第306話


 後ろから研究員たちの静止する声が聞こえてくるが、それを無視して駆け下りて行くカイ達。階段は明かりが設置されておらず、地下4階から光がさしているとは言え進めば進むほどに暗くなっていく。

 ある程度進み、終わりに近づいてきたと思った所でガコンと音が聞こえたため足を止める。

 暗闇で見づらくなっていたため、フラージュが照らすように光の球を上に放つ。すぐに周りを確認すると、左右両方の壁に穴が開いていた。見ているとそこから何か飛びだしてきたため全員が咄嗟にしゃがむ。飛びだしてきた物は棒で、深々と壁に突き刺さっていた。

 しゃがみ込むのが分かっていたかの様に、両壁の下ほうにも穴が開き槍が飛びだしてくる。今度は端にいたラウラがその槍を叩き落とし、反対の端にいたサーバが剣ではじく。

 先の方を確認すれば壁の穴が大量にあり、同じ様に槍が飛んでくるのを予想するのは容易だった。


「強行突破する!このまま進め!」


 サーバに言われる前からこのまま進む気満々だったため、すでに前に出ていた。前に出ると同時に先程とは違いたくさんの槍が飛んでくる。それを各々がそれぞれの武器を使って叩き落していく。


 誰も傷つくことなく槍を叩き通していたのだが、階段を下り切った所で前から物が飛んでくる。あまりにも眩しい光で照らされて逆光で見づらくなっていたが、物に魔力が纏われていたため、カイはそれを掴み投げ返す。投げた物は人に当たったのか苦しそうな声が聞こえてくる。


「来たわよ~。やりなさ~い」


 アルマの声を少しだけ野太くした声が聞こえたと思ったら、魔法や剣、槍などの武器が飛んでくる。それに対してカイが氷の壁を囲うように作り出す。


「何よこれ~」

「うっせぇよ!てめぇは黙ってろ!」


 敵の声を聞くために上を開けていたのだが、乱暴な言葉遣いが聞こえたと思ったら壁に衝撃が走り、3回目の衝撃音で壁が破壊される。破壊して入って来たのは、先ほどまで会っていたアルマを2~3歳程成長させた姿を彷彿とさせる姿の者だった。

 入って来た偽アルマはとても笑っており、空中でカイのことを攻撃する体勢に入っていたため、カイはそれを待ち受けようとしたが、先に攻撃する者がいた。シャリアだ。彼女は偽アルマの顔をとらえ、入って来た穴に向かって殴り飛ばす。


「いってぇ!!いてぇなぁ!俺を殴ったのは誰だ?!」


 偽アルマが眩しく照らしていた明かりにぶつかったことで、明るさが通常の物になる。そこにはアルマと似ているが、角の色や髪型、髪色、体格など何処かしら一ヵ所以上は変わっていた。


「侵入者ってだけで良いでしょうが!何言ってるのよ!」

「てめぇは黙ってろ!こいつらつえーぞ!楽しみだ!」


 殴り飛ばした偽アルマと野太い声の偽アルマが言い合いをしていた。周りの偽アルマはそれを不安そうに見ていた。

 倒れていた偽アルマは勢いよく立ち上がり、拳と拳をぶつけると、殴り飛ばしたシャリアのことを睨みつける。


「あいつは私のだ!」


 そう言うと、見えるか見えないかギリギリの速度でシャリアに向けて突進して、シャリアのことを遠くに殴り飛ばす。それについて行く様に走り去っていく。


「相変わらず好き勝手やるわね~」


 野太い声の偽アルマがため息をつきながらそう言うと、腰に付けていた鞭取り出す。


「数で押し切りなさ~い」


 その言葉を皮切りにしたのか、ラウラの真後ろにアルマを10歳くらい成長させたと思われる偽アルマが現れる。それはフラージュが透明化して現れる時と同じ様だった。その偽アルマにフラージュが後ろから斬りかかる。まるで現れるのが分かっているかのようだった。


「見られてた?ビックリ」

「相手の目的は私達を分断することみたいですね。いかがなさいますか?」

「乗る必要は無い。このまま固まって……」

「そうはさせてくれないみたい」


 地面がグラグラと揺れ始めると、それぞれが立っている場所を残して地面が割れる。分断されまいと仲間に向かって飛ぼうとしたが、相手の方が上手で、飛んだ瞬間に迎撃されて動けずにいた。気づいた時にはカイ達はそれぞれ別の場所に移動させられてしまっていた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る