第180話


翌日、宿を出てみると騒ぎになっていた。もちろん騒ぎの内容はゴールデンスライムのことだが、実際に金塊を手に入れた冒険者が出てこないため人々は噂は本当なのか疑い始めていた。

そんな噂を無視しながら街を進むと男の怒鳴る声が聞こえる。


「実際に見たんだ!大量の金塊を抱える少女を!」

「俺達はしっかり見たんだ!」


カイ達が声のした方を見ると、2人の男が1人の男に叫び2人の後ろで1人が何度も何度も頷いている。叫ばれている男はそんなこと興味無いのか欠伸して耳をかきながらダルそうに聞いている。


「それで?俺はそんなん聞いてねぇぞ。そいつは誰だ?金塊はどこだ?」


男がそう言った瞬間に空気が変わる。その男から発せられる圧に空気が重くなり、顔色が悪くなる人、震える人、泣く人が現れる。


「お、俺達が分かるわけねぇだろ」


言い終わると空気がより一層重くなる。そのせいで地面に尻餅をつく人がちらほら現れる。カイ達も少しだけ空気に飲まれそうになるが、一歩手前で踏みとどまる。

すると突然その圧が無くなる。


「つっかえねぇな。近い内に金返せよ~」


そう言って男はフラフラとどこかに行ってしまった。そのため道端にいた人達のほとんどが地面に座り込む。


「…ただもんじゃねぇな」

「そうですね」


いつまでもここで動かないわけにもいかないためカイ達はダンジョンに向けて歩を向け始めた。




ダンジョンに着いたカイ達は周りを見る。

するとそこは前日の『かけだし』のダンジョンと違って人っ子一人いなかった。唯一いるのはダンジョンの前で警備をしている兵士達のみ。少し異様な空気を発するそのダンジョンにミカとルナはつばを飲む。


「ん?ダンジョンに入るのか?」

「はい。確認お願いします」


全員がそれぞれダンジョンに入るために身分証をだす。すると、確認した兵士は慌てて隣の兵士に耳打ちする。


「確認しました!あ、あのルナ様ですよね?」

「そうよ。もしかしてなにか問題あった?」

「問題なんてございません!ここで少し待ってもらって良いですか?」


呼び止めた兵士は血相を変えて急いで裏に走っていく。


「バレないように変えてたのに、バレたね」

「ルナの顔を知ってる兵士はたくさんいるから仕方ないわよ」


ルナの冒険者カードは冒険者ギルドに許可を貰い偽名にしてバレないようにしているのだが、顔を知っている物が見れば分かってしまう。

昨日の『かけだし』ではあまりの人の多さに兵士が顔をあまり確認してなかったからバレなかったが、今日の『虫』は人が全然いないために簡単にバレたのだ。

しかしバレたからと言って問題になることは無いので誰も心配はしておらず、のんびり待っていると裏からやり取りが聞こえる。


「バカ野郎!そんなに大量に持って行ったら逆に邪魔になるだろ!通常の量でいいんだよ!」

「で、でもよ、何かあったら…」

「ルナ様はお強いと聞くし護衛もいる。大丈夫だ!お待ちしてるんだから急ぐぞ!」


そんなやり取りが聞こえていると、兵士はカイ達の背中より少し小さいくらいの大きさのバックを持ってくる。その中には何か液体が入ってるような音が聞こえる。


「お待たせしました。実はこの頃ランクの低い冒険者が解毒薬を持たないで入ることが多いので低いランクの人に無料で解毒薬を配ってるんです。カイさんとミカさんとルナ様はGランクということなので持って行ってください」

「待ってくれ。解毒薬は俺達もしっかり持ってるし、こいつらは正直ランクと実力が釣り合ってねぇぞ?良いのか?」

「まぁ決まりですから、ぜひ受け取ってください。予備が会ったほうが良いと思いますので」


そう言って兵士はアルドレッドにカバンを押し付ける。受け取ったアルドレッドからカイに渡り、カイは目の前で袋の中に仕舞う。


「やはり魔法道具マジックアイテムをお持ちでしたか。あまりにも荷物が多いようでしたら渡さないんですが、やはり袋をお持ちでしたね。11階層からは毒を持つモンスターがいますので、お気をつけて」


受け答えしていた兵士が敬礼をすると、いつの間にか後ろに待機していた兵士達が一斉に敬礼をする。

それなりの数の兵士に見守られながらカイ達はダンジョンに入っていく。




1階層から10階層までは簡単に攻略が出来たため、カイ達は11階層にさっそく足を踏み入れる。すると先程まで洞窟のような見た目だったダンジョンが、木々の生えた森の中のような見た目に変わる。上を見ると太陽の様に輝いている物もあり、森の中にいるのと変わらない見た目だった。


「いつ毒を受けるか分からないから気を付けて」


ラウラの忠告を聞き、ダンジョンの内装が変わっていることに気を取られていたカイ達が集中し直す。

進んでいくと、さっそくモンスターが飛んで来た。ブーンと音を鳴らすそのモンスターは人と同じ大きさの蜂だった。

『ポイスンビー』と呼ばれるそのモンスターは腹部の先の鋭利でデカい針を持っていた。カイ達を見つけ「キシャアアア」と鳴くとその針の先から紫色の液体が1滴だけ出てきて地面に落ちる。液体が落ちた場所は草がみるみるうちに枯れて行き無くなる。

そんな状況でも全員ポイズンビーから視線は外さず、カイ達3人はすでに戦闘体勢に入っていた。


「刺されんなよ!いてぇ上に毒入れられるからな!」


アルドレッドがそう言うと同時に戦闘が始まる。

虫系のモンスターは熱に弱いと判断したカイが赤い氷を飛ばす。

熱を感知したポイズンビーはそれを急上昇して避けたが、足には当たり片足が無くなる。そのためか攻撃して来たカイに目標を固定する。高く飛んだポイズンビーがカイに攻撃するために急降下してきたためルナが水の塊を2発撃つ。ポイズンビーはそれを見ていたが、当たっても脅威ではないと考えたのか真っすぐカイに向かって行く。水の塊は2発とも当たりポイズンビーは軽くよろけるが、そんなことお構いなしにカイに向かって針を向けて突進する。カイだけに標的が集中する程逆上していたのだ。

カイとポイズンビーの距離が1m無いくらいになってから、ミカが槍を横にして高速移動を使う。次の瞬間ミカの姿は少し離れた所で先程と同じ姿勢で現れ、ポイズンビーの頭と体が分かれていた。


「初めてのモンスターだというのに連携バッチリね」

「ん。でもこのくらいのモンスターじゃ練習相手にもなってない」

「そうだな。まぁあいつらもいろんなダンジョンを見てぇんでしょう」


後ろに待機していた3人は何が起きても大丈夫なようにいつでも動けるようにしていたが、この程度のモンスターだったらかすり傷もしないだろうと思いながら見ていた。

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