第307話
「かなり遠くまで飛ばされた様じゃの」
誰よりも早く分断されたシャリアは、障害物を何個も破壊してようやく止まる。まだ偽アルマが来ていないため周りをキョロキョロして確認すると、かなり遠くまで飛ばされたことを確認する。
「よそ見してんじゃねぇよ!」
もちろんシャリアも偽アルマが跳んできていることに気づていたため、タイミングよく殴りつける。だが、偽アルマは走って来た勢いもあり、また後ろに飛ばされそうになるのを踏ん張って耐える。
「しっかり遊んでくれよ!他の奴なんか見てたら嫉妬しちまうぞ!」
「分かった分かった。もっと老人をいたわってほしいの~」
余りにも勢いが強かったためシャリアは後ろに飛んで威力を殺すと、着地と同時に前に出る。それが嬉しかったのか偽アルマは満面の笑みを作りながらシャリアに攻撃を仕掛ける。
偽アルマの攻撃をシャリアは全て受け流す。時々その攻撃が壁や地面にぶつかっていたため、シャリアと偽アルマの通った道には凹んだ場所が作られて行く。受け流しだけで一切反撃をしないため、偽アルマの顔は最初の満面の笑みから怒りに染め上げられていく。たちが悪いことに、フェイントを入れた時だけ反撃をするフリをしておちょくっていた。それにより偽アルマの怒りは爆発寸前だった。
「くそっ!なめやがって!遊んでんじゃねぇよ!」
「おかしいの~。遊んでほしいと言われたから私は遊んでるに過ぎないんじゃが?」
わざわざ相手のイライラが溜めるため、シャリアは攻撃の隙をついて腕を掴んで投げ飛ばしてから、可愛らしく首を傾げ人差し指を顎に当てて返答する。
「……てめぇは殺すっ!」
ずっと肉弾戦だけを仕掛けて来ていた偽アルマは、魔法を放ちながら近づいてくる。怒りに支配されているのか、偽アルマの魔法は狙いがデタラメで、周りにある機会や壁などに当たる。シャリアは動くこと無く偽アルマのことを先程までと打って変わって真剣な表情で待ち構える。
「力任せで戦って面白くないの。どこに来るのか分かってしまう。赤子を相手しているのと同じじゃ」
「なっ!」
偽アルマの全力が込められた一撃を片手で軽々受け止めると、シャリアは拳を引っ張る。体勢を崩した偽アルマの腹にシャリアの膝が入り、苦しそうな声が聞こえる。あまりの痛みから蹲るが、攻撃をした入れた本人はお構いなしに攻撃を続ける。
腹に膝を入れられたことで、位置が低くなった偽アルマの頭を殴って無理やり高い位置に戻すと、間髪入れずに足払いを仕掛ける。この間2秒もない攻撃だったため、偽アルマの脳内は理解が追い付いていなかった。
何故自分が寝ているのか、頭や腹が痛むのか分からないでいた。脳内が混乱で埋め尽くされていたが、目の前に足の裏が見えたため体を動かすように命令を出す。
転がって避けることが出来た偽アルマは、自分がいた場所を見てゾッとした。ここに来るまで攻撃が壁や床に当たり凹みを作って来たが、それとは比較にならないくらいに大きく広い凹みが作られていたからだ。もしも自分の頭があそこに残っていたら、それを想像したら恐怖せずにはいられなかった。それほどまでに威力の高い攻撃が当たらなかったことに安心感半分、あまりの実力差に絶望が半分になりながら口を開く。
「威力がどんなにあっても当たらなきゃ意味ねぇんだよ!」
「そうじゃの」
わざわざ和みやすい声色で返事をするシャリア。先程の攻撃、あれはシャリアがわざと動き出すのを確認してから振り下ろした物だった。一度、殴り飛ばした時に相手の体が頑丈なのは分かっていたため、気絶させるのは難しいと判断したのだ。そのため恐怖による無力化を最初から狙っていた。
めり込んでしまった足を引き抜き、軽く数回飛んでから力強く踏み込みをしただけで偽アルマは震えあがり、立っているのがやっとの様だった。
「そんなに震えて……もう戦えんの」
「ま、まだ出来るに決まってんだろ!かかってこいや!」
言葉では強気でいるが、闘志がこもっていない、恐怖一色の瞳を向けられたため、シャリアはゆっくりと前に歩きだす。
偽アルマは後ろに下がろうとするが足が震えて動けず、その場に座り込む。
目の前にシャリアが来たため、攻撃が来ると予想して目を瞑る。だが、一向に攻撃が来ない上に、足音が横を通りすぎたため目を開く。
「もういいじゃろ」
再度頭の理解が追い付かず、それだけ言って歩き去ろうとするシャリアの背中を見つめることしかできなかった。
シャリアの後ろ姿が見えなくなっても偽アルマはその場から動くことは無く、座り込んだままだった。
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