第351話
近づくまでに妨害され、殴りつけると霧散する。そうなると魔力をより使うことになるため、顔が霧散した瞬間に顔があった場所を中心に、自分が入っても十分に自由に動ける大きさの氷の球体を作り出す。
紅い氷で作られた球体の内部は熱く、通常の人はすぐに倒れるほど高温になっていた。その状態でもカイ自身が放った魔法だったため影響を受けていなかった。
この氷の球体の中に現れれば少しはダメージを与えられるのはないかと思い生み出したが、ハルマは一向に現れなかった。
「そんな物を作って我を閉じ込めようと?馬鹿馬鹿しい」
球体は外から黒い水によって破壊される。黒い水は手を模した形になっており、大きな手がはたいたために破壊されたようになっていた。その手にあえてカイは近づき凍り付かせてから上に膝をつく形で乗る。
乗った後で腕から零れるように少しだけ蒼い炎が出る。その炎は次の瞬間に一挙に広がり始める。半壊している球体はもちろんのこと、足場にしている手の氷像をも飲み込み、黒い空間に徐々に広がっていく。
「炎が冷たいとは、不思議で仕方がない」
先程まで何もなかった空間から生えるようにして現れたハルマは手についた炎を見つめながら話かけてくる。
ハルマが現れるのを待っていたとでもいうようにカイは一目散に駆け出す。
触れた物がすぐに氷つく温度の炎で腕に纏わりついているため、炎がついていない腕は健康体その物の色をしているが、もう片方の腕は異常に白色になっていた。
腕を見つめ続けているハルマは接近しているカイに視線を送るが、それだけで行動は何一つ起こそうとせず、カイが手元に作り出した剣がハルマの首に伸びる。それを身を反らすだけで避けたハルマは蹴る動作を起こす。その蹴りは完全にカイの届いていなかったがカイは蹴られた衝撃を受け後ろに飛ぶ。地面を滑りながらもハルマを視線から外さなかった。
「我が持っていなければならぬ物だ!」
炎が纏わり付いていた腕の上腕部をつかむと握りつぶし、引っ張り腕を引き抜く。体から離れた腕は白色から黒色となっていきついには黒い水となって地面に零れていく。すべてが液体となり零れきるとなくなった腕のからの部分から水が徐々に出始め、腕を形成し肌色になって、元の腕となる。
「……現実世界でもこの空間でも我を傷つけるなど不可能。諦めて我に魔力を渡せ。さすれば仲間を苦しめることもない」
ハルマが視線を送った先には意識を失ったミカ達がおり、苦しそうな顔をしていた。その様子を数秒間見つめていたカイは、悔しさ苦しみ焦りなど、様々な感情が複雑に渦巻いている様な表情を浮かべてから視線と剣を下に向け脱力する。
「もう諦めろ。こっちに来ぬか」
わざわざ新しくなった腕をカイに伸ばし手を取れと言わんばかりに手のひらを広げるハルマ。それに対してカイは炎の剣を握りながらもゆっくりと近づき剣を持っていない手をハルマにゆっくりと伸ばし始める。
「そうだ。そのまま我の手をつかめ……!」
次の瞬間ハルマの伸ばしていた手が吹っ飛ぶ。次に音が響くとそこには剣を突き立てたカイがまっすぐハルマを見ていた。
「そんなに焦っちゃって、顔が歪んでるよ」
カイの言った通りハルマの表情は痛みなのか歪んでおり、先ほど腕を再生させた時とは違い無くなった腕の根本を残った手で強く握っていた。
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