第171話


 企みが上手く行ったことに嬉しそうな顔になっているシャリアがスキップをしながら演習場まで案内している。カイも戦いたくてたまらないと言ったオーラがにじみ出ていた。

 そんな2人の後ろで5人は小声で話し合っている。


「お母さんはこうなること知ってたの?」

「全く知らなかったよ。まぁでも薄々戦いたいって言いだすんじゃないかって思ってた」

「ったく、昔からあの人は変わらねぇよな」

「それよりもさっきからカイがものすごいんだけど…」

「うん、私もあそこまでやる気を出したカイは初めて見る。たぶん前にラウラさんに近接戦で負けたのが原因かも」


 ミカが長期休みの時に何があったのか話していると、演習場についた。


「5人は観戦席に行くのじゃ。私とカイは準備が終わったらすぐにでも始めるとするの」


 すると、カイはシャリアについて行っていなくなってしまった。残った5人が観戦席に行こうとすると、そこにラウラが現れた。


「こっち」

「ラウさん!ラウラさんも様子を見に来たんですか?」

「カイの魔力の様子を。それと今回の戦いはミカのためになる」

「確か、シャリアさんは近接戦が得意なんですよね?」

「ん。2人とも近接戦が得意から見てて面白いと思う」




 演習場は舞台があるわけでは無く、一面が整地された地面になっていた。

 そして演習場の大きさは王都の総合第一学園の比では無かった。そんな大きな演習場を覆うようにして壁があり、その上に観戦席があるため、観客席も広くなっていた。


「驚いたじゃろ」


 2人は演習場の真ん中に居り、少し離れた場所で軽くアップをしているシャリアがカイに話しかける。カイ大きさに驚きながらもアップしていた。


「えぇ、こんなに大きな物が学園の中にあることに驚きました」

「そんなカイに吉報じゃ。感知してみ」

「気づいてますよ。ここを覆うようにして結界が張ってありますよね?」

「やはり期待を裏切らんの。その通り、外に撃っても結界が守るから大丈夫じゃ。それとここをいくら壊しても後で簡単に直せるようになってるからの。全力で来るのじゃ」


 そう言うとアップが終わったシャリアは袋から黒色のガントレットとグリーヴを取り出し装着する。そのガントレットは手の甲の部分には何か石が埋め込まれていた。グリーヴはガントレットと違い石ははめ込まれていなかった。両方とも黒色で所々銀色の装飾がされていた。

 カイもシャリアのガントレットと同じ様に赤い氷を手に纏わせ手を作る。

 お互いに口角を上げ、睨みあいながら構える。


「カイも魔法道具マジックアイテムを使うようだったら出して良いぞ?」

「あいにく俺は戦いで使うような魔法道具マジックアイテムは持ってないですから」

「そうか。でももう行くぞ?」


 宣言通り、シャリアは一直線にカイに向かて走り出す。

 ラウラからどこまで話しが言っているか分からないカイは、けん制目的で両手を前に出して手を伸ばす。その時氷の硬度は最大にしておいた。

 シャリアと氷の手がぶつかりそうになったところで、シャリアが振りかぶる。殴ってくることが分かったカイは開いている手を握らせ拳を作って対応する。

 シャリアの拳とカイが氷の腕の拳がぶつかる。カイが伸ばしているとは言え、カイが全力で殴っている時と変わらない威力でカイは応戦した。だが、ぶつかった瞬間氷の手は砕け散った。


「柔いの!もっと硬くせんと止めれんぞ」

「…マジですか」


 かなりの力で砕かれたため、その余波がカイの腕の所まで亀裂が届きそうだったため、カイは砕かれた方だけ纏うのを止めて手を抜く。カイの手から離れた氷は地面に落ちようとしていたが、それより先に空中で砕け散った。

 その間にシャリアは残っている氷の手も砕こうとしていたため、カイは今度はぶつけるのではなく、受け止めようと手を開き、手のひらで受け止めようとした。だが、それも簡単に破られ、先程の片腕と同じ様に簡単に砕かれてしまった。


「脆いと言うとるぞ。諦めるのじゃ」

「分かりましたよ」


 カイは纏う物を青い炎に変えて、自分からも接近する。

 カイがシャリアの拳目掛けて殴ると、シャリアはそれを簡単に避ける。カイの狙いはガントレットに火を移らせることだったが、一向に当てられない。

 殴りだけでなく蹴りも入れて攻撃をするが、カイの攻撃は当たらなかった。途中何度かシャリアが攻撃しようする動作に移ろうとしたが、カイがその方向に手を構えると、シャリアは構えを止めて避けるのに専念する。

 観客席からは、カイの猛攻に押されてシャリアが何とか避けながら後ろに下がっているように見える。そのため、シャリアの背中には壁が迫っている。


 カイは大きく振りかぶってシャリアのガントレットでは無く、胴体を狙って殴りかかる。だが、それもシャリアには避けられてしまう。勢いよく殴りかかったため、体は前に倒れてしまい、背中がガラ空きになる。シャリアはそのチャンスに両手を合わせてカイの背中を殴り下ろそうとする。

 だが、これはカイの狙いでカイは殴った勢いを使い回し蹴りを入れようとする。

 シャリアはそれにものすごい速さで反応し、蹴りで受け止める。


 攻撃したカイは後ろに跳ぶと、着地と同時に膝を地面につけてしまう。

 するとシャリアは素早くカイに近づきカイのことを蹴り飛ばす。

 シャリアの真後ろには壁が近づいていたというのに、カイは逆側の壁まで飛ばされ、壁に埋もれる。


「今のは痛かったじゃろ。たぶん足折れておるぞ。まだやるのかの?」


 シャリアの方はピンピンしており、その場で軽く跳んで見せる。

 すると、カイは手に氷を纏った状態で壁の中から這い出てくる。歩き方が回し蹴りを入れた右足をかばっていたため骨にヒビが入っているか、折れていた。


「何言ってるんですか。やるに決まってますよ」


 這い出たカイは袋から瓶を取り出し一気に飲む。飲み終わると雑に瓶を捨てる。

 確認のためカイはシャリアと同じ様にその場で軽く跳んで見せる。


「回復薬は予想外じゃったのー。まだまだ楽しませてくれるかの?」

「まだやりますよ」


 今度は逆にカイから攻撃を仕掛ける。

 カイは青い炎を自分の後ろに3個同時に生み出し、それを何度も飛ばしながらシャリアに近づく。

 シャリアは跳んでくる炎をガントレットとグリーヴので撃ち落とす。すると、ガントレットについている宝石が紫色に輝いて行く。


「やはり上手く行ったの。これなら怖がらなくて良かったの!」


 シャリアはそう言うと、足だけで炎を撃ち落としながらでカイに手を開いて向けて来た。カイは嫌な予感がしたため走るのを止めて、目の前に大きな壁を氷で作る。


「それで止められるかのー?」


 その瞬間、シャリアの目の前に大きな青い炎の塊が出来る。シャリアがそれを殴ると勢いよく壁に飛んで行く。


「壁は守るためじゃなく隠れるためか」


 青い炎と赤い氷がぶつかる中、カイは横から抜けシャリアに向けて走り出しており、次は何も飛ばしていなかった。


 カイは今度は片手に赤い氷を纏い、もう片手に青い炎を纏っていた。


 カイが再度攻撃をし出すが、今度はガントレットで守られる。そしてガントレットについている石がドンドン紫に色づいて行く。それでもカイは攻撃を止めない。時々入れる足技はグリーヴで防いでいる。


 しばらく殴り合いをしていると、シャリアは蹴りでカイの腕を上に蹴り上げる。


「ここまで殴り合いをしたのは初めてかもしれんの。だがそろそろ終わりにするぞ!」


 シャリアは至近距離にいるカイに向かって手を向ける。カイと手のひらの距離は数cmだけだった。もう避けることが不可能な距離だった。腕を上に蹴り上げられたせいでカイは防御できないため、シャリアに蹴りで攻撃する体勢に入る。

 攻撃を防げたと思ったシャリアは反応に遅れてカイの攻撃を防ぐことが出来なかった。

 先にシャリアのガントレットから出た炎と氷がカイを襲うが、カイは何とかシャリアのことを蹴り飛ばす。


 蹴り飛ばされたシャリアはカイの時と同じ様に壁に埋もれる。

 魔法は主に上半身に当たったため、カイは服の両腕の部分が吹き飛んでおり腕の所々に火傷と霜が降りていた。


「いっつ…」

「捨て身で攻撃する者はおったが、殴ることが出来た奴は初めてじゃ。そもそもモロに殴られたのも久々じゃのー」


 壁に埋もれていたシャリアは無傷で出て来た。


「じゃがその腕じゃもう戦えんの」

「ま、まだ…」


 カイは急いで後ろに下がって、震える手で袋から回復薬を取り出す。だがシャリアは飲むのをを防ぐために攻撃する。カイは避けながら蹴りで何とかけん制するが、抵抗むなしく手に持っていた瓶を割られてしまう。回復薬は地面に零れてしまう。

 カイが蹴りを入れようとすると、それは受け止められてしまい逆に蹴り飛ばされてしまう。

 壁まで飛んで行ったカイは壁にめり込んだ状態で気絶してしまった。

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