えにしてもいいわ~。魔法を撃ちこみなさ~い!」


 接近していなかった者達が指示を受けて躊躇いながらも魔法を撃ちこんでいく。それに巻き込まれた偽アルマは悲鳴を上げることも出来なかった。繭も完璧に燃え尽き灰と化す。


「厄介な子猫ちゃんだったわね~」

「さっきから子猫ちゃんと言いますがなんですか、ソレ?」


 後ろからの声に驚いた指揮者は振り返ろうとしたが出来なかった。体中に糸が巻き付き、繭の様な物から顔を出している状態になったためだ。

 


「貴方さえ落とせば後は簡単ですから。そうそう、口出しはお控えください」


 何か言おうとしたが、口に布を巻かれ喋れなくなる指揮者。


 普段、糸と合体している爪だが、リオの意識1つで着脱可能な物のなっており、魔法道具マジックアイテムとしての機能は糸では無く、爪に秘密があった。

 糸を自由自在に扱っている様に見えるのは全てリオの技量による物であり、真価は今回使った短距離転移にあった。爪を切り離し、突き刺した場所に転移する。とてもシンプルで便利な物だ。だがその分不便な所もあり、投げた者しか使えない上に、いくら短距離だったとしてもそれなりの量の魔力を使うのだ。そのため多様は出来ない物となっていた。


 そこからは早かった。元々そこまで強くなかった偽アルマの軍勢は、指揮者となっていた偽アルマに指示と一緒にバフをかけてもらうことで強くなっているだけだったため、誰も偽アルマを止めることが出来ず全滅する。


「さて、貴方は一緒に来ていただきます」


 リオは指揮者をしていた偽アルマを引きずるようにして、来た道を戻り始めた。

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