第169話


「こんなことがあったんだよ。…ここからは長いから簡単に言うけど、話しに出て来た聖国の人はラクダレスで、アルンがミカのお父さん」

「そうなんだ。それよりもシャリアさんはアルンさんのこと知ってたんですよね。なんで言ってくれなかったんですか!」


 机を叩きながら身を乗り出すリングに対して、シャリアは吹けない口笛をして逃げようとする。

 騒ぐリングを皆が落ち着かせようとしている中でカイは小声でミカに話しかける。


「ミカは知ってたの?自分のお父さんのこと」

「うん。前にお母さんに教えてもらった。正直今での良く分からない感じがするけどね」


 そう言い笑うミカの顔には困惑が含まれていた。


「私が帝国の任務で潜入してるって知ったらアルンも手伝ってくれてね。私とアルン、それからラクダレスの3人でよく一緒に行動してたんだ…」


 懐かしむように言うフラージュに全員が黙って次の言葉を待つ。


「それからミカが生まれて、私はミカの面倒を見ることに専念しててね。調査はラクダレスとアルンに任せてたんだ。そしたらある日アルンがヘマしちゃってね。アルゲーノス家に私達と一緒にバレちゃったんだ」


 完璧に油断していた。アルンは調査が終わり周りへの警戒を怠ってしまったのだ。そのせいでつけられていることに気づかなかった。そして包囲されてフラージュ達と一緒に捕まってしまったのだ。


 アルンのこともあり3人一緒に処刑されるかとフラージュは思ったが、アルンが自分の身元を隠して近づいたと嘘をつき、フラージュ達はどうにかなった。

 だが、アルンだけは処刑されることになってしまった。


「アルンがその場で殺されそうになったけどラクダレスが助けてくれてね。アルンは逃げ出すことが出来たんだ。たぶん私達が生かされたのはアルンをおびき出すための餌にするつもりだったんだと思う」


 フラージュは長く話していて喉が渇いたのか紅茶を飲む。

 飲み終わると今度は視線を下にして顔が見えないようにしてから話し始めた。


「私達はアルゲーノス家の監視下で生活する様になってね。外界と当分連絡が取れなくなった。ここからはラクダレスに聞いた話しね。2人はアルゲーノスの家をつぶすために徹底的に調べたんだよ。私達を救うために。そこでようやく私達が欲しかった情報を手に入れた。帝国から情報を買ってたのはアルゲーノス家だったんだよ。それを知った2人はアルゲーノスの本宅に潜入したんだけど、前に私が潜入したことで警備が厳重になってて、情報を得る前に存在がバレちゃったんだよ。…そこでアルンは死んだ。自分の家族を道連れにしてね」


 部屋の空気が重くなり誰も何も言えない中フラージュは淡々と話し続ける。


「ただ兄は生き残っちゃったけどね。自爆したせいで遺体が出てこなかった。私がいつもしてる仮面で顔を隠してたから誰が殺して来たかもあいつらは分かってない」


 フラージュが顔を上げると目は目元が真っ赤になっており、頬には涙の後があった。


「ミカを守り育てながら監視の目が薄れるまで待ってたら17年もかかっちゃったってこと。私から言えることはこれぐらいだよ」


 フラージュの声は普通だったが、顔は辛いと言っていた。

 カイはどういう顔をしたらいいのか、心の中の感情がグチャグチャでいると隣から椅子が惹かれる音がする。そちらを見るとミカが立ちあがりフラージュの方に歩き出していた。カイからは顔は見えず、何をするのか分からないでいると、近づいたミカはフラージュに抱き着いた。フラージュもミカのことを抱き返す。


 ここは親子2人だけにした方が良いと思い、皆が何も言わずに部屋から静かに出て行く。




 リングに案内されフラージュとミカを除いた全員は先程と似たような部屋でそれぞれ椅子につく。くつろごうとしているが全員が暗い表情をしていた。


「皆何をそんなに暗い顔をしておる」

「さっきの話しを聞いたらこうなるのが普通。リアは少し黙ってて」

「そうじゃが、こんな顔でフラージュと会ったらフラージュが罪悪感を持ってしまうじゃろ」

「それでも」

「…分かったわ」


 少し不機嫌になりながらシャリアはラウラから顔を背ける。

 だが全員シャリアとラウラのやり取りに耳を傾けられる状態じゃなかった。



「あぁ!こんなんじゃダメっす!」

 突然ミーチェは大声を上げて、勢いよく立ち上がる。皆の視線がミーチェに集中する。


「私達が聞きたくて聞いたことなのに悲しんでたりしてたら先輩もどうしたらいいか分からなくなるっすよ。ここはいつも通りに行くっすよ」

「ミーチェさんの言う通りですね。ここで暗くしててもフラージュさんに迷惑をかけるだけです。無理にとは言いません。普段通りに接する様にしましょう」

「…なら、カイとミカが帝国に来たことと、フラージュさんの帰国祝いをしようよ!」

「良いですね。今から準備しましょうっす」

「ちょ、ちょっとどこでやるの!?まさか…」

「ここしかないでしょう。諦めてくださいリングさん」


 全員がそれぞれ行動し始める中で、カイは椅子に座っていた。手伝おうとしたのだが、ルナに主役を働かせてはいけないと言われ、ゆっくりしておくことになったのだ。

 座っているカイの横にラウラが紅茶の入ったカップを2つ持って座った。


「整理出来た?」

「うん。ミカ達の問題だから俺からは口は挟まないことにした」

「納得いってなさそう」

「まぁね。でも俺が口を出すことでもないでしょ?」

「確かに」


 それ以上2人が話すことはなく、カイはやることが無かったため並べられていく料理を見ていた。

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