第241話


「近々、魔国を取り戻す」と言うとリオはそれ以上話さなかった。それはつまりこれ以上は話すつもりはないのだと思ったカイ達は深く聞かなかった。そもそもここまでの時点で頭がパンクしかけていたため、これ以上は待ってほしいとも思っていたため、カイ達にとっても都合が良かった。


 しばらくの沈黙の後、冷静に整理出来たミカがリオに疑問点を投げかける。


「…2ついいですか?」

「何でしょうか、ミカ様?」

「先程から姫様のことを姫様とし呼んでませんけど、名前って…」

「私は、と言うより、今は亡き前王と妃、あとはご本人である姫様しか知りません」


 何故知らないのか、何故公表されていないのか、疑問しかなかったカイとミカは顔にそれを浮かべる。その顔が面白かったのか、リオは真顔だったのを少しだけ綻ばせて話し出す。


「色々制約がございますが、世の中には名前だけで人を死に至らしめることの出来る魔法道具マジックアイテムもあるのですよ。それ対策で魔国の王家は名前を公表しないのです」


 そんな魔法道具マジックアイテムは知らなかったため、一気に顔色を悪くする。


「安心して大丈夫ですよ。先程制約と言いましたが、そんなに簡単に出来る物では無いのですよ。例えば…そうですね。有名なのですと、対象の生体として認識できる物、髪の毛や皮膚片などを一定以上集めるのと、使用者の命を引き換えに、と言うのが有名ですね」

「その髪とかって…」

「聞いた話しですと、死に至らしめる量は大量ですよ。今の私の髪の毛の5~10倍は必要だと言っていた覚えがあります」


 少しだけ顔色が戻ったカイ達に、リオはさらに話し続ける。その声は安心させようとしているのがひしひしと伝わってくる程優しい物だった。


「それに先程の制約は有名な上に、大まかな物でございます。もっと細かな物もあるのですよ。使用するには一定距離にいないいけない、など。そして、大抵そう言う系統の魔法道具マジックアイテムは巨大なので持ち運びは難しいのです」


 安心して顔色が戻った2人にリオも安心したため、視線がミカだけに集中される。


「ミカ様、もう1つの方とは…?」

「あ!そもそもなんで魔人と人間で争うことになったんですか?そんな経緯があるなら戦うことなんてなかったんじゃ…」


 今まで真顔や、少しだけ口元を綻ばせることがあったリオだが、ミカの発言を聞き目に見えて暗い顔に変わる。


「…当時、主は彼らの容姿から人々が怖がることを恐れ、自分の元で隔離をしたのです。ある程度自由にして。そのことに調査隊長は文句はなかったようですし、納得しておりました。主も彼らを元に戻す、もしくは受け入れてもらえるように何か策はないかと模索していました」


「ですが、全員がその隔離に納得したわけではありません。40人以上いた調査隊員を隔離しきるのは無理があったのです。その上、彼らは精鋭たちです。監視の目をかいくぐって外に何度も出るなど造作でもなかったでしょう」


「彼らも容姿のことを考えローブなどを着て隠したようです。ですが、最初は警戒していた彼らも、何度も何度も行くうちにどんどん警戒しなくなっていきました。魔人となった彼らが人々に見られるのは時間の問題だったのですね」


 ついに我慢しきれなくなったリオは下を向いて話し出す。


「バレた瞬間に騒ぎになりました。そして、主が騒ぎを聞いて駆け付けたときには惨事となっていました。何人かが殺されていたのです。魔人の手によって」


「その出来事を起こした彼らに事情を聞いたところ、「襲われたから撃退した。俺達は悪くねえ!」と言っていたそうです。主はどちらを擁護した方が良いのか、かなり悩んだと言っておりました。そこで出て来たのが調査隊長です。隊長は「勝手に外に出たあいつらが悪い」と言ったそうです。その発言により、魔人達は2つの派閥に分かれました。隊長を長とする『人間と友好的にする』と考えた派閥。そして、その出来事と隊長の言葉により人間は敵だと判断した副隊長の『人間とは敵対する』と考えた派閥に分かれました」


「『人間と友好的に』とした隊長。その人こそ姫様達の祖先です。そして、副隊長達は公国から去りました。人間を魔人に変える魔法道具マジックアイテムを盗んで。その時、彼らはこの屋敷はおろか、街も襲撃してきたため、かなりの被害が出ました。それがより魔人に対しての憎悪を強くしてしました」


「主たちが協力して追いかけましたが、腐っても精鋭。その中でも副隊長に登りつめた男。捕まえることはかないませんでした。そして、彼らは着実に同胞、魔人を増やしていきました。自分達の考え『人間は敵。自分達が世界を支配する』という考えに賛同する者たちを魔人に変えて行ったのです」


「そこまで大きくなった彼らを見つけることは容易でした。主は隊長や残った調査隊員たちと話し合った結果、公国の長と言う立場を使い、他国に協力を求めました。その時、既に他国は魔人の被害を受けており、無視できる状態ではありませんでした。当時の王国も例外ではありません。そして『人間』対『魔人』の争いが本格的に始まったのです」


 ここまで話し続けて喉が渇いたリオは一口紅茶を含み、喉に通していく。壮大で悲惨な話しにカイ達は黙っており、リオの紅茶を飲む音が聞こえてくる。


「苦戦はしましたが、最終的には人間の勝利となりました。副隊長の派閥の魔人を根絶やしにしました」


「もうお分かりだと思いますが、争いにより魔人と人間が友好的にするのは不可能となりました。そこで、争いに使った土地を魔人たちの住処として、主が公国と接する様に巨大な結界を張ったのです。それから隊長達が発展させた国が魔国となったのです」


 姫には結界は神が作ったと聞いていたカイ達はどういうことなのか少しだけ混乱仕掛けた。だが、今のリオの顔を見ればそれが嘘ではないと察する。


「これが魔国の成り立ちでございます。このことは主と私しか知りませんので、他言しないようお願いします」

「姫様には教えないんですか」

「はい。お伝えしておりません。知っている人が多ければ多いほど関係を修復するのは不可能だと考えておりますので。現在、人間からは魔人という種族のことが忘れられ始めています。そのため、主の悲願である『人間と魔人が友好的な関係を築く』と言う目的を達成できるかもしれませんから」

「私達はなんで…」


「皆さまには知っておいていただいた方が良いと私が判断いたしました。今回、主が皆さまを呼んだ理由。それは魔国を取り戻す戦いに協力していただきたいからなのです」


 オムニがカイ達を呼んだん理由、その一片を知ったカイ達は、この争いに参戦すべきか考える必要が出来てしまった。

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