第179話


 カイ達はダンジョンに入るための長蛇の列に並んでいた。その中にはいかにもかけだしと言われる冒険者が多くいたが、それ以上にベテランの冒険者達が並んでいた。

 かけだしと言われるダンジョンになぜこんなにも人がいるのか気になったカイ達は知って良そうなアルドレッドに聞く。

『かけだし』と言われるこのダンジョンだが、実際は好き勝手な名前で呼ばれており『初心者用』『初めてのダンジョン』とまだ呼ばれの良い名前から『稼ぎ』『餌』『夢』『賭け』など適当につけたような物まである。

 その名前に驚いている4人をアルドレッドとセレスが何とも言えないような顔で見ているとカイ達の番が来てなかに入ることが出来た。


 ダンジョンに入り魔力感知を使ってモンスターの場所を確認したが、たくさんの人がいたためほとんど戦闘しなかった。

 5階層まではゴブリンだけでボスもゴブリン10体程だった。6階層からオークで10階層のボスも5階層と同じでオーク10体だった。だがそのゴブリンとオークはさまざまで、素手の奴もいれば剣・槍・ハンマー・弓など様々な武器を持った奴もいた。カイ達も数少ない戦闘で様々なゴブリンとオークと戦い、先に進む中で捨ててある武器が多くあったため様々な種類がいると知ることが出来た。


 そして11階層に入ってから先程よりも人が多くなった。


「『初めてのダンジョン』って名前があっただろ。本当にこのダンジョンは優しいんだよ。それに出てくるモンスターもボス階層からボス階層まで一緒だしな」

「その後で『夢』とか『賭け』って言ったでしょ?そう呼ばれてる原因が20階層までにいるのよ」


 カイとミカは分からない顔をしたが、ルナとラウラは噂程度に聞いたことがあったため本当にいるのかと目を輝かせる。そしてラウラの目には心なしか金の文字が浮き出ていた。


「ここから20階層まではスライムの番でな。俺達も最初聞いた時は嘘かと思ったぜ。順番が逆じゃねぇかってな?まぁでもスライムの番なんだよ」

「でもスライムってお金にならないんじゃ…」

「それが1体だけ違うスライムがいるのよ」

「ゴールデンスライム…」


 ラウラがゆっくりと静かに重々しく言い放った言葉にアルドレッドとセレスは苦笑いを起こす。ルナはより一層目の輝きを強める。


「ほ、本当に!?見てみたいモンスターだよ!本当にいたんだ…」

「いるぞ。生きる伝説のモンスター『ゴールデンスライム』。倒すことが出来れば儲けもんだ。俺達も昔は倒そうとしたな…」


 聞いてラウラのやる気が体からあふれ出る。ただのモンスターではないと分かりカイとミカもつばを飲む。


「捕まえる」

「と、とにかく他の冒険者はそんな目的でここに来てるから大人数いるってわけだ。だがゴールデンスライムは簡単には見つけらんないんだよ。ダンジョンがほとんど生み出してないんだろうな」

「前に見つかったのはどのくらい前何ですか?」

「うーん…確か10年前だったか?」

「えっ」

「違うわ、4年前よ。騒がれたじゃない」


 そんな前だと思わなかったカイ達は口を開けて驚く。


「進みながら探す。探しながら進む。行こ」


 やる気に満ち溢れたラウラがずんずん進んでいくため、カイ達は慌てるようにして追いかける。


「ゴールデンスライムは無害なのよ」

「モンスターなのにですか?」

「そうよ。ただ逃げ足がとても速くて逃げ出したら誰にも捕まえられないのよ。だから見つけても騒がず、見つからないように近づかないといけないのよ」

「ゴールデンスライムってあの金色に輝いてるモンスターですか?」


 カイが指をさした方向には金色に輝くスライムがたたずんでいた。


「そうよ。あれがゴールデンスライムよ。魔法は全く効かないけど魔力を纏った状態で触ったらどんどん金塊になっていくのよ」


 皆で「へぇ~」と言って関心して固まっていると、すぐさまゴールデンスライムを見る。

 ラウラがすぐさま体勢を低くしながら音を立てないようにしてゆっくりゴールデンスライムに近づいて行く。


「捕まえられると思います?アルさん。アルさん?」


 隣にいるはずのアルドレッドを見ると、アルドレッドはセレスに話しかけて捕まえに行き、セレスはため息を吐いていた。


「どうする?俺はちょっと触ってみたいって思ったけど」

「私も近くで見てみたいかな。前から見てみたかったし」

「ラウラさんがあんなになるモンスターってちょっと気になる…。捕まえてくるね」


 ミカの言葉に2人が驚いて見る頃にはミカはその場にいなかった。そして魔力感知を使うと、ミカはゴールデンスライムの所に居り、ゴールデンスライムを抱えていた。


「すごいぷよぷよしてる。それにひんやりしてて気持ちいい」


 ミカはゴールデンスライムを抱えた状態でカイ達の所にゆっくり歩いて向かう。

 ゴールデンスライムばかりに注意を割いていたセレスとアルドレッドは呆気にとられた顔になる。ミカはそんな2人を無視して戻ってくる。


「ほらほら触ってみて!軟らかくて気持ちいいよ!」


 ミカがゴールデンスライムを前に出してきたためカイとルナも恐る恐る触って見る。

 そしてあまりの気持ちよさに手が離せなくなる。


「昔は逃げられたのに…」

「すげぇな」


 いつの間にか戻って来たラウラとアルドレッドの声が聞こえたためカイとルナはスライムから手を離す。


「ラウラさん達も触りませんか?」

「良いのか?」


 捕まえたミカが頷いたためラウラ達もゴールデンスライムを触る。


「で、どうするの?」

「どうするって?」


 カイの言葉の意味が分からなかったミカは首を傾ける。


「金塊にするの?捕まえたミカが決めないと」

「…可哀そうだけど倒すよ」


 ミカがそう言った瞬間にゴールデンスライムが金塊に変わっていく。

 金塊を抱えた状態になったため、カイが持っている袋に入れようとした所で問題が起きる。


「お、おいあれ…」

「まさかゴールデンスライムなのか!?」

「あの金塊そうだろ!」


 カイ達のことを見た冒険者達が騒ぎ出してしまった。


 この状況では探索しても出て来た時に待ち構えされてしまうと思ったため、カイ達は急いでダンジョンから脱出する。


 案の定カイ達が予想した通り、ゴールデンスライムが見つかったことでダンジョンの前にはたくさんの人が集まっていた。

 だが、その時にはカイ達は宿にいたため被害は受けなかった。

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