第170話


 カイとミカの歓迎会とフラージュのおかえり会をやった数日後、カイとミカはルナに案内される形で街中を歩いていた。もちろん3人の後ろにはアルドレッドとセレスが居り、ルナの護衛をしっかりしていた。


 どこに向かっているかと言うと、以前ルナが2人に提案した学園に向かっていた。2人とも何気に楽しみにしており、楽しみからソワソワしだしていた。それを見た3人はクスッと笑い合う。


「何ですか?急に笑ったりして」

「2人ともソワソワしてるから面白かったのよ」

「え、私もソワソワしてましたか!?カイだけだと思ってました」

「いや、滅茶苦茶ソワソワしてたじゃん」

「冗談だって。自覚してたよ」

「やっぱり2人と一緒にいると楽しい。我慢できないや!早く学園に行こう!」

「あ、ちょっ、ルナ走るな!」


 カイとミカの腕を掴んがルナが走り出した。引っ張られた2人は体勢を崩しそうになりながらも、学園に通うのが楽しみになっていたため並走し始める。そんな3人を見て、アルドレッドとセレスも温かい気持ちになりながら、3人だけにさせるわけにはいかないため笑みを浮かべながら追いかける。




 ウィリティ学園。

 帝都にはこの学園しかない。全ての学生がこの学園に通うことになっているため規模はかなり大きな物になっている。敷地はほぼ城壁を含む城とほぼ同じ大きさで、その中には演習場はもちろんのこと数多くの研究所、魔法道具マジックアイテムの解析室。解析した魔法道具マジックアイテムを実際に使って確かめる実演室など、あまたの施設がある。

 中には国から依頼されて調べることもあるため警備は城に負けない物になっていた。周りはもちろんのこと中でも警備員が巡回していた。


 今日は休日と言うこともありほとんどの学生が来ておらず、学内は閑散としていた。静かな学内を5人でどんどん進んでいく。

 時々警備員とすれ違うが、その時警備員はこちらにお辞儀をしてくるため、ルナ以外はしっかり返していた。ルナは軽く片手を上げて挨拶を返していた。


「こうやって見るとルナって本当にお姫様なんだね」

「そんなしみじみ言わないでよー。恥ずかしいじゃん」


 恥ずかしかったのを隠すためにルナがミカの腕を取って組み始める。そんな様子を温かい目で見ているとひと際大きな扉の前についていた。

 つくとルナは何も言わずに扉をノックする。すると中から聞き覚えのある声で「入ってー」と気の抜けるような感じで言ってきたため、ルナを先頭にして入っていく。


「やっぱり来たのー。好きに座ってくれー」


 学園長であるシャリアは机に突っ伏して前に手を出していた。効果音にはグデーと言う物が聞こえてきそうだった。


 カイとミカ、ルナはミカを真ん中にしてソファーに座り、アルドレッドとセレスはルナの後ろに立つ。

 するとシャリアは体を起こし、伸びをしてから3人が座った方向と逆のソファーに座る。


「ルナ様が2人をつれて来た理由は予想がついておるぞ。それより、ミカはフラージュをつれてこなくって良かったのかの?」

「何かお母さんは用事があるみたいで来れなかったんです」

「…ミカ、後ろにいるよ」


 カイがミカの後ろを指さしながら言う。ミカはカイの方向を見て何言ってるんだと言いたげだったが、次の瞬間誰かに抱き着かれる感覚がする。ミカが可愛い悲鳴を上げる中、カイはシャリアの方を見る。


「驚いた?どうだった?」

「ちょっとお母さん!」


 フラージュの声がすると、フラージュが突然現れる。いつもの白いローブでは無く今回は私服だった。突然現れたことに隣にいたアルドレッドとセレスが一番驚き、ルナも少なからず驚く。抱き着かれたミカは怒りだす。

 ミカの反応に満足したのかフラージュは謝りながら抱き着くのを止めシャリアの後ろに立つ。


「驚いたじゃろ。まぁフラージュを呼んだのは意味があるのじゃ。今回フラージュは学園で働くことになっての。それを言おうと思っての」


 5人全員が驚いていたが、一番驚いていたミカがフラージュのことを見るとフラージュはニコニコしながら頷いた。


「このことは一旦置いておくとして、入学の件じゃがミカは入っても大丈夫じゃ」

「…私だけですか?」

「ミカはフラージュって言うしっかりとした保護者が居るから大丈夫なのじゃ。だがカイは居らんじゃろ?そうなると簡単には入れられんのじゃ」


 シャリアは聞こえるか聞こえないかくらいの大きさで「残念だ。残念だ」と繰り返しているが、その言葉には感情がこもっていなかったためすぐに嘘だと分かった。そもそもカイの保護者はラウラになることが決定しており、シャリアはそのことを知っているはずだった。


「…私の権限を使ってもダメですか?」

「ルナ様の権限があっても難しいのー。1つだけ方法があるがのー…」

「な、なんですか?」


 その言葉を待っていたと言わんばかりにシャリアの片方の口端が上がる。

 シャリアの思惑に気づいたアルドレッドがミカのことを止めようとしたが、今少し間に合わなかった。一方カイはシャリアが言う次の言葉を楽しみにしていた。


「それはの…学園に通っても大丈夫だと私に証明すればいい!すなわち、私と1対1で戦うのじゃ!」


 口端を上げて笑うシャリアにカイも同じ様な顔をして返答する。カイもシャリアも戦うことを楽しみにしていた。カイに関しては、自分の力が今どのようになっているか強者相手に確認できることに心が舞い上がっていた。


 シャリアの言葉を聞いて、シャリアの性格をよく知っているアルドレッドは頭を抱え、セレスとフラージュは苦笑いする。状況が理解できたミカとルナは顔を見合わせる。


「嵌められた?」


 2人の声が重なるのをアルドレッド達は聞いていたが、カイとシャリアには戦いが楽しみすぎて聞こえていなかった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る