第167話


 真昼の中、フラージュはアルゲーノス家の屋敷に向かう。真昼だが屋根を最高速度で走っているため、下にいる通りを歩いている者達にはバレずに向かうことが出来ていた。




 アルゲーノスの館に近づいたため物陰に隠れて確認すると、門番が2人しかいなかった。

 そんなに数が少ないことにフラージュは不審に感じながら、自分の姿を消してから静かに門を跳び越えて中に入る。


 音をせずに潜入したフラージュは、このアルゲーノス家の全てを魔力感知で確認する。すると、魔力の反応が大きく2つに分かれていた。

 1つは1ヵ所に大量の人数が集まっており、もう1ヵ所の方は1人が屋敷内を早く動いており、部屋から部屋に移動している。

 スカスカに空いている状況に好機だと思い、フラージュは魔法を解きしっかり確認しながら進む。




 フラージュは魔力感知を使いながら部屋を1つ1つ確認していたが、1人の方の反応ががフラージュと同じ様に部屋に入って何かしては、またすぐに出て他の部屋に入っていた。何が目的か分からない以上、この後で会っても厄介だと思ったため、相手の真意を確認するのを優先にした。


 フラージュは息を殺して次に入ってくると思った部屋に先回りで入っておく。

 数分経つと部屋に扉の前に反応が来たため、フラージュは自分の姿を消す。

 扉が開き男が入ってくる。男は入ってすぐに本棚に目をつけ見て行く。数冊取り出しては戻して、また次の本を流し読みで読んでいく。

 フラージュは姿を消したまま袋から槍を取り出し、男の背中に当たる寸前の槍を止める。


「ここで何をしてるのかな?」


 ただ静かにゆっくりとした声で話しかける。すると男は何も抵抗することなく持っていた本を元に戻し、両手をフラージュに見えるように上げる。


「ここに入った時は誰もいなかったはずなんですがね。いつの間に入ったんですか?」

「こっちの質問が先なはずだよ。ここで何してるの。それとも抵抗する?それは困るから止めてほしいんだけどなー。そっちも困るんじゃない?」


 男はため息をついた後でゆっくりとフラージュの方に振り返る。フラージュは握っている槍をより強く握る。


「私はあることを知るためにここに潜入しています。あなたも同じような物では無いですか?槍を下ろしてくれますか?」

「それはまだだよ。何をしてたの?詳しく教えなさい」


 フラージュが槍を喉元に槍を近づけても男は冷静のままでいる。すると男は懐に腕を突っ込む。フラージュは喉に向かって突きを出すが、男はそれを避けて離れる。


「容赦なく殺そうとしてきますね。全力で逃げさせていただきますよ。こちらには私の求めてる物はないようなので」

「何が欲しいのかな?ちょっと教えてほしいな」


 男は懐から短剣を取り出す。そしてそれをフラージュの向けたまま動かない。フラージュも槍を向けたまま動こうとしない。

 しばらく動かない状態でいると、先にフラージュが槍を下した。


「…ここで暴れられると困るからね。逃げるならどうぞ」

「何してるか聞こうとしてましたがいいんですか?」

「聞きたいけど話さないでしょ?それに手練れだと思ったから。ここで戦ったらこの部屋が荒れちゃうでしょ?そしたらアルゲーノスの人にバレちゃうからね」

「そうですね。それは私も困ります。では私はこれで…」


 男が部屋を出て行こうとすると扉に手をかけた状態で止まる。


「私はラクダレスと申します。あなたは?」

「…フラージュ。もう会わないと思うけどね」

「そうですかね?逃がしてくれるお礼に1つ伝えておきます。今この家の人達は雇っているメイドや執事なども含め訓練場のような場所にいるようです。ボロボロになっている人がそこに連れていかれるのを見ました。今から処刑を行うのだと思いますよ。それが終わ…」


 それを聞いたフラージュはラクダレスを突き飛ばし部屋から出て行く。突き飛ばされたラクダレスは尻餅をついたがすぐに立ち上がる。


(何だったんですかね?まぁ私には関係ないでしょう。それにこの貴族もハズレの様です。次に行きますか)


 ラクダレスは開いたままになっている扉を閉めてからその部屋の窓から飛び出る。




 2週間前のアルンの話しから今リンチされているのはおそらくアルンだ。そして前回は胴体を大きくバツ印に切られていた。もしかしたら今回は殺されるかもしれない。そう思ったら知らない間にフラージュは走っていた。自分も気づかない間に走っていたことに驚きを感じていたが、今はアルンに死んでほしくないと思っていたため急いで足を動かす。


 訓練場に近づいたため、フラージュは物陰に隠れる。


「おい、まだ死ぬな。こんなんじゃまだ足りないぞ」


 アルンの名前は聞こえた瞬間にフラージュの心臓が跳ねる。そしてすぐに冷や汗が出る。不安に思いながらフラージュが訓練場を除くと、アルンが立てられた木に縛り付けられていた。既に大量に暴力を受けていたのか顔は大きく腫れて血を流していた。幸いまだ剣で切られてはいないようだった。


「おい早く話せ。お前の傷は誰が治したんだ?治療系の魔法道具マジックアイテムが貴重なのはお前が1番分かってるだろ?それともまだ傷は自力で治したって言うか?」

「お、俺の治癒力すげーだろ?お前らに、切られた傷なんてなぁ、一瞬で治るんだよ」

「お前達」


 装飾がたくさんされた豪華な服を着ている男がそう言うと、兵士達がアルンのことを殴り始めた。フラージュは姿を消し、アルンに向かって走り出す。


「治るんだよな?なら試してみるか!」


 兵士の1人が剣を抜きアルンのことを切りつけようとする。周りの兵士が止めようとしたがその静止を振り切る。


 アルンに向かって振り下ろされた剣は突然空中で止まる。

 金属と金属がぶつかる音に全員が不快に思い嫌な顔をする。

 そのタイミングでフラージュが自分の姿を現す。ここにいる全員が驚く中、フラージュは目の前に兵士を切り伏せる。


「侵入者だ!殺せ!」


 その一言で他の兵士はフラージュに向かって魔法を撃ち始める。普通だったら大量の魔法を避けるが、今は後ろにアルンがいるため避けられない。フラージュは槍を持つ手に力を入れ、魔法を薙ぎ払い全て消す。

 魔法が一斉に消えたことに兵士達は驚いた顔を浮かべる。それでも数人の兵士はフラージュに斬りかかってくるが、フラージュはそのすべてを切り伏せる。


「この男は貰って良く」


 フラージュは仮面の能力を使い、声を男の物に変えて兵士と男に言う。フラージュのひと言に全員の警戒度が増す。フラージュは手のひらに光の球を作り、自分の前で破裂させる。すると辺り一面光に包まれた。突然のまばゆい光にその場にいた全員が目を瞑る。フラージュはその瞬間にアルンを縛っている縄を切り、アルンを抱えてその場を離れる。

 光が無くなる頃にはフラージュとアルンの姿は無かった。


「な!?探せ!侵入者もアルンも見つけ次第殺せ!」

「い、良いのですか旦那様?魔法道具マジックアイテムは…」

「くっ。アルンは生かして捕まえろ!ローブを着てる方が殺せ!」


 男が命令を出すと兵士達はあわただしく移動し始めた。




 アルンを抱えてるフラージュは屋敷から出ようとしていた。


「お、お前、何、もんだ。俺を、どうする」

「今は黙ってて」


 急いで逃げてアルンを治療しなければいけないと思っているフラージュはアルンのことを気迫で黙らせる。


「そうか、分かったよ。しばらく、寝かせて、もらうぞ」


 フラージュはアルンごと姿を消したため兵士に見つかることはなかった。そのため来た時と同じ様に門を跳び越えて逃げることが出来た。

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