第352話
カイがハルマの腕を切り飛ばす少し前、オムニがいる魔人領と人間領の堺では動きがあった。
「陛下、結界は……」
「大丈夫。こっちには来ないよ~。ただ何が起きてるかわからないからな~」
目の前にたまっていく黒い水がこちら側には来ないということには安心した軍の者達だったが、何が起きるかはわからないというオムニの言葉に警戒の色を見せる。
どうするかを話すために後ろに立てている本部に連れて行こうとするが、オムニが一行に動かないことに疑問に思うが、次の行動に混乱し始める。
結界に片手を伸ばし触れると、腕は抵抗を見せずに黒い水の中に入っていく。
「陛下!!」
「……大丈夫だよ」
叫ぶ部下の声を聴きながら入っている腕に意識を集中させると意識はどこか遠くに移っていった。
オムニが目を開けるとそこは水の色と同じ黒い空間であった。明かりがないのに自分の体や服はしっかりと見えていることに違和感を感じながらも、オムニは音をゆっくりと存在感を薄くしながら歩いていく。そのあいだ魔力が吸われる感覚に不快感を覚え顔をしかめる。
先の方から戦闘しているような音が聞こえ始めたため、オムニはより存在感を消して警戒して進む。うっすらと見えてくると止まり、遠目でそれを確認する。
見覚えのある蒼く光る炎を見てオムニの表情が明るくなる。
「そっか~。よし」
気合を入れるかのように声を発するとこの空間から抜けることを意識しながら目を閉じる。次に目を開ければそこは結界の目の前で抜けられたことを理解する。
意識戻るとハルマは手を抜くのではなく、魔力を結界に流しいじり始める。
「今から人が飛んでくるから受け止めてね~」
兵士達の困ったように騒ぎ出し、陛下!と叫んだ兵士がどういうことかと話しかけるが、オムニは集中しているため無視し続ける。
「陛下!!」
「……来るよ!」
その声と同時に結界を通り越し人が飛んでくる。それを兵士達が受け止めると、その人は角と翼があり魔人だということがわかる。その魔人は意識を失っており、ぐったりしていた。
「ほら、来た人運んで」
「……!?救護テントに運べ!」
慌ただしく兵士達が動き始めると、どんどん結界から魔人達が飛んでくる。その間もオムニは結界に手を入れていた。
魔人達が数住人飛んできたころ、激しい衝撃音が響き渡る。その音がした方は結界のある方で皆が結界を見つめる。すると衝撃音に共鳴して結界の表面が大きく揺れていた。
「しつこいね~。老害は若者に嫌われちゃうよ?」
そう呟くオムニは残っていた手も結界の中に入れて大きく息を吸うと目を大きく開き大声を発し始める。
「もっと早くなるよ~!気合入れろお前ら!」
「はっ!!」
「……それから邪魔が入るから。うまく撃ち落としてよ!」
オムニの言った通り、結界から魔人達が出てくるのが早くなりどんどん救護テントに運ばれていく。その飛んできた魔人達を逃さないと言わんばかりにすぐ後に結界から黒い水が触手状になり追いかけるため兵士達はそれを魔法で撃ち落とす。すぐに再生するが、魔人達が出てきた場所が穴のようになっているのか、すぐに塞がれ千切られたかのように地面に水が落ちる。それが水溜まりを作るが、兵士達はそれを無視して魔人達の救護作業を続ける。
触手状になった黒い水の抵抗がだんだんと激しくなっていたが、兵士達は対処できており、だんだんと人が飛んでくる頻度が落ち始める。
先程までの忙しさが嘘かのように出てくる人の頻度が落ち、兵士達に余裕が生まれたころアルマ、Rが結界から飛び出し、リオ・シャリア・フラージュ・ラウラも飛び出してきた。先ほどまで魔人達が飛んできていたのに人が飛んできたことで兵士の中には驚いた者達もいたが、迅速に対処していく。そしてミカが出ると同時に今までよりも強い衝撃音が響き、先ほどまでと違って何度も何度も音が聞こえてくる。
「始まりの王!!」
とても低く掠れていて、苦しそうな恨みを込めた大声だった。それにオムニは答えずに結界内の黒い水に手を入れたままだった。
「よくも……!よくも!」
「……はい。これで良しっと!」
オムニが手を抜くと先ほどまでの騒がしさが嘘かのように衝撃音と声が聞こえなくなる。
「飛んできた人たちは魔力を酷く消費してるからしばらくは目が覚めないでしょ?今のうちにコンタムに運んどこうか~」
「はっ!!」
「あ、最後の方リオと一緒に飛んできた人達いたでしょ?その人達は僕の屋敷の運んで。それとその人とあとは……その二人も僕の屋敷に」
リオ達と共に運ぶように言われたのは姫とR、そしてアルマのことだった。
その後、他の指示も出し終わったアルマは両手を高く上げ伸びをすると、未だに黒い水が溜まっている魔人領の方を見つめる。
「あとは君次第だカイ。君が負ければ僕達の負け。君が勝てば勝ち。頼んだよ。……あぁ~。眠いなぁ~」
そう呟いたのを聞いた兵士がオムニのことを見て、瞬きをするとすでにその場にオムニはいなくなっていた。
先程までは攻撃を与えても霧散しているだけだったが、腕を切り飛ばしてからは攻撃が通るようなっており、カイが蹴ると離れた場所まで飛んで行った。
(仰ってた通りですね。攻撃が入るようになりました)
(そりゃね~。僕が頑張ったんだから当然だよ)
カイは頭の中でオムニと話していた。
オムニから突然声が届いた時は驚いたが、顔には出さずに頭に話しかけてくるオムニの話を聞きながら戦闘していた。その話とは魔人領にある全ての魔力を吸っていることだった。それを聞いた時は動揺したが、ハルマにバレないように攻撃をし続けていた。
(これでオムニは無駄に魔力を使って自分の体を増やしただけになったからね。君がいる空間を維持するので精一杯でしょ)
(それなんですけど、僕も追い出して水の中で戦い始めるとかは)
(それはないね)
断言するオムニにカイは疑問でいっぱいだった。
(自分に「有利な空間」だから生み出したってわけじゃないんだよ。自分の属性以外の魔力はその空間で戦って勝つことで自分……魔力とできるんだ……。あい……が自分の体……
言い切るとオムニの声にノイズが入り始めだんだんと聞きづらくなってきたためカイが返事を求めるが、どんどんノイズで聞こえ辛くなり遂には聞こえなくなる。
攻撃を仕掛けようとした瞬間に今度は頭にではなく、空間全てにオムニの声が響き渡り始める。
「吸えなくなったとは言えまだまだ大量の魔力を持ってるはずだから気を付けてね~」
その言葉を最後にオムニの声は聞こえなくなった。オムニは先ほどよりも険しく恨みを込めた表情を浮かべてカイのことを睨みつける。
「さっさと魔力をよこせぇええ!!!」
理性を失い怒りだけで突っ込んできたはハルマを打ち倒すべく、カイは剣を引き抜き駆け出す。
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