第72話
カイは5階層に着き、大扉の前で腰をおろして休憩していた。
体を休ませていたが、他の生徒達がどこまで来ているか気になったカイは魔力感知を使った。
いくら魔力感知が優れているカイでも4階層までしか感知できなかった。
(誰もいない?)
冒険者体験の授業でモンスターの特徴などを教えているが、Fクラスにはカイ以外に受けている者はおらず、他の授業を受けている生徒は基本モンスターのことなど調べない。
そのため、生徒達は教師が予想していたよりもビックアントに苦戦していた。そのため他の階層に配置される予定だった教師も応援で1階層に残っていた。
(何かあった?それなりの数の教師がいたからそんなことは無いはず...。ビックアントに苦戦してるのかな?いや、それこそないか。戻った方が良いかな?いや、怪しい魔力反応は無かったし問題はないはず。じゃあ...)
そんな事情を知らないカイは色々考えたが分からなかったため、カイは立ち上がってボス部屋の扉に手をかけた。
(あんなに教師がいるなら問題ないはず、まだ3階層なだけだよ。うん)
そう思いながら開けて中に入る。
入るとその部屋は前回のボス部屋よりも少し小さくなっていたが、明らかに違うところがあった。
高さだ。
前よりも天井が高くなっており、まさに何かが飛ぶためにある部屋だった。
(情報通り。今回はイレギュラーじゃない)
バサッバサッと上から音がするため見てみると、そこには大きな蝶がいた。
(『パラリシスバタフライ』空を飛び続けるため、魔法で攻撃すること。また火が弱点だが、常に強風で身を守っているため、他の魔法で弱らせてから火の魔法で攻撃すること)
このモンスターに関しては冒険者体験ではまだ教えられていないが、ときどきセレスと一緒にモンスターを調べているカイは知っていた。
パラリシスバタフライが羽をひと際大きく羽ばたくと、カイに向かって風の塊が飛んできた。カイはそれを避ける。
(攻撃方法は風の魔法と体当たりのみ)
何発も撃つが当たらないと分かったパラリシスバタフライは、今度は接近してきた。
(最後に、接近してきたら気を付けること。攻撃した時、またはされたときに舞った鱗粉を吸うと麻痺して動けなくなる。ここまで本で書いてあった通り)
カイが本の内容を復習している中、パラリシスバタフライはカイに体当たりしようと真っすぐ飛んでくる。
それを避けたカイが手に炎を纏わせるとパラリシスバタフライは空高く飛んでいく。
「炎を見たときは急いで逃げるんだ」
高いところに逃げたパラリシスバタフライは風の魔法を使い攻撃してくる。
カイは本に書いてあることが確認できたため、今度は避けながら炎の手を伸ばして捕まえようとするが、後少しで捕まえられると言うところで炎の手が消えた。
(結構強い風が吹いてる。でも、常に発動させてるわけじゃなくて近くに来た時だけ)
パラリシスバタフライが風で消したのだ。
攻撃手段がなくなったと思ったのか、パラリシスバタフライが連続で風の魔法を使い攻撃してくる。
真っすぐカイに向かって飛ばすため、カイは簡単に氷で防げた。
防がれたパラリシスバタフライは今度は突進しようと下りてくる。
だが、カイが氷を飛ばして下りさせない様にする。
降りられないパラリシスバタフライは風で応戦するが、それをカイは全て避けるか氷で防ぐ。
(やっぱり氷は魔法で防がずに全部避ける。なら!!)
実はカイは本から『炎以外は避けるのではないか』と思い、確認するために氷を飛ばしていた。
案の定パラリシスバタフライは魔法で防ぐのではなく、全て避けた。風で防ぐことも出来たはずだが、そうしなかった。
それが分かったカイは氷を手に纏わせた。
氷を纏わせたが、このダンジョンに入ってからすぐの時に纏わせた氷と色が違い赤い氷だった。
(これなら燃やせる!!)
カイは氷を飛ばすのを止め、氷の手を伸ばし始めた。
氷を撃つのを止めた所を狙ってパラリシスバタフライは風で攻撃するが、この手も炎の手と同様に自由に動くため伸びした氷が不自然に曲がりそれを防ぐ。
パラリシスバタフライは狙いをカイから変えて伸びて来た手を攻撃するが、氷は壊せない。
壊れずに氷が接近してきたため、パラリシスバタフライはそれを避ける。
もしもこれが普通の氷だったら避けただけで終わりだが、これはカイが自由に動かせる。
当たる寸前で避けたため、それ以上は攻撃が来ないだろうと思ったパラリシスバタフライはカイに攻撃しようとしたが出来なかった。
背中側から氷の手でしっかりと握られたのだ。
そして、この氷は普通の氷じゃない。カイの氷炎の特性を生かした赤い氷だ。
捕まった瞬間にパラリシスバタフライと氷が触れたところから煙が上がる。もしも声帯があれば絶対に叫び声をあげていただろう。
パラリシスバタフライは羽をバタバタさせるが、赤い氷の手は決して逃がすことは無く、がっしりと掴んでいる。
そして、どんどんと赤い氷で体を覆っていき、完全に氷で覆うことが出来た。
氷の中に閉じ込めた瞬間にボス部屋の扉が音をたてて開き始めた。
(完璧に倒すことが出来たってことだよね)
カイは一度パラリシスバタフライを覆っている氷を解く。
氷を無くしてもパラリシスバタフライは動くことは無かった。
このまま袋に保存しても良いが、それはそれで嫌だと思ったカイは、今度は普通の氷の中に閉じ込めて袋に保存した。
カイには6階層に行きたい気持ちがあったが、入る前に4階層に誰も来ていなかったことが気になったため、急いで戻った。
カイがボス攻略をしたとき、他の生徒と教師はまだ1階層にいた...。
カイは魔力感知を使いモンスターが少ない所を選び戻っていた。
(やっぱり4階には誰もいない。急いで戻ろう)
同じ様に3階層に戻り、カイは焦っていた。
(問題があった?!あいつらが来たの!?2階層にもいない!?)
飛び出してくるワームを完全に無視して、急いで戻る。
そして、3階層と2階層の間の階段でカイは座り込んだ。
(いた...。まだ1階層にいたの...?嘘でしょ?)
カイにとってボス戦よりもこれの方が疲れていた。
その後、誰にも見つからない様にダンジョンを出たカイは前回の探索で引率してくれた教師と話していた。
「調査してるとしか返ってこないですか...?」
「え、えぇ。学園長の向けた報告書に書いたんですが、調査してるとしか、か、返ってきません...」
(まだつかめてないってこと?王国も調査のために動いてるのかな...)
この教師は学園に『怪しい男達がダンジョンに出たこと』と『その男達がモンスターを作ったと言ってた』と報告してもらったが、学園からの返答は「調査中」だった。これを聞きカイはより不信に思った。
「い、今現在はまだ学園だけで調べてるそうですが、そ、そろそろ王国も調査にさ、参加するそうです」
「そうなんですか。教えてくれてありがとうございます」
「い、いえいえ。カ、カイ君にはあの時救ってくれた恩がありますから」
その後、教師はダンジョン探索はどうだったか聞いてきたため、2階層まで行って帰って来たと話し、戦ったモンスターの感想などを話した。
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